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古池に蛙は飛びこまない【読書メモ】

古池に蛙は飛びこまない【読書メモ】

長谷川櫂氏の著書『古池に蛙は飛びこんだか』を読んだ。

夏井いつき先生のバラエティ番組のファンでなくとも、松尾芭蕉の名前は、日本人なら一度は耳にしたことがあるはずだ。その著書『奥の細道』は、優れた紀行文の一つとして、序文や「平泉」の章が現行の国語教科書に掲載されている。

松尾芭蕉の名句「古池や蛙飛びこむ水のおと」を中心的な題材として取り上げた本書では、なぜその句が名句と称えられるのか、また、その

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【高校編】国語教科書で読んだ作家の本!

【高校編】国語教科書で読んだ作家の本!

前回の記事に引き続き、今回の記事では、日本の多くの高校生が手にする教科書のなかで紹介される作家さんたちの、代表的な著物を紹介します。

学校の授業で扱われることの多い小説の作者による、教科書に掲載された作品を収録した作品集や、その他の有名な作品を収めた本を集めました。

一般的な本屋さんや図書館で手に取りやすく、持ち運びのしやすい、文庫本化された本を選んでいます。

文学をこれから読んで行きたいと

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【文学初心者向け】国語教科書で読んだ小説家の本〜中学校編

【文学初心者向け】国語教科書で読んだ小説家の本〜中学校編

まえがき今回の記事では、日本の多くの中学生が手にする教科書のなかで紹介される作家さんたちの代表的な著物を紹介します。

学校の授業で扱われることの多い小説の作者による、教科書に掲載された作品を収録した作品集や、その他の有名な作品を収めた本を集めました。

一般的な本屋さんや図書館で手に取りやすく、持ち運びのしやすい、文庫本化された本を選んでいます。

文学をこれから読んで行こうという方や、中学国語

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太宰治の愛した跨線橋〜三鷹文学散歩①〜

太宰治の愛した跨線橋〜三鷹文学散歩①〜



JR三鷹駅周辺を、太宰治関連の事物を巡りながらぶらぶら歩きました。

雨模様の日曜日でした。午前9時からだいたい12時過ぎまで。
およそ11000歩の、三鷹で暮らした大文豪をめぐる、小さな記録です。



日曜朝の三鷹駅は混んでいた。雨がぱらついていたが、駅を出る人びとは傘をたたみはじめていた。予報では、もうすぐ雨は止むらしい。

折りたたみ傘を鞄にしまい、南口のくだり方面への階段を降りる

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【歌詞和訳】ビートルズ“最後の新曲”『Now And Then』

【歌詞和訳】ビートルズ“最後の新曲”『Now And Then』

「Now And Then」

わかってる
ぜんぶおまえのおかげだよ
ぼくがうまくいくのも
ぜんぶおまえのおかげさ

でも時々は
初心にかえるべきなんだ
そして たしかめあうんだよ
ぼくがおまえを愛してるってこと

たまにね
さみしくなるんだ
ああ、だからさ
あんまり遠くへ行かないでくれよ
いつでも帰ってきてくれよ

わかってる
ぜんぶおまえのおかげだよ
おまえがどこかへ行ってしまったら
わかって

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受験生と詩を学ぶ ~詩と「対話」について、国語教師として考えたこと

受験生と詩を学ぶ ~詩と「対話」について、国語教師として考えたこと

国語の授業の一環で、生徒さんと詩を作った。

フリースクールでの授業は、科目名こそ「国語」だが、受験対策のようなことはしない。暗記や読解にほとんど時間を割かないのは、生徒さんが受験を「あきらめている」からではなく、むしろ反対に、それ以上のもの、言い換えれば、受験をクリアしたあとの社会生活のなかで真に必要とさえる力をつけることを求めているからだ。そしてこちらもそれを提供したいと考えているからだ。

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【夏休みの読書感想文に!】おすすめの本30選〜中学生・高校生向け

【夏休みの読書感想文に!】おすすめの本30選〜中学生・高校生向け

1、「教育」に関心がある人へ…………西岡常一ほか「木のいのち木のこころ〈天・地・人〉」

法隆寺を守りつづける宮大工が代々継承してきた技術と精神。その伝統を“伝説の宮大工”西岡常一が語る。「教育」に関心がある人にはもちろんのこと、学校が好きな人にも、嫌いな人にも、ぜひ読んでほしい本。人を「伸ばす」ことと木を「育てる」ことの共通点とは。

2、「プロ野球」が好きな人へ…………佐々木健一「神は背番号に

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【短編小説】『簪(かんざし)』

【短編小説】『簪(かんざし)』

 こんな空の色にも、立派な名前がついていることを菜津子は知っていた。

 三日三晩降りつづいた秋雨がやんだ。やんだはいいが、黄昏の空には象のお腹みたいに硬くて分厚い雲がいっぱいに残っていた。

 思い出すのもこんな空模様の夕方のこと。

 学校から大急ぎで帰った、当時八歳の菜津子を玄関で迎えてくれたのは祖母だった。

「なっちゃん、おかえり。まあ、傘もささんと!」

「ただいま、おばあちゃん! 雨

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【学校教育・国語】「教育は罪悪ですよ 〜教科書から『こころ』が消える!?〜」

【学校教育・国語】「教育は罪悪ですよ 〜教科書から『こころ』が消える!?〜」

さよなら『こころ』

 高校国語の教科書から『こころ』が消えた。いつかはその日が来ることを予感していなかったわけではないけれど、私は思い入れのある定番教材のあっけない退場に、少なからずショックを受けている。

 この春、国語の教科書が大幅に改訂された。変更の内容はずいぶんまえから議論の的となっていたが、とくに話題をよんだのは、いわゆる「文学的文章」の扱いについてだ。

 新学習指導要領の必修科目は

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「蝶とショパン」【短編小説】

「蝶とショパン」【短編小説】

 鈴子がショパンのワルツを弾いていると、窓辺の光の束がわずかに揺れた。カーテンをそよがせて、夏の風が吹いたのだ。それだけではない、風に乗ってひらひらと一羽の蝶が音楽室に迷いこんだ。鈴子はピアノを弾いていた両手の指の動きをとめた。

「こんにちは、アゲハ蝶さん」

 ショパンの残響のなかにアゲハ蝶は舞った。空気のかすかな振動を丁寧に羽で受けとめて、それに全身をあずけたような儚い舞姿だった。

 鈴子

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伊豆文学賞の優秀賞を受賞しました。

伊豆文学賞の優秀賞を受賞しました。

このたび、私の書いた『ぐるぐる』という掌編小説が、第25回伊豆文学賞の優秀賞をいただきました。

掌編部門ということで、『ぐるぐる』は原稿用紙7枚に満たない小品です。伊豆の海を舞台に、心の傷をかかえた兄妹の小旅行を描いています。

昨年の春、伊豆へ旅行をした際に着想を得、夏に脱稿しました。短いお話ですが、構想を練る段階から完成に至るまで、それなりに長い時間を要した作品なので、高い評価をいただけたこ

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「初心者のための、リアリズム文学としての『源氏物語』」 【文学エッセイ】

「初心者のための、リアリズム文学としての『源氏物語』」 【文学エッセイ】

 《英語で「ファンタジー」と「リアリティ」というふうにしていちおうみんなが区別していることが、いっしょになっている、重なってひとつの現実として語られているというのが、あのころの物語ではないかと私は思います。》

 上記は、1995年に行われた、絵本・児童文学研究センター企画のシンポジウムのなかで、臨床心理学者の河合隼雄さんが語った言葉。

 「あのころ」とは平安時代を示している。平安時代の文学、そ

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【ビートルズは文学である】歌詞和訳 #1『Here, There and Everywhere』

【ビートルズは文学である】歌詞和訳 #1『Here, There and Everywhere』

『Here, There and Everywhere』

人生を
ちょっとだけよくするために
愛をここに

この場所で
365日をともに歩む
君が手を振るたびに
僕の人生は揺れ動く
この絆をだれが
笑ったりできるだろう?

その場所で
僕の指が君の髪をなでるたび
僕たちは僕たちの
素晴らしい未来のことをかんがえる
誰かが君に声を掛けるけど
君はそれに気づきゃしない

どこにいたって
君にそばにい

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【エッセイ】 『感性豊かな日本人は「自然」を知らなかった』

【エッセイ】 『感性豊かな日本人は「自然」を知らなかった』

 昨年の八月、noteにて『源さんと蛍』という掌編を発表した。蛍の放つ光や田舎の夜の「闇」のもつ幻想性に私なりの想いを馳せた作品だ。私は香川県の東側——讃岐の東なので「東讃」とよばれている——の、田畑と緑が繁茂する風景のなかで育った。だから、私にとって、自然の営みに授かる感受は、自分の文学の根幹といってもいいくらいだ。

 まっくら闇のなかに漂う蛍の灯は、日本人の情緒そのもののように儚く、美しい。

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