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短編小説

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2021年12月の記事一覧

葡萄を原料としないワイン【短編小説#23】

葡萄を原料としないワイン【短編小説#23】

今年も女王は造り手達に、あるワインの製造を依頼しました。
そのワインは葡萄ではなく、今年収穫した「罪」で製造します。

ボジョレー・ヌーヴォーと同じ、マセラシオン・カルボニック製法です。
密閉タンクに、炭酸ガスを充満させ、通常は葡萄を入れるところに今年収穫した罪を入れて放置します。

そうすると、罪は自己消化し始め、渋みタンニンの溶出を抑えながら、色素を効率よく溶出させます。その際、罪によって色素

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何も知らない案内ガイド【短編小説#22】

何も知らない案内ガイド【短編小説#22】

旅行中にふらっと立ち寄った美術館。ある画家の作品が飾られている。

画家について詳しいことは知らなかったので、解説を聞きながら巡回しようと案内ガイドをつけようと思った。すると、サービス欄に「何も知らない案内ガイド」という項目があった。

「これは何ですか?」と受付係の方に尋ねると、

「何も知らないガイドさんと一緒に巡回していただきます。」と返事があった。

何か面白い気付きがあるかもしれないと思

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みくさんの好きなところ【短編小説#21】

みくさんの好きなところ【短編小説#21】

「たかひろさんは、みくのどこが好きなの?」

「ちょっとお母さん、辞めてよ。恥ずかしいじゃん。」

「いいじゃない。お父さんも聞きたいよね?」

「少し恥ずかしい気もするが、お父さんも聞きたいな。」

「もーー。」

「みくさんのお父さん、お母さんの前でお話するのは大変にお恥ずかしいのですが、折角なので。

 まず、みくさんのよくしゃべる所が好きです。先日も楽しいことがあったと、会って早々会話をし

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2人の異教徒【短編小説#20】

2人の異教徒【短編小説#20】

罰論を唱える二人の異教徒がいた。
自身の信仰こそ、最高の教えであると各自が豪語しており、
それに反すると罰が当たるぞと、互いに脅し合っていた。

そんな異教徒二人が、一人の頑固おやじを取り合った。
互いに自身の信仰する教えに帰依させようと、強情に教えを説いていたが、頑として、おやじは承諾しなかった。

「馬鹿馬鹿しい。俺は自分自身を強く信じている。そんな教えは必要ない。」

しかし、しつこく二人の

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シン・鶴の恩返し【短編小説#19】

シン・鶴の恩返し【短編小説#19】

昔、昔あるところに貧しかったけど、徐々に裕福になりつつあるおじいさんとおばあさんが住んでいました。
ある寒い雪の日、おじいさんは罠にかかっている一羽の鶴を見つけました。

「おやまぁ、可愛そうに。さぁさぁ、はなしてあげる。これから気をつけるんだよ。」
手馴れた手つきで鶴を罠から逃がしてやると、鶴は山のほうに飛んでいきました。

家に帰ると、おじいさんはおばあさんに
「罠にかかった鶴を助けたよ。今日

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世界共通の国歌【短編小説#18】

世界共通の国歌【短編小説#18】

世界共通の国歌を決めるプロジェクトが始動した。
が、議論は想定通り荒れに荒れた。

中国は自分たちが1番人口が多いのだから中国語の曲にせよと訴えた。一方で、インドはいずれ人口トップになるのだから、当初からインド音楽にすべきだと訴えた。

また、世界で1番歌われている「Happy birthday to you」の曲にしようとアメリカが提案したが、信憑性がないとロシアが即座に却下した。

著作権やお

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流れ星の正論【短編小説#17】

流れ星の正論【短編小説#17】

全く勘弁して欲しいね。
願いを託されてる身にもなってほしいよ。

だいたいね。みんな勘違いしている。
俺ら流れ星に願い事しても意味ないんだよ。

俺も詳しく知らないんだけどさ、なんでもルーツがあるらしくて、旧約聖書に書いてるらしいのよ。

神様が天国のドームを開けて地上の世界を見守る時に流れ星が流れるって。

だから、俺らじゃなく、天国にいるとかいう神様に願い事をしなくちゃいけねーのよ。

それを

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大人には見えない色【短編小説#16】

5歳の少女は、お母さんが買ってくれる挿絵に、絵具を使って色塗りをすることが大好きだった。

大好きだったのだが、最近は苦しんでいる。
何に苦しんでいるかというと、色に苦しんでいるのだ。

最初はお母さんの言うとおりに、海を青い色に、空を水色に、葉っぱを緑に、地面を茶色に塗っていれば良かった。でもだんだんと、自分が日常見ている色とは異なることに気づき始めた。

これはもう、自分で色を見つけるしかない

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人間ってのは馬鹿だ。【短編小説#15】

人間ってのは馬鹿だ。【短編小説#15】

「人間ってのは根本的には馬鹿だね。本当に賢いなら、なぜそこまで馬車馬のように働いてるんだい。」

茶トラ猫はゴロンと体をひねった。相変わらず床で寝ている。

「俺ら猫は徹底して働きたくないから、人間の傘下に入ったんだ。全く良いもんだぜ。なんせ寝てるだけで飯は出る。狩りに出る必要なんかこれっぽっちもない。」

茶トラ猫は大きく欠伸をした。

「それに比べちゃあ、人間は自分で生きるために働かなくちゃい

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電車で釣りをする青年【短編小説#14】

青年は電車の中で釣り糸を垂らしていた。

窓を見ながら、冬の15時の空はなんだか寂しい色をしていると思った。

すると、隣りに座っていたおじいさんが声をかけてきた。

「どうですか、釣れそうですか。」

釣り糸を垂らしているが、ずっとひっかからないと答えた。何かが釣れそうな気がする。いや、釣れると信じている。が、まだ釣れそうにない。

「この先、この電車は海の上を走りますよ。そこまで行くと釣れるか

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かわいい子には旅をさせよ鑑定士【短編小説#13】

かわいい子には旅をさせよ鑑定士【短編小説#13】

受付:「次の方どうぞ〜〜」

鑑定士:「はいはい、いらっしゃい〜。どちらを鑑定するのかな?」

子連れの母:「今日一緒に連れてきた、6歳になるこの子なんです。少し早い気がするのですが、早いに越したことはないと思いまして。いかがでしょうか。」

鑑定士:「ほほ〜〜これはかわいい子ですなぁ。僕名前はなんていうの?」

子供:「たかひろっていいます。」

鑑定士:「そうかいそうかい〜。お母さんのことは好

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青紅葉とウサギ【短編小説#12】

青紅葉とウサギ【短編小説#12】

 青紅葉という言葉を知った。まだ紅葉しないカエデを意味するらしいのだが、通常結びつかない”青”と”紅葉”という言葉が組み合わさっていたので、印象に残った。

 青という言葉は、青二才、青臭い、青瓢箪など”未熟である”ことを意味する際によく使われる。

 一方で、「青は藍より出でて藍より青し」の青は、藍よりも青いことから、弟子が師匠より優れていることを意味する。青二才とかの青とは全く逆の意味である。

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告白【短編小説#11】

告白【短編小説#11】

学年1の美人”朝陽”から、”結城”は呼び出された。これは間違いなく告白。結城はニヤつく表情と、思わず叫び出したいところをぐっと堪え、なんとかギリギリのところで平静を保っていた。ここはあくまでも冷静に、「どうした?何かあったかい?」という、中学生なりの大人の余裕を醸し出そうと決めた。

ところが自体は思わぬ方向へ進んでいた。
以下は、学校の屋上での会話である。

結城「え?、、、、、今なんて?」

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味音痴1-グランプリ【短編小説#10】

味音痴1-グランプリ【短編小説#10】

昔田(司会):「今年一年の味音痴一位を決める、味音痴-1グランプリ。いよいよファイナルラウンドです。予選6082名の内、味音痴の頂点が決まります。」

下戸(司会):「ファイナルラウンドでは、残った3名が、一名ずつ目隠しをした状態で試食をおこない、味の感想と料理名を答えます。全員が終了した後、8人の審査員が1番味音痴だと思う人に1票を投じ、最も点数の高かった人が、味音痴の王者に輝きます。」

昔田

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