マガジンのカバー画像

よすけの短編小説まとめ

75
書いた小説を投稿した順にまとめています。短いのから長いの。暗いものから明るいものまで。ほっと一息つけるように。
運営しているクリエイター

2022年12月の記事一覧

【短編小説】ほえっほよ

【短編小説】ほえっほよ

1,577文字/目安3分

 雲はゆっくりと形を変えながら、どこまで続くかわからない空の中を進む。まるでわたあめのよう。太陽は流れる雲に時々隠されながら沈んでいき、一日を終えようとしている。
 この時間のパンは腹に膨れやすい。今にも爆発しそうだ。ああ、お腹がすいた。

 それはそうと、今夜は家の階段を登らないといけない。登ったら降りないといけない。降りたら手をあわせていただきます。その時はパンだけ

もっとみる
【短編小説】色をつける

【短編小説】色をつける

635文字/目安1分

 また一つ、作品を送り出すことができた。

 もちろん楽しさはある。そうじゃなかったらやっていられない。だけど、時々すごく苦しい。頭の中にあるものが、描くものが、なかなか落ちていかないから。もどかしい思いをするから。

 そうまでして、なぜつくるのか。いつも考える。自分が何かを残す意味はあるのか。

 ある時、声が自分のもとに届く。例えば、温かい。例えば、切ない。自分の作品

もっとみる
【短編小説】かけら

【短編小説】かけら

938文字/目安2分

 気晴らしにベランダに出ることにも、寒さのせいで身構えるようになってきた。
 だけど、部屋の中にずっといたら自分が腐っていく気がする。わざわざコートなんかを着て、マフラーもして、淹れたばかりのコーヒーを片手に窓を開け外に出た。

 冷たい空気が、ぴしぴしと体にあたる。
 ほう、と息を吹けば、白く舞い上がって風に溶けていく。
 目の前に高い建物はない。町を見渡せるこのベランダ

もっとみる
【短編小説】漂

【短編小説】漂

535文字/1分

 ここのところ、かなりメンタルがやられている。そう思えるくらいには正常。でも、普段ほとんど浮き沈みがないから、落ちた時の戻り方がわからない。

 一日終える時の疲労感が半端じゃない。

 休んでも休まらない。考えていないのに頭がまわっている。心がずっとざわざわしている。意識してしまうと一気に疲れる。

 全部置き去りに、ただ息をして朝と夜を繰り返すのが楽。なかなかできることじゃ

もっとみる
【短編小説】坂道のひとりごと

【短編小説】坂道のひとりごと

1,687文字/目安3分

 家の近くにものすごい坂道がある。

 自転車に乗ったままじゃまず登れないし、押して登ってもかなりきつい。昔はこの坂を途中で降りずに登れるかっていうのを何度もやっていたけど、ダメだった。下る途中でつまづいたらそのまま下まで転がっていっちゃうような、そんな坂。車がなんとかすれ違って通れるくらいの広さ。急ってだけでなんでもないただの坂だけど、私にとって馴染みの深い坂。

もっとみる
【短編小説】日常

【短編小説】日常

485文字/目安1分

 早起きは三文の徳って?

 そんなことは知ってるよ。本当にいいことがあるかは知らないけど、朝の五分と夜中の一時間は同じくらいの価値があるよ。
 朝起きて支度して家を出るまでの時間と寝ようと思って布団に入るまでの時間はだいたい一緒だよ。むしろ布団に入るまでの時間の方が長いよ。なんなら布団入ってから寝るまでなんかもっと長いよ。体感はほんの数分なのにさ。

 五分早く家を出られ

もっとみる
【短編小説】幸せのかたち

【短編小説】幸せのかたち

3,870文字/目安7分

「幸せに形があるとしたら、きっと三角形だよ」

 口癖のように話す彼女の言葉の意味が、当時小学四年生だった僕には分からなかった。
 住んでいるところは町にもならないような田舎だった。近所に歳の近い子が他にいないからと、ことあるごとに遊びに連れ回された。山へ虫を捕まえに行ったり、知らない細い道をどんどん入って行ったり、お互いの家の敷地全部を使ってかくれんぼをしたり。かくれ

もっとみる
【短編小説】ストレート

【短編小説】ストレート

621文字/目安1分

 長くて綺麗な黒髪が好きだ。

 短いのよりも、パーマよりも、茶髪でも金髪でも、何よりも黒髪ストレートがいい。

 前の席に座っている、あの子のことが気になって仕方がない。見ただけで分かる、さらさらでつやつや。完全に俺好み。ベストでドンピシャ。
 背中までまっすぐ伸ばしたその髪はうっとりするほどで、思わず触りたくなってしまう。

 朝、教室に入った時も、授業中も、お昼を食べ

もっとみる
【短編小説】二人の物語

【短編小説】二人の物語

1,880文字/目安3分

 波の音は静かに、時間の経過を忘れさせる。コンビニでアイスコーヒーを買って、浜辺で海を見ながら過ごすのがわたしたちの定番になっていた。石段に並んで座って、なんでもないことばかり話す。コーヒーを飲み終えても、氷が溶け切っても、日が暮れるまでおしゃべりをする。

「わたしたち、これからどうなるかな」
「そうだなぁ、案外何も変わらないんじゃないか?」
「よくそんなことが言える

もっとみる
【短編小説】ここにいる理由

【短編小説】ここにいる理由

1,818文字/目安3分

 一年前に事故で死んだはずの彼が突然帰ってきた。どういうわけか全然分からないけれど、確かにそこにいる。話せる。触れる。体温を感じられる。一緒に食事もできる。

 朝起きてリビングに出ると、彼はキッチンに立っていた。やっぱりいる。今までそうしてきたように、そしてこれからも続くように、当たり前のように、確かにそこにいる。
 彼は食パンをトースターにセットしていた。一緒に暮ら

もっとみる
【短編小説】ここにいる、ここにいて

【短編小説】ここにいる、ここにいて

1,807文字/目安3分

 仕事から帰って、晩ごはんの支度を始めようとしたら、彼が突然帰ってきた。
「ただいま」
 そう言っていつもやっているかのように、傘を置いて、上着を脱いで、部屋へ着替えに行った。
「あ、おかえり」
 遅れてその後ろ姿に声をかけたけど、間抜けな声しか出てこなかった。
 平静を装って、料理の準備に戻る。今日は二人分作らなくちゃ。

 彼が部屋から出てきて、わたしの隣に立つ。ふ

もっとみる