【短編小説】色をつける
635文字/目安1分
また一つ、作品を送り出すことができた。
もちろん楽しさはある。そうじゃなかったらやっていられない。だけど、時々すごく苦しい。頭の中にあるものが、描くものが、なかなか落ちていかないから。もどかしい思いをするから。
そうまでして、なぜつくるのか。いつも考える。自分が何かを残す意味はあるのか。
ある時、声が自分のもとに届く。例えば、温かい。例えば、切ない。自分の作品に対して、思いを言葉にしてくれる。
そういう時に、初めて気づくのだ。これは温かい作品だ。これは切ない作品だ。
意識せずにつくるから、自分でも見えていなかった部分を見せてくれる。見る方法を教えてくれる。
振り返れば日常でもそうだ。
怒っていると言われて、初めて自分が怒っていることを知る。嬉しそうと言われて、初めて嬉しいのだと知る。自分ではあまりそう思ってないから、自分に対しても驚きがある。
いつも人に気づかされている。きっと自分自身の心の動きに無頓着なのだろう。
自分の作品を世に送り出す時、それは無色透明だ。人の目に触れて、その心が動いて色づく。
触れる数が多いほど、カラフルになるほど、名作になるのかもしれない。
苦しい思いをしてつくり続ける理由はもしかして、自分に色をつけてほしいからなのかもしれない。
自分は何者でもないから、何者にもなれないから、誰かに示してもらいたいのかもしれない。
それならば。もし、誰にも色をつけられなかったら。好きな色ではなかったら。
この話には、続きがあるのだろうか。
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