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歴史本書評

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オススメ歴史本の読書記録。日本史世界史ごちゃ混ぜです。
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#勉強

【書評】松尾謙次『日蓮』(中公新書)

【書評】松尾謙次『日蓮』(中公新書)

 日本史の教科書の鎌倉時代の章では、新しい仏教の開祖と宗派に字数が割かれています。
 法然の浄土宗、親鸞の浄土真宗、一遍の時宗、道元の曹洞宗、栄西の臨済宗、日蓮の日蓮宗(法華宗)……という組み合わせを嫌々暗記した人も多いと思います。

日蓮の激しい他宗批判 その中でも、日蓮はかなり強烈な個性を放っています。日蓮は、法華経こそ仏の最上の教えであるとし、「南無妙法蓮華経」の題目を唱えれば救われると説き

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文学からパレスチナ問題を知る②〜「路傍の菓子パン」

文学からパレスチナ問題を知る②〜「路傍の菓子パン」

前回はこちらです。

 パレスチナを代表する文学者であるガッサーン・カナファーニー作品の日本語訳は、河出文庫の「ハイファに戻って/太陽の男たち」に7編が収録されています。今回は、同書の収録作品のうち、「路傍の菓子パン」という短編を紹介します。

ダマスカスでの生活 1948年、故郷パレスチナを追われた難民たちは、近隣の国々で暮らすことになりました。ガッサーン・カナファーニーの一家は、シリアの首都ダ

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【書評】『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(岩波書店)

【書評】『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(岩波書店)

 SNSやYouTubeなどでは、しばしば「ナチスは良いこともした」という話を見かけます。

 第二次世界大戦を引き起こし、ユダヤ人の虐殺を行ったナチスは、学校ではもちろん悪として教えられます。

 一方、歴史教科書では研究の進展に伴って記述が変わることがあります。教科書の内容が絶対というわけではありません。

 また、「学校では教えない(教科書には書いてない)○○」というコンテンツには一定の需要

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【書評】『失敗の本質――日本軍の組織論的研究』(中公文庫)

【書評】『失敗の本質――日本軍の組織論的研究』(中公文庫)

 第二次世界大戦で、日本はなぜ敗北を喫したのか。大戦中(ノモンハン事件を除く)の6つの失敗事例を取り上げ、経営学・組織論の視点から分析した名著です。

「失敗の本質」の特色 第二次大戦期に日本が犯した失敗といっても、いくつかのレベルに分けられると思います。
 例えば、
・国力差の大きいアメリカと戦争に突入した。
・中国との和平の道を閉ざした。
・ソ連の裏切りを見抜けなかった。
 など、上位の国家戦

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【書評】網野善彦「『日本』とは何か」(講談社学術文庫)

【書評】網野善彦「『日本』とは何か」(講談社学術文庫)

 網野善彦氏の語る「網野史学」は、広範な学識と柔軟な発想力に支えられています。

 私たちが普通に使っている「日本」「日本人」という言葉は、実はあいまいさに満ちています。北海道や沖縄が近代以前は日本の国制のもとになかったことは常識です。しかし、本州・四国・九州が同質な文化を持っていたことを意味するものではありません。

日本は閉鎖的な島国か 日本は四方を海に囲まれているため、大陸から独立して文化を

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【書評】菊池秀明「中国の歴史10 ラストエンペラーと近代中国」(講談社学術文庫)

【書評】菊池秀明「中国の歴史10 ラストエンペラーと近代中国」(講談社学術文庫)

 4000年の悠久の歴史を誇る中国。今やアメリカと並ぶ超大国となった中国は、自らの歴史に高いプライドを持っています。

 一方、19世紀半ばのアヘン戦争以降の中国近代史は、中国人にとって極めて苦い記憶となっています。列強の侵略を受け、清の滅亡後も動乱が続き、日本との戦争によって大きな被害を受けました。

 本書は、日本とのかかわりも深い近代の中国史の概説書です。1940年のアヘン戦争から、1936

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【書評】桜井万里子・本村凌二『世界の歴史5 ギリシアとローマ』(中公文庫)

【書評】桜井万里子・本村凌二『世界の歴史5 ギリシアとローマ』(中公文庫)

 いうまでもなく、ギリシアとローマは西洋文明の源流です。現代日本の制度や価値観は西洋に負っているものも多いため、間接的に私たちの源流であるともいえます。

 とはいえ、空間的にも時間的にも遠いギリシアやローマの歴史を学ぶのはハードルが高い面があるのも事実です。本書は、そうした古代地中海世界の歴史を学ぶのに格好の入門書であると言えます。

 長大な歴史を一冊にまとめているため、やや駆け足の説明になる

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【書評】清水唯一朗『原敬』(中公新書)

【書評】清水唯一朗『原敬』(中公新書)

 歴代総理大臣の中でも、「平民宰相」原敬の知名度は高い方でしょう。中学校の歴史教科書にも、大正時代に「初の本格的な政党内閣を率いた首相」として登場します。

 しかし、原が具体的にどんな業績を残したのかを知っている人は多くないように思います。また、「初の"本格的"政党内閣」の「本格的」とはどういうことかも気にならないでしょうか。

 原敬個人の業績だけでなく、近代日本が歩んだ政党政治の歩みを知るこ

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【書評】ニコラス・スパイクマン「平和の地政学」(芙蓉書房出版)

【書評】ニコラス・スパイクマン「平和の地政学」(芙蓉書房出版)

 今世紀に入ってブームとなった感のある地政学。今や、書店には「地政学」を冠した本が数多くあります。私も最近、下記の本に関わりました。

 手に取りやすい本で入門するのはいいことですが、やはり古典的な書物を読んだ方が本当の教養につながるでしょう。

 とはいえ、地政学の祖とされるマハンやマッキンダーの著作は、一般にはハードルが高いように思われます。マハンの文章は非常に難解ですし、マッキンダーの著書は

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【書評】木村裕主『ムッソリーニ ファシズム序説』(清水書院)

【書評】木村裕主『ムッソリーニ ファシズム序説』(清水書院)

 第一次世界大戦後にドイツ・イタリアや日本などでおこったファシズム(全体主義)は、第二次世界大戦の惨禍を引き起こしました。その歴史から現代人が学ぶことは多いはずです。

 しかし、ヒトラーの関連書が無数に手に入るのに比べ、彼と双璧をなすイタリアのムッソリーニの評伝は、日本語では意外と多くありません。

 学校の歴史の授業だと、ムッソリーニはヒトラーの添え物のように扱われている感じは否めません。しか

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【書評】萩原淳『平沼騏一郎』(中公新書)

【書評】萩原淳『平沼騏一郎』(中公新書)

 1939年8月、敵対していたはずのナチスドイツとソ連が突如独ソ不可侵条約を結び、世界を驚かせました。
 日本の平沼騏一郎内閣も衝撃を受け、「欧州の天地は複雑怪奇なる新情勢を生じた」とする声明を発して総辞職しました。

 一般的に、平沼騏一郎の名は「欧州情勢は複雑怪奇」という「迷言」とともに記憶されています。もう少し詳しい人でも、右翼的思想の持ち主であったこと、戦後A級戦犯として裁かれ終身刑になっ

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【書評】柴裕之『徳川家康 境界の領主から天下人へ』(平凡社)

【書評】柴裕之『徳川家康 境界の領主から天下人へ』(平凡社)

 来年の大河ドラマの主人公である徳川家康。創作の中では、「人質から天下人になった苦労人」「信長や秀吉に信頼された律儀者」「豊臣家を滅ぼした陰険な狸親父」など、一定のパターンで描かれているようです。

 しかし、近年の研究の進展により、古い家康像は書き換えられています。2017年刊行の本書も、そうした成果の一つといえるでしょう。

「境界の領主」としての徳川家康 本書の副題で、繰り返し出てくるキーワ

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【書評】小泉悠『現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書)

【書評】小泉悠『現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書)

 ロシアによるウクライナ侵攻により、ロシアの軍事戦略についての関心が高まっています。著者はロシア及び軍事の専門家でもあるため、この分野を学ぶには外せない一冊でしょう。

 本書は2021年5月の発行です。ウクライナ侵攻より前ですが、余計な先入観なしに書かれているという長所があります。

 軍事の用語は無味乾燥な略語であることが多いのですが、本書は一般向けにできるだけ易しく書かれていると感じました。

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【書評】中川裕「アイヌ文化で読み解く『ゴールデンカムイ』」(集英社新書)

【書評】中川裕「アイヌ文化で読み解く『ゴールデンカムイ』」(集英社新書)

 今年大団円を迎えた『ゴールデンカムイ』は、アイヌの文化を詳細に取材していることで知られています。アイヌ文化の認知度向上に大きく貢献したといっていいでしょう。

 本書は、『ゴールデンカムイ』でアイヌ語監修を務める専門家による解説書です。

『ゴールデンカムイ』はアイヌ文化に対してリスペクトの念を持っていますが、あくまでフィクションのため架空の習俗なども書かれています。なので、実は『ゴールデンカム

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