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歴史本書評

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オススメ歴史本の読書記録。日本史世界史ごちゃ混ぜです。
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【書評】六反田豊「一冊でわかる韓国史」(河出書房新社)

【書評】六反田豊「一冊でわかる韓国史」(河出書房新社)

 日本の隣国、韓国(朝鮮)の歴史については、義務教育である中学の歴史教科書にも触れられています。

 古代には新羅・百済・高句麗が成立し、新羅が統一。その後、王朝は高麗、朝鮮王朝となりますが、近代には日本の植民地支配を受けます。日本の支配から解放されてからは、南北に分断されて激動の歴史をたどります。

 しかし、高校レベルの日本史や世界史では、朝鮮史についてあまり深く学ぶことはありません。

 筆

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【書評】梅原郁「文天祥」(ちくま学芸文庫)

【書評】梅原郁「文天祥」(ちくま学芸文庫)

 チンギス=ハンが建国モンゴル帝国は、ユーラシア大陸の広大な地域を征服しました。5代フビライ=ハンは国号を中国風に「元」と改め、2度にわたって日本を攻めたことで有名です。

 2度の日本襲来(文永の役・弘安の役)の間にあたる1279年、元は中国の南側を支配していた南宋を滅ぼしました。

 本書は、その南宋に仕え、国の滅亡に殉じた忠臣・文天祥の生涯を扱っています。

 文天祥は、1256年に科挙に首

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【書評】平山優「武田氏滅亡」(角川選書)

【書評】平山優「武田氏滅亡」(角川選書)

 武田信玄(晴信)といえば、最も人気の高い戦国大名の一人です。「最強の戦国武将」系のアンケートでは必ず上位に来るといってもいいでしょう。

 しかし、信玄の死(1573年)からわずか10年足らずで、後継者の武田勝頼は織田信長によって滅ぼされます。

 「最強」だったはずの武田氏は、なぜあっけなく滅亡したのか。本書は、勝頼の家督継承から滅亡までを丹念に描いた700ページ超の労作です。

 父・信玄の

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【書評】岡真理「ガザに地下鉄が走る日」(みすず書房)

【書評】岡真理「ガザに地下鉄が走る日」(みすず書房)

 2023年10月7日、ハマスがイスラエルに大規模なテロ攻撃を行いました。これをきっかけとして、ガザ地区へのイスラエルの攻撃が始まり、現在も人道危機が続いています。

 なぜ、ハマスはイスラエルの報復があると知りながら残忍なテロ攻撃を実行したのか。そもそも、なぜパレスチナ問題は解決しないのか。

 この疑問へのヒントとなるかもしれない書物が、この「ガザに地下鉄が走る日」です。

 日本での報道を見

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【書評】ラス・カサス「インディアスの破壊についての簡潔な報告」(岩波文庫)

【書評】ラス・カサス「インディアスの破壊についての簡潔な報告」(岩波文庫)

 先月、Mrs.GREEN APPLEの新曲「コロンブス」のMVがyoutubeで公開され、激しい批判を受けました。

 曲はよかったのですが、問題は動画でした。メンバーが西洋の偉人に扮し、類人猿に色々なことを教える…という内容が「人種差別的ではないか」と批判されたのです。
 
 このMVが不適切だったのは、「コロンブスのアメリカ大陸到達」の歴史的評価の変化にあります。新しい時代を切り開いた航海者

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【書評】藤えりか「ナパーム弾の少女 五〇年の物語」(講談社)

【書評】藤えりか「ナパーム弾の少女 五〇年の物語」(講談社)

 ベトナム戦争中の1972年、ある写真が撮影されました。「戦争の恐怖」と題された一連の写真ですが、ナパーム弾で服を焼かれ、大火傷を負った少女の写真が突出して有名です。

 罪のない子供に犠牲を強いる戦場の現実を伝えたこの写真は、世界に衝撃を与えました。ベトナムでの苦戦に加え、世界的に反戦運動が広がったことで、アメリカはベトナムから撤退することになります。

 歴史を変えた写真といえますが、写真の詳

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【書評】金子拓「長篠合戦 鉄砲戦の虚像と実像」(中公新書)

【書評】金子拓「長篠合戦 鉄砲戦の虚像と実像」(中公新書)

 天正3年(1575)に起きた長篠の戦いでは、織田信長・徳川家康の連合軍が武田勝頼を撃破しました。
 教科書に載る「長篠合戦図屏風」には、織田・徳川連合軍の馬防柵と鉄砲隊の活躍が描かれています。いわゆる「三段撃ち」が後世の創作ということは一般にも知られてきましたが、「織田信長が鉄砲を活用した戦い」という認識が普通でしょう。

 昨年発行されたばかりの本書は、これまでの長篠合戦の研究をコンパクトにま

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【書評】ロバート・ダーントン「猫の大虐殺」(岩波現代文庫)

【書評】ロバート・ダーントン「猫の大虐殺」(岩波現代文庫)

「猫の大虐殺」というインパクト絶大なタイトルが目を引きます。残念ながら品切れですが、ある古書店でタイトルが気になり、手に取りました。

 この本は、社会史のジャンルに入ります。国王や大統領が何を言ったか、という政治史の記録は残りやすいですが、一般庶民が何を考えながら日常生活を送っていたのかは、なかなか記録に残りません。

 本書では、農民が伝承した民話などの限られた史料から、18世紀フランスの庶民

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文学からパレスチナ問題を知る④~「ハイファに戻って」

文学からパレスチナ問題を知る④~「ハイファに戻って」

前回はこちら。

 パレスチナを代表する作家ガッサーン・カナファーニーを紹介する本連載は、今回が最後です。最終回は、1969年発表の「ハイファに戻って」を取り上げます。
 作品を紹介する前に、前提となる知識を説明しておきましょう。

「ハイファに戻って」の背景知識 ハイファは、現在のイスラエル北部、地中海に面する港町です。アラブ人(パレスチナ人)の土地でしたが、1948年にイスラエル領となりました

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【書評】松尾謙次『日蓮』(中公新書)

【書評】松尾謙次『日蓮』(中公新書)

 日本史の教科書の鎌倉時代の章では、新しい仏教の開祖と宗派に字数が割かれています。
 法然の浄土宗、親鸞の浄土真宗、一遍の時宗、道元の曹洞宗、栄西の臨済宗、日蓮の日蓮宗(法華宗)……という組み合わせを嫌々暗記した人も多いと思います。

日蓮の激しい他宗批判 その中でも、日蓮はかなり強烈な個性を放っています。日蓮は、法華経こそ仏の最上の教えであるとし、「南無妙法蓮華経」の題目を唱えれば救われると説き

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文学からパレスチナ問題を知る③~「太陽の男たち」

文学からパレスチナ問題を知る③~「太陽の男たち」

前回はこちらです。

 1963年発表の「太陽の男たち」は、現代アラブ文学を代表する傑作として高く評価されています。

パレスチナとクウェート「太陽の男たち」は、イラク南部の都市バスラから、クウェートへの密入国を試みる三人の男たちの物語です。

 イギリスの植民地であったクウェート(1961年独立)は、真珠の生産が主力産業でした。しかし、御木本幸吉が真珠の養殖に成功するとクウェートの経済は打撃を受

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文学からパレスチナ問題を知る②〜「路傍の菓子パン」

文学からパレスチナ問題を知る②〜「路傍の菓子パン」

前回はこちらです。

 パレスチナを代表する文学者であるガッサーン・カナファーニー作品の日本語訳は、河出文庫の「ハイファに戻って/太陽の男たち」に7編が収録されています。今回は、同書の収録作品のうち、「路傍の菓子パン」という短編を紹介します。

ダマスカスでの生活 1948年、故郷パレスチナを追われた難民たちは、近隣の国々で暮らすことになりました。ガッサーン・カナファーニーの一家は、シリアの首都ダ

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文学からパレスチナ問題を知る①~G・カナファーニーの生涯

文学からパレスチナ問題を知る①~G・カナファーニーの生涯

 イスラエルによるパレスチナのガザ地区に対する攻撃は、極めて深刻な人道危機となっています。イスラエル・パレスチナ紛争は毎日のようにニュースの見出しに登場しますが、詳しくは分からないという人が多いと思います。

 イスラエル・パレスチナ紛争の入門的知識については、是非下記をお読みください。

 さて、歴史家や国際政治学者、ジャーナリストなどが書いたノンフィクションとしての本を読むことも大切ですが、小

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【書評】小川剛生『兼好法師』(中公新書)

【書評】小川剛生『兼好法師』(中公新書)

”今から五百年前、「兼好法師」は捏造された――”

 帯に書かれていたセンセーショナルな文言に惹かれて購入しました。

 兼好法師(吉田兼好)といえば、鎌倉時代末期の随筆『徒然草』の作者として有名です。しかし、よく知られた彼の生涯については同時代史料の裏付けが乏しく、実態は違っていた、というのが本書の主張です。

吉田兼好? 卜部兼好? 兼好法師? そもそも、なぜ彼は「吉田兼好」と呼ばれるのか。兼

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