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SF - Sumo Fiction

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狂気に満ちた相撲SFの世界(手動収集)
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#パルプ小説

『元傭兵デリックの冒険』より「力鬼士(リキシ)の洞窟」#3

『元傭兵デリックの冒険』より「力鬼士(リキシ)の洞窟」#3

【前回】大柄な男が小柄な男を背負い、スコップを杖に洞窟を進む。入口は塞がれ、松明も角灯もなく、暗闇の中を歩く。ところどころに光る苔やキノコがあり、ぼんやりと道を照らしている。「くそったれ」「ああ、神よ……」

出口を求め、風の吹いてくる方へ向かったデリックとヴァシリーだが、力鬼士は次々湧いて来て、次第次第に追い詰められる。光る苔やキノコも次第に増える。「な、仲間の方とかは」「いない。俺は単独行動だ

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『元傭兵デリックの冒険』より「力鬼士(リキシ)の洞窟」#2

『元傭兵デリックの冒険』より「力鬼士(リキシ)の洞窟」#2

【前回】「力鬼士の棲む洞窟に財宝があるって、噂を聞いて。昨日黙って出ていったんです」

デリックは首を傾げた。表情と沈黙に促され、少女、ソフィアは続けた。

「うちは貧乏です。母は二年前の疫病で死んで……父は仕立て職人なので、二人でなんとか食べてはいけます。けれど、きっと私の将来のことを考えて……」少女は顔を手で覆い、また泣き出した。デリックは彼女を宥めながら、店の奥へ連れて行く。女房が事情を察し

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空を行くもの

空を行くもの

荒涼とした土地。乾燥して寒く、足元は石ころだらけ。彼方の山々には万年雪。あまりにも長い距離を進んで来たため、みな疲れて無口だ。

「あの山は、世界の果てだそうですが」誰かがぼつりと言った。

「そうか。その向こうには、何があると思う?」馬上の男が嬉しげに問う。

「……何もないと思います」男はぶっきらぼうに答えた。「何も」

「そうではあるまい。あの彼方にも鳥獣は棲み、人が暮らしている。そのように

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空に喰らう大鯱

空に喰らう大鯱

逆上した大回転(だいかいてん)を、ひと噴射の推力でいなした正体不明の航空力士は、アフターバーナーの勢いそのままの大回転の背後を容易に取り、土俵空域から弾き出した。送り出しだ。

その手には鮮やかな前垂れが握りしめられている。大回転のものだ。あのたった一度のぶつかり合いで、廻しから毟り取ったのだ。予期せぬ領空侵犯力士の蛮行に、ツェッペリン観客席では、神聖なアクロバット取組を妨害したと怒号が飛び交い、

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「アポカリキシ・クエイク」#4

「アポカリキシ・クエイク」#4

【承前】「DOSSOI!!」

谷松の猛烈なぶちかまし! 目の覚めるような一撃だった。敵は血反吐を噴いて真後ろに吹き飛び、壁に人型の穴を開けた。敷金が!

「かはァッ!」

敵は壁を突き破って、隣の部屋に。埃がもうもうと煙を上げる。人が入ってなくてよかった。

「や……やった! でも」
「ここは捨てろ。やつらに捕捉された。次々来るぞ」
「え、え」

谷松が『ドヒョウ・フィールド』を解き、もとの小柄

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「アポカリキシ・クエイク」#2

「アポカリキシ・クエイク」#2

【承前】その時の地震は、そう大きなものではなかった。震度4、ぐらい。けれど、ぼくが感じた心的衝撃は……。

「雷電、ですか。『雷電為右衛門』。江戸時代の、史上最強の力士……!」

アパートの一室。谷松老人の力場のためもあってか、ものが倒れたりはしなかった。ぼくには……谷松の言葉が、もはや狂人の戯言とは思えなかった。あれを見た。体験してしまった。世界のほうが狂いだした。いや、ぼくの常識が、異常な世界

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「アポカリキシ・クエイク」序章・ライナーノーツ

「アポカリキシ・クエイク」序章・ライナーノーツ

おれだ。アニーDに引き続き、アポカリキシ・クエイク…長いので略称は「AQ」のライナーノーツだ。ADとAQ。なんか繋がりがありそうで、まったくない。アメリカ西海岸と日本列島で、太平洋の反対側だ。強いて言えばADで日本系のギャングがくたばり、AQでロサンゼルスが地震で壊滅したというぐらいのものだ。どうも物騒だな。

一話一話の解説はめんどいのでしない。本編は合計4500字ぐらいだが、名鑑を加えれば50

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メキシカン・ラプソディ

メキシカン・ラプソディ

10月31日の夜。僕は先刻投稿した『プログレッシヴ相撲』の記事共有ツイートを送信すると、大きく伸びをした。
『パルプ小説冒頭400字』。楽しい企画だったが、応募は今ので最後だ。今日はもう休もう……。

KRAAASH!

その時突如、アパートの扉が破砕!一体何が?僕は戸口の向こうを見遣る。

そこにいたのは力士だった。

僕はそいつの奇妙な出で立ちと、投稿作品一覧が表示されているPC画面を交互に見

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『元傭兵デリックの冒険』より「力鬼士(リキシ)の洞窟」

『元傭兵デリックの冒険』より「力鬼士(リキシ)の洞窟」

「ファック野郎!」

スコップを振り下ろし、襲い来る力鬼士の指をぶった切る!
「ギァーーッ!」指は土に還る。力鬼士は後退し、チッチッと音を発した。仲間を喚んでいる! ボゴン! ボゴン! 床や壁から力鬼士が這い出す。囲まれた!「くそったれ……! まさか、実在するなんてな!」

デリックはスコップを振り回して威嚇し、事の発端を思い出す。



「父を、助けて下さい!」デリックの店に飛び込んで来た少女

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十五力士漂流記

十五力士漂流記

 辺流濡(ヴェルヌ)部屋の力士が無人島に漂流した。どうしてこうなった、鰤餡(ブリアン)関は数日前を振り返る。

 屋形船で行われた呉尾丼(ゴードン)関の大関就任パーティ。何故か沈没。正しく定員15名の力士が集まったはず。

 しかし過去を振り返る余裕はない。力士の消費カロリーは常人のそれを大きく上回る。食糧も既に尽き、険悪な雰囲気が流れていた。

 直線距離数キロの探索に出たゴードン関ら3名

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東一局666本場

東一局666本場

 東家 国士無双山 は強かった。土俵にて横綱は最強。それは雀卓においても。しかし666連勝は正気ではない。冷静ぶる西家 武装親衛隊中佐ハイドリヒも内心穏やかではあるまい。彼のハコ割れは党の歴史上からの排除を意味する。

一方北家、小説家を名乗る男に動揺はなかった。しかし彼の意味不明な手が卓を乱している。初期持ち点を見るに彼の賭けた自身の作品とやらが大作であったことは間違いないが、ただの阿呆だったか

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アポカリキシ・クエイク

アポカリキシ・クエイク

「あれは、ただの地震ではない。『釈迦ヶ嶽雲右衛門』がロサンゼルスに現れたのだ」

谷松と名乗った老人は、そう、ぼくに告げた。

「………一応は知ってますけど、あれですか? あの大惨事が、その、江戸時代の力士によって?」
ぼくは彼の正気を疑った。そんなニュースは当然、どこにも見当たらない。

「そうだ。彼らは『見えない』。普通の人にはな。大地のエネルギーを感じ取れ……」
「帰って下さい! うちは仏教

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