逆噴射小説大賞

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第138わ「回想」

(承前)

全身がシュレッダーにかけられているような苦痛。俺の肉は千切れて、骨は砕けて、何の配慮も無いまま棺桶に詰められて吸血女に運ばれているのだから無理も無かった。苦しいときは、もっと苦しかったときのことを思い出して耐えるに限る。意識を過去に飛ばす。予防接種。歯医者。こんなものじゃない。灼熱の運動会。晒し者の文化祭。そこまで遡ったあたりで確信が生まれる。俺は今、人生における最大の苦痛と戦っている

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ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第137わ「回帰」

(承前)

しょんぼりしながら吸血女は粛々と俺の外套を剥がし始めた。この時点で既に体の節々がシクシクと痛みが走っている。問題はここからだ。

「本当にいいんですか?急いで移動するので相当に揺れると思いますけど。死ぬほど痛いのに死にたくなっても死ねないんですよ?きっと後悔すると思いますよ。途中で止まったり出来ませんからね?」

会話には応じない。待ち受ける苦痛も恐ろしいが、未来の後悔よりも今の決意が

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ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第136わ「取り引き、駆け引き、奈落への道」

(承前)

「ダンナが私をお腹いっぱいにしてくださるなら、ここ数日の不調も何のその、実力以上の力を発揮してあっという間に目的地です。そうすれば❝魔王の翼❞も暫くはダンナに預けたままでも構いません。剥がされたくないでしょ?そのマント。私の心配は要りませんよ。道中で襲撃者に出くわそうが一瞬で返り討ちです。更に更に!ちゅーっと麻酔を体に入れて差し上げますので今の全身の痛みともバイバイです!」

わかった

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ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第135わ「FRAGILE」

(承前)

「それから更に一つ、残念なお知らせが」

吸血女が俺の体に手を伸ばす。俺の拘束に使用している❝魔王の翼❞を剥ぎ取ろうとしているのだ。この外套の堅牢性、そして快適さを身をもって知っている俺は何としてでも抗おうとする。

「あのですね。この棺を抱えてヤサ……じゃなくてセーフハウスに移動しなくちゃいけないんです。敵の襲撃、あるいは遭遇戦の発生も十分に考えられます。……というか、誰かに見られた

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ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第134わ「その胸、その腕、その勇気」

(承前)

夢でも見ていたのだろうか。身動ぎをするだけで全身に激痛が走るというのに、気付いた時には既に棺の中で吸血女の隣に身体を横たえていた。

「あれ?もう麻酔が切れましたか。無理しないで休んでいてください。全身が折れて捻じれて、とんでもないことになってますので。棺の中で何日か大人しくしていれば全快すると思いますが……」

全身が❝魔王の翼❞で拘束されている。意識は半ば朦朧として、恐怖も苦痛も焦

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ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第133わ「短いお別れ」

(承前)

……太陽が昇る時間だ。涼しい顔の吸血女と、明らかに顔色の悪い我が妹。

「兄さん、ごめん。学校があるから、みんなが起きる前に寮に帰らなきゃ」

「チッ。もうギブアップですか?太陽に焼かれて悶死する同胞を数十年ぶりに見られると思ったのですが……」

「すぐに兄さんを迎えに来ますから。……少しだけ待っていてくださいね」

それだけ言い残すと、矢も楯もたまらず妹はビルの屋上から飛び降りた。高

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ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第132わ「二人の不協和音」

(承前)

指摘されて思い出す。全身あちこち痛いせいで忘れていたが、今の俺は片目の男だった。家に帰ったら眼帯の手配をしないといけないだろう。妹と一緒に、俺に似合う眼帯を探そう。

「……ふふ。うふふ、はは。兄さんってば」

妹も楽しそうに笑っている。こんなに楽しそうに笑っている妹は初めて見たような気がする。そこで何かが妙だと気付いた。妹の着ている制服だ。こんな時間に制服を着ているのはおかしい。違う

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ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第131わ「さらば、愛しきひと」

(承前)

何と甘美な響きだろう。妹と、家に、帰る。消えた両親のことを妹に説明せねばならないのは頭の痛い問題だが、そんな悩みは瞬きする間もなく消え失せた。全寮制の女子校に通っている妹と最後に会えたのは夏休みの、ほんの数日間のことだった。あれから二か月。妹は更に美しくなった。じっと見ていると、吸血女が現在進行形で一秒ごとに俺のアバラを一本ずつへし折っているのも気にならないぐらいの美しさ。この間わずか

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ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第130わ「ξ(クスィー)」

(承前)

……俺の最も戦いたくない敵?それも、俺がよく知る者?話が見えない。吸血鬼どもの❝ゲーム❞で矢面に立つのは畢竟、吸血鬼の筈だが。

「……兄さん?」

懐かしい声が聞こえた。読み方の分からないギリシャ文字めいて俺の身体が捻じ曲げられているのも忘れて思わず飛び上がりそうになって、それは果たせず無様に地面を転がることになった。その声、その喋り方。吸血鬼どもが初回サービスとやらで一朝一夕に再現

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ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第129わ「リトル・シスター」

(承前)

吸血女の❝下の口❞はカスタネットめいてリズミカルに歯を鳴らしている。既に悲鳴をあげている四肢を叱咤して拘束から逃れようとするも、その結果と言えば人間の無力さを再認識されられるだけである。

「はいはい、それでは中に入りましょうね。大丈夫、食べたりなんてしませんよ。ダンナが死んだら私も一蓮托生なのは知っているでしょう?」

一瞬ごとに左の眼窩から灼熱の痛痒が引いていく。冷静さが回復すると

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