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「逆噴射小説大賞2023」ピックアップ&感想 10選



・はじめに

 ダイハードテイルズ様が主催する、noteを舞台に繰り広げられるエンタメの祭典「逆噴射小説大賞」。「応募作品一覧」マガジンを見る限り、今年は292作品もの小説(の冒頭800字)が投稿されたようです。執筆・投稿された皆様、大変お疲れ様でした。最初の選考結果を今か今かと待ち侘びていることと存じます(少なくとも俺はそうです)。十一月末くらいになるのでしょうか……?
 昨年から娯楽パルプ小説の世界に足を踏み入れた俺が「昨年と比較して〜」等と言うのもおこがましいのですが、今年の投稿作品群は昨年以上にクオリティが高く、洗練されたものが多く見受けられたように思えます。(恐らく)全ての投稿に目を通しましたが、読み応え抜群の作品に数多く出会えました。素晴らしい作品との出会いは、同じコンテストに参加する者として、半分嬉しく半分恐ろしいですね……。


 さて、このコンテストには、琴線に触れた作品・お薦めの作品等を感想とともに挙げる「ピックアップ文化」が存在します。昨年は行わなかったのですが、今年は臆さずに述べていこうと思い、筆をとった次第です。
 今回挙げる作品は、内容を気に入っていることは勿論として、とりわけ「本文を読まずとも、内容の一部をイメージできるほど印象に残ったもの」の中から絞りに絞った10本となります。大賞予想ではなく、あくまでも俺の主観で選ばせていただきました。なお、投稿者の皆様の中には直接お会いした方や懇意にしている方、相互フォロワー様もいらっしゃいますが、今回のピックアップに際して忖度は行っておりません。



 ……という訳で、以下より普段の調子に戻り、投稿日時順でピックアップを行っていく。俺の読解力不足による解釈違い・読み違えがあるかもしれない旨、どうかご容赦頂きたい。


・「ザメラの慟哭」

 怪獣もの。良い意味でわかりやすく読みやすい文体、そして中盤〜終盤、大オチに至る話題の転換──即ち「あ、そっち!?」と読者を誘導させる流れが巧い。
 悲哀を漂わせるタイトルも良かった。「ザメラ」の名称は一見パロディ風味(東宝怪獣にも大映怪獣にも居そうで居ない!)だが、後に「慟哭」が加わると途端に文字の重みが増す。たった二文字で深刻さ・主人公の悲痛な思い、即ち怪獣ものに欠かせない哀愁が伝わってくる。


・「一夜で簡単天地創造(ただしねずみあれ)」

 チンチラSFもの。どこか海外SF小説(の和訳)を思わせる冒頭に反して、思いっきり日本名な「ぷくぷくちゃん」が醸し出すユーモラスさで興味関心を掴まれる。触覚に訴えかけてくる描写も良い。そこで一瞬トンチキ寄りのコメディか?と思いきや、最終的にSFものとしての読み応えをしっかり感じさせてくれる。
 余談ながら、本稿にて作品を引用する際、ようやくヘッダー画像右にうっすら写り込む存在に気が付いた。アハ体験……?


・「盤蠱覚龍征伐譚」

 壮大かつ骨太、渋いファンタジーもの。漢字文化圏だからこそ成立し得る(そして楽しめる)同音異義語的ネーミングの造語も魅力的。
 肝心の内容も決して名前負けしていない。終末感と壮大さを感じさせる世界観、そして物語の先が気になったのは言うまでもないとして、このまま「王」の過去語りを聞いていたいとも感じる。作品世界の奥行きを感じさせる舞台設定、そして何より筆力の賜物だろう。

・「炉神」

 和風伝奇もの。架空史ロマンを感じさせる題材選び引きの魅力もさることながら、神事に関わる情景描写が巧みで風格があり、宗教的な堅さと現実味・生っぽさ(俺は神事に疎いので「っぽさ」と表現した)が際立つ。
 程良いタイミングで起こる視点の切り替えも良い。このまま物語が続いていけば、どこかで主人公とヒロインの間に起こる「カルチャーギャップもの展開」的な面白さも楽しめそうな予感がする。


・「死闘裁判 -Trial by Combat-」

 裁判バトルもの。とはいえ描かれるのは「逆転裁判」的な論破バトルではなく、文字通りの物理的死闘! 他の判例も気になる上に、シラットやらムエタイやら、各キャラクターが特徴的なファイトスタイルを持っていたりしても面白そうだ。期待と想像が膨らんでいく。
 題材上、当然ながらミステリー要素も多分に発生しうるだろう。先が気にならないわけがない。


・「フレンジー」

 RPG的ファンタジーもの。「frenzy」には熱狂・狂乱・逆上・激高なる意味があるらしい。本コンテストは入賞への選考基準に「タイトルの命名センス」も含まれるという。即ち、「逆噴射小説はタイトルも内容の一部」と捉えて良いはずだ。次に挙げた作品共々、シンプルで力強いタイトルの魅力は間違いなく大きい。
 タイトルの件はさておき、本文の内容も魅力的だ。主人公の不遜な一人語りが続くのか?と思いきや途中でギアチェンジ。引きの一言も強烈。世界の終末が迫る中、彼の決意の先にあるものとは……?目が放せない。


・「セイント」

 麻雀もの。猛烈に強い臨場感を誇り、液晶画面越しに紫煙の臭いすら感じさせる。(モグリも本物も)雀荘に行った経験は皆無な俺でさえ、その情景が質感を保って読み取れる。
 雀荘の中には達人……と言うよりも、まるで聖職者を思わせる佇まいの男。平易な言葉で表現するなら「強キャラ」であることは間違いない上、思わず彼の話術に引き込まれてしまう。「このキャラクターの話を聞きたい」と「この物語の先を知りたい」は同義であるはず。語り口の巧いキャラクターの造形、俺も見習っていきたい。


・「スペルバウンド」

 ジュブナイル系マイナー競技もの。「スペリングビー」なる存在は知らず、俺を含めタイトルを見た時点で「魔法系ファンタジーか?」と思った読者も多いのでは。
 一見すると題材の珍しさばかりに目が向きそうではあるが、主人公と友人の描写に惹かれる。少々特殊な競技シーンに長尺を割きつつも、呼び方や嗜好の把握等によって、800字以内でもきっちり登場人物の関係性を描けている点が好ましい。しっかり少年らしさが表れている一人称視点も、爽やかなYA小説的で良い。


・「マキコの黒いサンドボックス」

 広義の意味で「お仕事もの」? 割とアウトロー/生死に関わるお仕事が多い当コンテスト中、ゲーム制作者を扱った本作は異彩を放つ。ネタバレ防止の為に具体的な言及を避けるが、ある意味アウトローには間違いないかもしれない。ともかく、本作の「お仕事もの的会話劇」には強い魅力がある。
 イースターエッグじみたメッセージに込められた真意は純粋な愛情か、それとも……?個人的には強い不穏さを感じたが、今後どのように物語が転んでいくのだろうか。興味が尽きない。


・「SUGB 因果巡」

 SF野球もの。とにかく「刺激的な娯楽性」を感じる一本。猛烈な中毒性があり、読み返した回数は数え切れない。
 一行毎に開示される異様な世界観。安すぎる命。「⚪︎⚪︎⚪︎もの」を示唆する結末……。娯楽パルプ要素の塊だ。否が応でも先が気になる。
 本コンテストにおける「800字制限」は厳しい。「たった一文字でも節約したい!」と考える方が多いはずのところ、長文の横文字を多用している(衝撃のタイトル復唱シーンは勿論、漢字への言い換えが可能な野球用語にもしっかり横文字を使用している)辺りに、本作の異質さと底知れぬ余裕を感じさせる。


・おわりに


 以上、10作品を挙げさせて頂いた。無論、上に挙げた以外でも優れた作品・面白い作品は無数に存在する。もしも本稿で「逆噴射小説大賞」を知った方が居るとしたら、是非とも下記リンク先より様々な投稿作品群をお読み頂きたい。きっと貴方の「お気に入りの一本」に出会えるはずだ。



※俺が投稿した作品は以下の二本。こちらもお読み頂けたら何よりです。


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