マキコの黒いサンドボックス
企画班リードの棚橋が戦線離脱して3日目。だから会議もこんな調子だ。「ですからァ、Yボタンなんです」
「ロックオンはR3で決まりだ」
プログラム班・日向寺はまだ冷静。さすが堅物。
「バインド変えるだけっしょ? 何そんな渋ってンすか」
棚橋の相棒だった彼は、たぶん潰れるだろう。
仕方のないことだ。
「これが通ったらしまいにゃコアコードに手がでかねん。時期を考えろ。デバッグへの伝達も面倒だ」
「中邑さん。ディレクター権限でなんとか言ってやってくださいよ」
「書類に纏めてくれ。後で読む」
会議終わり。
作業に戻る。
アメリカがベトナムに戦争仕掛けた時に立てた終盤戦の計画は「なんとかする」だったそうだが、今俺たちはそうなっている。
端的にいえば、俺達のゲームはつまらない。
龍は火を噴かないし、剣士は盾を構えない。
つまり基礎からなってない。
これでは売れても"燃える"がオチだ。
人の苦労も知らないで、マキコが俺のデスクに来やがった。
「んねー中邑D。いまデータあげた」
PG班の問題児、燃やしの櫛田マキコ。
不良進捗の常習犯の癖に、この案件だけは捌いていやがるひねくれ者。
「アセット欠けすぎネ。いっそのこと、要素を削って2ボタン・『簡単に死に簡単に殺す』調整したヨ。これでドラゴンも怖いッしょ」
命令違反。だが、触る。
ケチつけるにも理由が必要だからだ。
……畜生。
正直、コレを作れなかった俺が悔しい。
これこそ、数多のプロジェクトが夢見て装填すること叶わなかった銀の銃弾。
「ねー。どうよ」
これは確かに面白い。
だが、問題は。
俺がDである以上に、ゼイゲンの産業スパイという事だ。
任務は一つ。
DUNE社をウチの親元・マグニフィコキャピタル、要はハゲタカの餌食にすること。
だから、失敗は必要だ。
俺は言う。
「まあまあだな」
俺は彼女のデータを壊す為、ファイルシステムの奥底へ潜る。
そしてコイツを見つけるのに、時間はかからなかった。
『Dに褒められたい.txt』
【続く】
コインいっこいれる