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死闘裁判 -Trial by Combat-

 法廷の中央で、検察官の須藤と対峙する。
 距離二メートル。
 裁判官の、被告人の、傍聴席の、検察席の、全ての視線が、俺と須藤の二人に集まっていた。

 半年前、足立区で起きた、中学校教諭一家殺害事件。
 被告人の沢木に対し、検察は死刑を求刑し、弁護人である俺は、沢木のアリバイや、不当な取り調べ、証拠の不明瞭な点を論拠に無罪を主張した。
 死刑と、無罪。
 互いの主張は真っ向から対立した。
 従って、己の正しさは、拳を以て証明する事となる。

「構えて――」裁判長の声が響く。

 須藤が構える。拳を顔の前に掲げた、ボクシングスタイル。

「始めッ」裁判長が、ゴングの代わりに木槌ガベルを叩く。

 須藤がジャブを繰り出してきた。
 速い。
 身体を捻り躱す。
 須藤は続けて右ストレートを放つ。
 俺は須藤の打撃を左手で内側から捌く。同時に、右手の突きで須藤の目を打った。
「がぁっ」
 須藤の動きが止まる。
 追撃。捌きに使った左手を、須藤の伸び切った右腕に滑らせる様にして、拳を振り抜く。
 拳が、須藤の顎を打ち抜いた。
 脳が揺れ、須藤が倒れる。
 俺は容赦なく、倒れた須藤の顔面に踏み砕きを入れる。
 骨が割れる感触。
 截拳道ジークンドーは、六秒以内に相手を倒す事を目的としている。

「それまで」
 裁判長の声が掛かる。
 俺は追撃を止め、倒れた須藤から距離を取った。

 ガコン。
 木槌ガベルの音が場内に響き渡る。

「この戦いにより弁護人の主張が正しい事が証明されました。――被告人は、無罪とします」
 裁判長の宣言。
 法廷が沸いた。
 沢木は、安堵により膝から崩れ落ちる。
「ありがとうございます……」

 ――まだだ。

 検察席の男と目が合う。
 長身。鋭い目つき。立ち振る舞いからして、かなりの使い手だ。
 俺の手の内を探る為、一審は須藤を当て、『見』に回ったのだろう。

「まだ安心できません」席に戻った俺は、沢木に言った。「検察は必ず控訴をしてきます」

 懸念点は、もう一つ。
 ――沢木は、何か隠し事をしている。

【続く】

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