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文芸寄せ集め

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自分の記事の中から詩と掌編小説を寄せ集めました。
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記事一覧

詩)夏の片鱗

詩)夏の片鱗

窓を開けて寝ないと暑苦しくなって、夏がいつの間にか私のおでこまで忍び寄っていた事に驚いた

渦を巻くような変わりやすい梅雨の天気は雨の反芻ばかりで神経が休まらず、新しい傘を買って何とか自分を宥めすかしているというのに

夏至の日は夏至だ、と皆騒いでいて、自分の生活にまるで関係のなくなった夏至を、遥か昔の和歌を摘み取るようにそっとなぞった

ふと季節の証人になりたくなった

あなたの前で浴衣が着たい

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詩)生クリーム

詩)生クリーム

あなたは生クリームが好きだと言う
この世で1番好きなのは生クリームだと

私は生クリームが好きになったあなたの道のりに思いを馳せる

あなたはどうしていつ生クリームを好きになったの
一体どのように心奪われたの
液体でもない固体とも呼びがたいあの食べ物に

あれって実は油分が多くて太りやすいのよ
ダイエットの大敵だわ
だけどあなたの腕は甘いもの好きな男の子のご多分に漏れずかなり細いわね

私は恨めし

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詩)夏のさざめき

詩)夏のさざめき

夏が来る、と思うと肩がぎゅっと固くなる
自分が溶けて外気と一体化してしまう暑さを思うと気後れしてしまう

投げやりになって足を投げ出したくなるような熱風は私をおののかせ、夏、という季節の有無を言わせぬ暴力性から逃げ出す算段をさせる

夜気すら私を休ませず、朝が来ると太陽の恒常性にうんざりする季節

アイスバーの四隅が直ぐに丸くなるから家までもたなくて、アスファルトの照り返しの中液体になったチョコレ

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詩)l'eau

詩)l'eau

心が水没して苦しい夜に
そっと拾いあげてくれたあなた
潜水夫のような軽やかさで私を掬い、
たゆたう体を砂の上へ運んでくれた

蒸発してゆく水滴を傍目で眺める幸せは
まるで違う発音を奏でるあなたと共にあった

雨が反芻して苦しい日には
毛穴から入り込もうとする水分を拭い、温めてくれた
何も奏でようとせず、ただひたすら寄り添ってくれた

次は私の番だから
手始めに傘をさそう
あなたを染めて日にかざそう

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詩)梅雨が明けたら

詩)梅雨が明けたら

梅雨が明けたら裸足になって砂上を歩き
どこまでも続く砂に埋もれて寝転がりたい
沈むからだを横たえれば隣にはあなた
日に焼けるからと被った帽子が風に舞う

梅雨が明けたらサンダルで街を歩き
ふわふわで肉球みたいなかき氷を2人で食らいたい
さらさらに混じった硬い氷を歯で噛みちぎり
きな粉の向こうへ砂を見る

霧雨が鳴くから今夜は毛布にくるまり眠ろう
窓枠に雨が滲んで紫陽花を濡らすから

ひとつひとつの

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詩)あの夜空を

詩)あの夜空を

夜空に星を見つけよう

喉に流れこむ寒気によろけながら仰け反ると
からだをやすやすと包み込む巨大な夜空が

黒の中に散らばる点を数えながら余白を思う
あなたと眺めた星空の大きさはこれと比べてどうだったか

大きくなりすぎた自己を解放するような輝く点は
自分を忘れてしまった頃に届く便りのようで
日に焼けしまったアルバムの写真を捲る手が止まる

夜空をつかまえてあなたへ還る
頬に触れた指も冷たく凍えそ

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詩)雪降る日に

詩)雪降る日に

雪降る日にあなたを見つけた
拙いヒールの目立つ日に
雪降る日にあなたを見つけた
煩わしい都会のに泣ける日に

赤に染まる鼻筋から
真白の息がひとつひとつ零れていった
拾って乾かしそっと撫でたい想いに駆られた

湿った雪が気だるく降って
黒いコートに重みを与えた

体温が恒常性を放棄してしまったようだ
缶コーヒーの熱さに指先がとろけ、手のひらも赤く染まる

あなたの髪がやけに狂おしく
積もる雪粒を払

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詩)音楽の切れ間に

詩)音楽の切れ間に

休日の昼下がり、音色の隙間に自分を見つけた

外は穏やかに晴れている
オレンジ色の光が、フローリングの床に差し込んでいる

迂闊にもリピートを忘れたサカナクションの合間に、迷路のような森に迷い込んで途方に暮れている私がいる
音の切れ目から入り込んだ理性が、ふと私を真顔にさせたのだ

いつからだったか
もう誰にも撫でられる事のなくなった頭をそっと撫でる

捕まえようとすると宙に浮いてしまう自分
もは

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詩)ゲリラ豪雨

詩)ゲリラ豪雨

壊れてしまいそうだからそっと触れようと思ったのに壊れてしまいそうなのは私の方で、意外と強靭なあなたを羨望の目で眺める

人見知りだよと笑ったあなたは他人の目を幾つも盗んで平気な顔をする

ビオトープが欲しいくせに夏の似合わない格好をして、夏を脱ぎ去ったあなたは誰より秋の似合う顔をする

あなたが大好きだという音楽は中庸で平和を奏で、混じり気のないあなたをますます好きになる

丁寧すぎる隙のない敬

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掌編小説「薔薇に包まれる」

掌編小説「薔薇に包まれる」

都会には排気ガスが多いという。そんなの小学生の頃に習っていて、誰でも知ってる。
でもここに来るとしみじみ思う。空気がまろやかだな、と。

東京に毒されているつもりはないけれど、普段金魚みたいに呼吸する訳にはいかないから、何気なく息してる。
提供されたものを、右から左に受け取って。

でもここに来ると、東京の空気が刺々しいのだと分かる。
やわらかい、と思う。風がやわらかいのだ。
余白の多い空がなでる

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掌編小説「隣りのお姉さん」

掌編小説「隣りのお姉さん」

読みかけの漫画雑誌が床に転がってる。ベットから落ちたらしい。

どうして漫画雑誌って転がるとああなるんだろう。
くたっとなって、背表紙だけオットセイのように浮き上がって、数ページがうねって折れる。

うんざりして床から拾い上げると、キラキラした男の子が目に入った。

ああ、この子。
既に読み終えていたので、その子の背景まで容易に頭に浮かべられる。

その子は中学生の主人公が憧れている、隣りに住んで

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よそゆきの自分を脱ぎ、一杯のコーヒーを飲む

よそゆきの自分を脱ぎ、一杯のコーヒーを飲む

コロナ禍である。
緊急事態宣言で様々なお店が閉まり、活動自粛を余儀なくされた私は、昼下がり、する事がないので近所を散歩していた。

世の中が大変なことになっているというからお化けが歩いているのかと思ったらすれ違うのは普通の人間で、半袖でも良いぐらいの陽気に空を見上げると、わさわさと揺れる緑色の街路樹の隙間から、青一色の空が広がっている。

世間と噛み合ってる、と思った。
生きている空、もわっとした

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とある休日、近所を本気で散歩してみた

とある休日、近所を本気で散歩してみた

只今、3度目の緊急事態宣言で、楽しみを与えてくれる殆どのお店が閉まっている。
楽しいところには人が集まるので当然といえば当然かもしれないが、GWという長い休みなのに本当にする事がない。

もっと言えば、私はお笑いライブを見に行くのをライフワークにしているのだが、お笑いライブは先月の25日から無観客配信でやるのを余儀なくされているので、私の翼はGWの大分前からもげている。

毎日の感染者数を見ている

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詩)ふわりと夢を

詩)ふわりと夢を

ふわりと夢をみる
ふわりふわりと夢をみる

あなたは夢に出てこない
おかしいまだ寝てないのかしら
意識がそこに向かないの?

遠くに飛ばした風船を
取りに行くのとあなたが言った
細い手首のあなたなら
そのまま浮いて帰れると

くるりと宙を舞う
くるりくるりと立ち泳ぐ

黒くて長いあなたの髪が
ぐるんぐるんと渦をまく

目が覚めたら常に一緒
ゆらりゆらりと戯れる