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散文詩

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2024年3月の記事一覧

魔女狩りの詩 《詩》

魔女狩りの詩 《詩》

「魔女狩りの詩」

生きる事を目的として戦い続ける 

目には見えない

圧倒的な力を持つものが襲う

其れに相対する

救いに似た光を求めた

あらゆるものを  

ただ黙々と受け入れ

其処にあるものを

呑み込み全てを赦した

其の優しさに身を委ねた

僕等の時間が
それぞれの経路を辿り流れる

恐怖や希望

絶望の中に揺らぐ炎を見た

だが君は心の奥底で死を望んでいる

その流れがひとつに

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流れる水と小さな星 《詩》

流れる水と小さな星 《詩》

「流れる水と小さな星」

僕の目の前にある時間は

静かな足取りで通り過ぎて行った

其処には僕の意思とは関わりなく

其れ自身の原理に従い

流れる水の様に静かに

彼女は僕の知らない場所で
眠っていた

其処は時間と空間によって 

行動の自由を制限される事の
無い場所

夢の無い深い眠りの中で

僕達には行かなくてはならない所が

やらなくてはならない事がある 

その事をはっきりと知る

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冬の月 《詩》

冬の月 《詩》

「冬の月」

死がふたりを分かつまでは…

そんな言葉を何処かで聞いた

冷気を含んだ丘からの風が
僕の前髪を揺らす 

空は灰色の雲に覆われ

静かに雨が降り始めた

大きくて白い冬の月を見たのは

いったい いつだったろう 

思い出せない

僕は

其の小説を書きあげてはならない

其れは未完成で無くてはならない

姿形を持たない

観念的な象徴の中にだけ

物語は生きている

其れを具現化

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風の音 《詩》

風の音 《詩》

「風の音」

正確な事まではわからない

僕の見上げた頭上には空は無かった

時計は止まり

其の秒針は意味を成していなかった

全てが静止した沈黙の中に
僕ひとりが存在していた

ただの錯覚なのか 

僕の内部で生まれる

断続的な映像なのか

潤いの無い乾いた単色が

色彩を塗り潰した後に

不規則な光が見えた

前後の脈絡を欠いた唐突な風

確か前にも同じ夢を見た

茫漠とした霧が匂いさえも

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落命 《詩》

落命 《詩》

「落命」

車のヘッドライトに

照らし出され路上で硬直した猫

決断も行動も無く指示された事を

従順に遂行する世界が周る

遠くの海鳴りがはっきりと聞こえる

捕縛し続けて来た物の
瓦礫が横たわる

意志を備えた濃密な霧

血の通った泥の中にうずくまる

全ての感情を奥に隠した邪悪な血

僕自身が宿る肉体が抹殺した幻

其処にある
光景から目を反らず直視しろ

根源的な邪悪は僕自身の中にある

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一輪の切り花 《詩》

一輪の切り花 《詩》

「一輪の切り花」

希望と同じ数だけの
絶望が其処にあり

生と同じ数だけの
死が此処に満ちている

行き交う車が僕の視線を塞ぐ

僕は其処にある何かを

見落としている

僕の前に再び姿を見せた影は

俺もまた此処にいる 

そう暗示している

望まない時 

あるいは強く否定する光が

大きな鉄の門扉を閉ざす

常緑樹が作り出す影は

其の葉色とは裏腹に 

黒に近い鈍色をアスファルトに映す

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LIGHT MY FIRE 《詩》

LIGHT MY FIRE 《詩》

「LIGHT MY FIRE」

未完成と完成を隔てた僅かな領域

其処に呼吸する息遣いを聞け

独自の意志と観点から
発されたメッセージ

もうこれ以上 

書き足す事など何も無い

綴られた文章に

目的や意味を見出す必要も無い

何かが強く其れを求めたからだ 

それが全てだ

僕は熱い珈琲を淹れた

FMの電波は殆ど入らない

ノイズの切れ間 
時折聴こえる米軍放送

途切れ途切れの音楽

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星だけがやけに綺麗に見えた夜 《詩》

星だけがやけに綺麗に見えた夜 《詩》

「星だけがやけに綺麗に見えた夜」

何が原因で何が結果なのか 

何処にも答えなんて無かった

夢の中に紛れ込んだ現実の切れ端と

現実の中に断片的に現れる夢

ただ 
がむしゃらに追いかけ続けた

傷だらけのコルベットC5

モーテル 

星だけがやけに綺麗に見えた夜

使い回された古いベッドの軋む音

遮光カーテンの裏側 

天井が波打つ 

求められた色なら全て与えてやるよ

いつか俺が途中

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暗雲の隙間 《詩》

暗雲の隙間 《詩》

「暗雲の隙間」

雲が千切れる様に割れ

僅かな月明かりが射す

暗雲の隙間 

途切れ途切れの光が

僕の胸の中に隠された言葉を照らし

浮き彫りにしては消えてゆく

淡い青色の世界が訪れては消え去る

そして無音の漆黒が全てを包み込む

肉を削ぎ落とした骨格から発する

意識の放射が暗闇を貫く

其の凝縮された陰影を

網膜と脳裏に焼き付ける

僕は思考の切れ端を追い続ける

脳内の架空の白紙

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寡黙な詩 《詩》

寡黙な詩 《詩》

「寡黙な詩」

既存の社会的通念が

創り出した定められた枠

その均衡を突き崩し

調和と安定を
賛美する歌に耳を塞いだ

譲歩の余地の無い通告が

西側の窓辺から見える

僕は自分自身を

理解する為にまたペンを取る

全ての微妙な動きまでも
静止した文字に移し替えて行く

君の黒髪に口付けた感触が 

小さく震える膝を両手で掴む 

そして思考の中に深く身を沈めた

来たるべき何かを示唆する

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鱗片 《詩》

鱗片 《詩》

「鱗片」

細長いグラスに

注いだ冷えたシャンパン

細かく立ち上がる

気泡の先に見えた淡い光

まばらに点在する 

それらの綺麗な光

ささやかな温もりに似た灯りを
其の中に感じていた

生と死の境界線が微妙に揺れた時

淡い光が僕に囁きかけて来る

真実が連れて来た無制限の孤独

鱗片状の慈愛が剥がれ落ちる

流れる様に艶やかな彼女の髪と

静かに話す言葉の文脈

其の対局にある確かなも

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時間 《詩》

時間 《詩》

「時間」

過ぎ去る時間の中で

沢山の感情と言葉 

多くの迷いと沈黙
多くの約束と秘密 

そして諦めと

決して口に出す事の無い想い

感情の振り子が弧を描き揺れた

僕達の心に傷跡を刻み込みながら

色彩の裏側にある
骨格を指先でなどった

僕が創り出した

異なったふたつの人格には

共通する欠落があった

その共通する失われたものは
形象を持たず

窓から射し込む朝の光の様な

柔らか

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