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#恋愛小説部門

「赤き月は巡りて」第1話(全9話)

「赤き月は巡りて」第1話(全9話)

第1章 赤き月が昇る夜

 まだ明けきらぬ薄闇の中、乾いた葉擦れの音がひんやりとした空気を震わせる。虫たちの声が重なり合う。
 シュッと風を切るかすかな音がして、すぐにトンと何かに当たった。
 それを合図にしたかのように、東の空が白み始め、鳥たちが目を覚ます。黒一色だった村や山の風景が色を取り戻していく。

 しかし村が目覚めるのにはまだ早い。

   *

「矢がたったぞ!」

 誰かの叫び声で

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《創作大賞2024:恋愛小説部門》『友人フランチャイズ』第1話 白花色 0.5〜

《創作大賞2024:恋愛小説部門》『友人フランチャイズ』第1話 白花色 0.5〜

◇プロローグ

「次のニュースです。昨夜未明、市内のアパートから男女の遺体が発見されました。取材に対して警察は以前から親交があったとされる医療従事者の女性を第一発見者とし、死因について捜査を進めて参ります。との回答がありました……。では、ここからはスタジオに戻して、この事件で亡くなられた男性について、今日お越しになっております、デザイナーの秋山 海さんとお話をさせて頂ければと思います。秋山さん今日

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点滅とかぎあな【創作大賞 恋愛小説部門 短編】

点滅とかぎあな【創作大賞 恋愛小説部門 短編】

 知らない男とのセックスの後は喉が渇いてしかたがない。十代半ばに覚えた気晴らしはいつしか労働に代わっていて、生活のための金銭になった。たったいまも初対面の男に抱かれている間、男が吐きだす臭気を感じないようにできるだけ口から酸素を補給している。キスのときだけはしかたがないけれど、してしまいさえすればもう気にならなくなっていた。
 ひどい作り笑顔で客を見送ったあと、今日何度目かのマウスウォッシュを口に

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白雪美香は彼氏ができない!_第1話

白雪美香は彼氏ができない!_第1話



プロローグ

「はぁ、はぁ、はぁっ」

白雪美香は、ぽっちゃりとした白く柔らかな肉体を揺らしながら、福岡市のセントラルパークと言われる大濠公園を走っている。

5月中旬の福岡は夏日になることもあり、今日の気温は25度を超えていた。気温が上がることは白雪美香もわかっていたが、ここまで暑くなるとは予想だにしていなかった。もう夏じゃないか、と白雪美香の荒い呼吸の中にため息が混じる。今更ながら厚手の服

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小説「ドルチェ・ヴィータ」第1話(全11話)

小説「ドルチェ・ヴィータ」第1話(全11話)



あらすじ



第1話



「……さちほさん、起きてくださいな……起きてくださいな、朝ですよ」

 細くて甘い声が私の耳元で囁く。寝返りを打つ。あと五分、五分でいいから。

「駄目ですよ、今朝は定例会議があると言っていたじゃないですか、先週もそんなこと言ってて遅刻したじゃないですか、ほら早く起きましょうよ、祥穂さん」

 私の首筋を熱い舌が舐める。くすぐったくて、身悶えする。ざらざらとし

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【あらすじ‐#1】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】

【あらすじ‐#1】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】

【創作大賞2024参加作品】#恋愛小説部門

Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民2部構成。全13章、全52話(1話2000文字前後)、12万文字。
連載期間 開始:5月23日  完結:7月13日を予定。
【本編連載】では
 ・web小説にあわせ、段落や改行を多くとっています
 ・ビジュアルあり
  ※【まとめ読み記事】は一般小説に合わせています。内容は一緒ですが  
    段落や改行は通常小説

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創作大賞2024 恋愛小説部門 作者様&作品一覧(2024/06/20 更新)

創作大賞2024 恋愛小説部門 作者様&作品一覧(2024/06/20 更新)

noteの創作大賞の各小説部門のページ、作品が入り乱れていてなかなかに見にくいですよね。元々小説向きのサイトではないので仕方ないのですが。少しでも見やすく、また過去にアップロード作品にも光が当たればと、一覧を作成しました。

良かったら💗くださいね♪

※注意事項現在「#恋愛小説部門」に参加されている方で、作品に「#創作大賞2024」のタグを設定されているnoteを対象としております。

作品は

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メリー・モナークin大原田 第一話

メリー・モナークin大原田 第一話

 ずっしり空気の重くなったリビングのコタツで、その引力に負けたように父さんが急に頭を下げたので、俺はギョッとした。
 思えば、父さんが家族に頭を下げるところなんて見たことがない。てっぺんがだいぶ薄くなったなと、少し自分の頭を心配したところに、姉ちゃんがふぅーと小さく息を吐いて
「私たちじゃなくてお母さんに頭を下げてよ。まぁ、それも今更だけど」
 と冷たい口調で言った。父さんは、頭を下げたまま、小さ

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「まがり角のウェンディ」第1話(全18話)

「まがり角のウェンディ」第1話(全18話)

Ⅰ ー 1 ノートの上に、一本のペンがある。
 手が伸びてきてペンを握る。開かれた白いページに影が落ちた。

 手が、文章を書き始める。ペン先と紙が擦れ、乾いた音を立てる。文字を綴る音のほかは時折りページをめくる音がするだけだ。
 手が、文章を書いている。音を立てながら文字が並んでいく。やがて手は止まり、乗り出していた上体が起こされたことで紙面の影は消えた。
「んんー」
 伸びをして背中の強張りを

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「LoOp」第一話

「LoOp」第一話

プロローグ 着信音が聴こえる。……おかしいな、音は消してあったはずなのに……。
 おぼろげな意識で手元を探ろうとすると、とつぜん頭がぐらりと揺れた。ドンとぶつかったような感覚で、次の瞬間、右首に突き刺さっている異物がさらに内側へ捻りこまれる。液体が溢れ出し首筋を濡らす。続いて身体が跳ね上がり意識が分散する。お尻が温かいものにじわりと浸されていき、おねしょをした記憶がよみがえる。
 何か大変なこと

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針を置いたらあの海へ 第1話

針を置いたらあの海へ 第1話

しょうしつ‐てん〔セウシツ‐〕【消失点】
遠近法や透視図法における、平行な直線群が集まる点。バニシングポイント。

「たっちゃんさん」は、突如俺の前に現れた。それは、高校中退記念に美容室に行った日のことだった。
 高校サボり開幕記念に髪を伸ばし始めて半年、長めのショートヘアは肩を通り越し、ウルフヘアになっていた。
「長髪似合いますね、ロックバンドのボーカリスト、みたいな」
 美容師さんにそう話し掛

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小説「ある朝の目覚め」第一章

小説「ある朝の目覚め」第一章

あらすじ化粧はわたしの「戦闘服」。わたしを強くしてくれる。

内気で感受性の強い自分に「武装」してIT企業の技術営業職として働くあや子は、お気に入りのノートと万年筆で日々の出来事や自分の考え・思いを書き出して整理する習慣を仕事や生活に活かしている。

出勤前のおひとり様時間を楽しむカフェでのある女性バリスタとの交流が、あや子の日々と内面とに、最初は小さな、徐々に大きな波紋を起こしていく。

ある日

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コイン・チョコレート・トス_第1話

コイン・チョコレート・トス_第1話



🪙 プロローグy=-3x²の放物線を描きながら、宙を舞うコインチョコ。

玄関の白い天井の少し下の位置を最高到達点とし、コインチョコは幸子の手の平に落ちてきた。幸子はそれを両手で優しくキャッチする。

幸子はコインチョコが左手に落ちてきた瞬間、上から右手をそっと添える。コインチョコがどちらかを向いているかが見えないように静かに隠す。

表か、裏か。

全ての決断は、コインチョコに委ねられた。

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小説「弦月湯からこんにちは」第1話(全15話)

小説「弦月湯からこんにちは」第1話(全15話)


【あらすじ】



第1話



──「お目覚めかね、イチコ」

 いつもの低いしゃがれ声が聞こえる。肩に置かれた手は、ずっしりと重い。見上げないでも分かっている、そこには獅子頭の男がいる。舌なめずりしながら、私を待ち構えている、獅子頭の男が。

 あたりを見回す。いつもの白い部屋にいた。床も、壁も、天井も、どこもかしこも白くて、つるつるしている。換気扇が回るぶーんという音が、薄く聞こえる。

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