記事一覧
おばあさんかもしれない(ショートストーリー)
お母さんから渡されたお使いものを持って、おばあさんに会いにゆく。
おばあさんの家は隣町にある。私の家から歩いて15分ほどの距離。ここらは駅から少し離れているせいか、私の住む町よりどこかのんびりした空気が漂う。道路の端をトテトテと三毛猫が歩を進め、ふとこちらを見上げて「みゃあ」と鳴いた。どこかの家の庭先で、ひょろりと伸びた茎の先に花をつけたヒマワリが、かすかに揺れる。
お盆を過ぎたとはいえ、まだまだ
おとこともだち(ショートストーリー)
大学2年生の春、講義を受講するためのオリエンテーリングに出席したら、たまたま隣の席に座っていた男子に話しかけられた。名前は加藤君。彼は1年生の時、仮面浪人をしていたせいで、ほとんどの単位を落としてしまったという。
「入試には失敗しちゃったんだ。だからこの学校に通って卒業するって決めた。けど友達がいなくて。もし良かったらどんな授業をとればいいか教えてほしい」
と言われた。
加藤君の第一印象は「爽や
櫻の花は今が盛り(ショートストーリー)
風がひとひらの花びらを運んできた。私は、髪に付いた桃色のそれを指でそっと摘む。
「…ん…」
私の指の気配に気付いた彼が、少し顔を歪ませた後、薄く目を開けた。
「あ、起こしちゃったね」
私はそう言い、自分の太ももの上にのった彼の頭をゆっくりと撫でる。
「桜の花びらがついてたからとったのよ」
「そっか…俺、ずっと寝てたんだね」
彼は呟いて、大きなあくびをした。うららかな春の日差しが、彼を優しく包んで
“静かな共鳴”で世界が広がる~14歳の時に書いた作文を読み返して思ったこと~(エッセイ)
先日、実家に帰った時のこと。置きっぱなしだった書籍を持ち帰ろうと自室だった部屋の本棚などを漁っていたら、B5判の薄い冊子を見つけた。
タイトルは「ジュニア作文 作品集」。発行はNHK学園。
私が中学2年生、14歳の時に受講していた通信教育講座「ジュニア作文」で、年に2回出していた作品集だ。
ここには、受講生が提出した作文の中から選りすぐったものが掲載された。手元にある2冊の作品集には、私が書いた
月が見ていた(ショートストーリー)
行きつけのバーは今日も賑わっていた。
俺はカウンターの隅で1人静かに飲む。
半年ほど生活を共にしていた人と別れたばかりで時間をもてあまし、毎晩のようにこの店に通っていた。
「次はどうなさいますか?」
バーテンが声をかけてきた。
「あぁ。酔えればなんでもいいよ」
そう言うと、バーテンはグラスを拭く手を止め、じっと俺を見た後、口を開いた。
「あの…この間からあなたを見てきて、どうも何かを忘れた
僕の薔薇が咲く日まで(ショートストーリー)
君の胸の中に薔薇が棲みついたのは、夏が始まる前のことだった。最初はなんだか変な咳をしているな、と思っていた。医者に診てもらうと、「レントゲンに薔薇が映っている」という。そんな馬鹿な。
「これは一種の奇病ですな」
施す術はないという。鎮痛剤をもらい、僕たちは家に帰った。
咳はどんどん長く、頻発していき、その度に君は苦しげに呻き声をあげた。
ある晩、一緒にベッドで寝ていると、君はひどく咳き込
表舞台から消えてしまった人気者と、そのファンの話(ショートストーリー)
Twitterのタイムラインに流れてくる「診断メーカー」(面白いお題を自由に作成できるソーシャルサービス)。誰かが作成してくれた“診断”について、自分のアカウント名などの名前を入力すれば、診断結果が出てくる手軽さが人気。
気に入った結果をツイートすれば、仲間内で盛り上がりますね。
最近私のタイムラインに流れてきた“診断”が「こんなお話いかがですか」。
名前を入力すると、「お話」の始まりと結末がラ