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雲の向こうで翼を広げて(連作短歌)

「忘れられずに」

羽休め むき出しの愛にしがみつく
どこでもないどこかに行こうよ



僕と君 つないだ手と手 離したら
色彩のない世界がにじむ



君の温もり唇の柔らかさ 
消えない肌の記憶たどりぬ



「焚き火」

揺らめいた焚き火の炎その先に
ためらい動く君のくちびる



君にまた会いたくて焚き火飛び越えて
凍った笑顔を吐息で溶かす



肩寄せてまどろむ姿 笛吹きに
連れ去られぬようしるしをつける



「煙草」

紫煙の匂いが好きなの
ざらついた愛を吸いこみぼんやりと啼く



少しだけ甘い香りを吸わせてよ 許して冷えた手をまたつなぐ


煙吐く乾いた口に舌這わせ
暗くてうねる出口を探す



「空」

執着の鎧を捨てた明け方の薄れる月に手が透ける、秋



雲切れて ひらりと翼ひるがえす
縛りつけてた僕をゆるして



雲流れ景色の波間に泣きぼくろ
見つけて祈る君の幸せ



【終わりに】

今回は自分の中でストーリーを作り、それに沿って短歌を詠みました。

主人公は“僕”と“君”。2人はコインの表と裏のような存在。理想と現実、情熱と冷静、愛したい“僕”と愛されたい“君”。背中合わせの感情を持ち、お互いがいないと生きていけないと思いこみ、依存しあっている。

愛を睦み合うかのように唇を重ね、肩を寄せあい、くっつき、離れ、悩み、傷つき、仲直りしてまた手を取り合う。
焚き火の炎と煙草の煙は、それぞれの心の揺れ動きの象徴。

でも最後に、そんな執着しあう関係から“君”が抜け出し、翼を広げて空へ飛んでいく。

時が経ったある日、“僕”は空を見上げて“君”を見つける。
“君”も空の上から、地上にいる“僕”を見つける。

友情とも愛情ともつかない、自分たちでも戸惑うほど消化できない気持ちを抱えている2人のストーリーです。
でもこれは、もしかしたら1人の人間のなかにある相反する意識なのかもしれません。

「大人になりたくない」と自己主張する”僕”と、冷静に客観的に物事を見つめる”僕”ー。その2つが大人になるにつれて、葛藤してもがく。

最後には、大人になった”僕”が空を見上げて、幼くて愛を求めてわがままだった”僕”を思い出す・・・。

もう少し短歌を足していったら、ストーリーにもっと厚みが増すのかな、と思いました。

それにしても、短歌って奥深いですね! 
1首の中にも多様な解釈ができるし、連作短歌は長大な小説に勝るとも劣らない。

多くの物語を秘める短歌に、尽きることのない魅力を感じています。

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