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僕は僕の喜びを(連作短歌)

「別れ」

たべてねておこってゆるして共白髪
さいごは微笑う覚悟がほしい


つややかな微笑み残して星の夜 
対岸に消える君をみおくる



「僕ひとり」

贈られた薔薇を吊るしている壁で
逆立ちぐらぐら我慢くらべ


日だまりの床で抜け毛を探す僕
甘える猫はもういないのに

君のない世界で僕はひとりきり 
秋刀魚の腹を割っておしゃべり


「幸せ」

湯気ゆらり露天にザブリ飛び込んで
愛にくるまれたあの日のように


秋晴れのうろこつかんですべり台
肩で風きり君に届ける

たとえ明日世界が雨降りでも僕は僕の喜びを抱きしめたい


【終わりに】

大切なひととの別れはかなしいもの。
でも、そんなことがあってもおかまいなしに季節は巡っていきます。
会えない辛さ、切なさを思いわずらっているなかで、ふと空を見上げると夏よりも空が高くなっていることに気づく。熱気が抜け、爽やかに澄んだ空気を肌で感じる。

シンガーソングライターの小沢健二さんの「夢が夢なら」という曲を思い出しました。

この曲は、大切なひととの別れを、移りゆく美しい四季の描写とともに回想し、彼独特の死生観をも表している歌詞と解釈しています(あくまでも私の解釈です。とにかく美しい歌詞でしびれます!「夢の彼岸まで~」から最後にかけてが特に好きです)。

小沢健二さんの歌詞は、しばしば「多幸感がある」と評されますが、それは深い闇やかなしみが表現されているから。だからいっそう、“幸せ”が際立つのではないかと思います。

さて、「夢が夢なら」の秋にまつわる歌詞はこちらです。

夏から秋へと空は高く
はっきりと今僕にはわかる
僕はあなたに会えたことを
ずっと幸せに思うはず

たとえ今は一緒にいなくても、大切なひとに出会えたこと、幸せな日々を送っていたことを思い出し、少しでも気持ちに晴れ間がのぞけばいい。

そんな思いで今回の短歌を詠みました。

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