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祖母と母と私の已己巳己(いこみき)

ある年の夏、秋田県の男鹿半島を旅した。
私と父母と弟、そして母の母-私の祖母とで。
父の運転する車で半島の海岸線を走る。

助手席に座る母の顔色が青い。原因は聞かなくても分かる。車酔いだ。
私と祖母は顔を見合わせて笑った。

私たち3人は乗り物に滅法弱い。たいてい誰かが酔っている。だが不思議なことに、3人同時に気分が悪くなることはなかった。2人が酔うと、残る1人は気持ちがシャンとするのかもしれない。

時刻はお昼。ここらには地の海鮮を食べさせる店が多い。私たちは「ウニ丼」の看板に引き寄せられるように、民宿を兼ねた食堂に車を寄せた。

母は車内に残った。私と祖母はなぜかはしゃいだ。
元気でいられた特権とばかりに、甘いウニを夢中でほおばり、思う。

これはめぐりあわせ。次の機会に自分に降りかかったなら、地獄の苦しみと孤独に向き合うだけ。

私たちは似たもの同士だからわかるあの気持ちを胸に抱えつつ、磯の香りを口いっぱいにして、とろけるウニ丼を完食した。

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