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道草晴子 『よりみち日記』 : 道ばたに咲く〈一輪の花〉として

書評:道草晴子『よりみち日記』(torch comics・新潮社)

書店でたまたま見かけて購入した本だ。表紙を見てみると、どうやら作者は障害を抱えた人のようだが、けっこう愛らしい絵柄なので、読んでみる気になった。

作者は、かなり数奇な人生を歩んできた人である。
13歳でちばてつや賞ヤング部門優秀新人賞を受賞するが、14歳で精神科病院に入院。成人後に退院するが、両親と疎遠になっていたため、障害者支援を受けながら苦しい自立生活を続け、30歳になってから「自分の体験を生かし、同じような苦しみを抱える人を励ますマンガを描こう」と一念発起してマンガの持ち込みをし、みごとに作家デビューして連載を始める。2015年に初の単行本『みちくさ日記』を刊行し、これが高い評判を得るが、その後も創作と生活における葛藤を抱えながら、今回、『みちくさ日記』の続編となる、本書『よりみち日記』を5年前ぶりに刊行した。一一というような経緯である。

つまり、本書は、作者のこうした「人生の歩みとその生活」を、現実のエピソードを紹介するかたちで描かれた「自伝的エッセイマンガ」とでも呼べる作品であり、フィクション作品ではない。
だから、通常のような「マンガ的な娯楽性」を求めると期待はずれになるだろうし、作者に「特別な感性の鋭さ」といったものを求めても、期待はずれになるだろう。

本作の「作者の魅力」とは、要は、生来の障害に由来するのであろう「不器用さ」を抱えて、始終、挫折しかけながらも、友人や周囲の人たちに支えられて、マンガ家となることが出来、マンガ家を続けることができているという、その「健気で幸福な人生の歩み」そのものにある、と言えるのではないだろうか。

だから、前作『みちくさ日記』のレビューを見てみると「結局は、モテモテじゃないか(だからうまく生きられているだけ)」といった否定的な感想も見受けられたが、しかしそれは、作者に「マンガの主人公的な、非凡性」を求めるが故の期待はずれでしかなかろう。

もちろん、こうした作品を描けるのだから、作者にもなにがしかの才能はあるのだが、それは際立った「天才」性などではなく、むしろある種の「人間的な素直さ」なのではないかと思う。それがあるからこそ、作者はその人生において、弱さを抱えながらも孤立することなく、周囲に支えられることで生きてこれた、そんな普通に「弱くて強い人」なのではないだろうか。

作者が、こういう障害を抱えながらも懸命に生きている「可愛い人」だからこそ、少なくないレビュアーは、彼女を応援してあげたいという気持ちに駆られて、その作品を過剰なほど絶賛してしまうのだが、しかしそれは、彼女の作品が特別に優れているということを意味しているのではなく、彼女の人生が絶賛に値する素晴らしいものであるということであり、作品はその反映として素晴らしい、ということなのだと思う。

「非凡な主人公」が活躍するエンターティンメントとしての「面白いマンガ」が、マンガの主流であろうことは論を待たない。
けれども、そんなマンガの世界にあって、主流からそれて道端に咲いている、本書のような「読者応援マンガ」があっても、それはそれでもちろん、良いに決まっているのである。

初出:2020年10月31日「Amazonレビュー」
  (2021年10月15日、管理者により削除)

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