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ミンナノオキニ。〜みんなのお気に入りの140字小説特集〜

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皆さんに『好き』とコメントをお寄せいただけた、いわば皆さんのお気に入りに、私のお気に入りも少しだけ織り交ぜた140字小説の特集です。みんなで《オキニ》を増やしていきましょう。 … もっと読む
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記事一覧

140字小説【トモダチの成り立ち】

140字小説【トモダチの成り立ち】

 僕は“ト”様だ。親の都合で遠い所から転校してきた。
 田舎じゃ僕みたいなよそ者に仲良くしてくれる人なんていないし、僕だって、わざわざ誰かと仲良くなろうなんて思わない。
 だけどター君だけは僕にこう言ってくれた。『“ト”もダチだ』と。
 だから僕は今でも、彼と一緒に“外”で遊んでいる。

140字小説【腹を割って話そう】

140字小説【腹を割って話そう】

「ひ、久しぶり……だね」
「うん、久しぶり!」
「どれくらいぶりだっけ? 私たち、その……別れてから」
「半年くらいかな!」
「そっか……それにしても変わったね。何て言うか、たくましくなったような……」
「そりゃあ、君とはずっと腹を割って話したかったからね!」
「それでそんなムキムキに……」

140字小説【B級映画】

140字小説【B級映画】

「へぇ〜っ、こんな所に映画館あるなんて知らなかった〜。結構B級感漂ってるけど」
「このレトロな雰囲気がいいんだよ! 今日はここで流行りの怪獣映画を見るんだ!」
「怪獣映画? それってもしかして、昔から有名な、あの?」
「何言ってんの、コレだよ」

15:00〜上映【怪獣案内人 −コチラ−】

140字小説【シューマッハ】

140字小説【シューマッハ】

「おはよう、シューマッハ」
「どうしたの? シューマッハ」
「今日のおやつは何食べるの? シューマッハ」

 ……最近、妻が家で顔を合わせる度に、俺のことを『シューマッハ』と呼んでくる。
 どうやら俺が妻のシュークリームをマッハ(一瞬)で平らげてしまったことを、未だに根に持っているらしい。

140字小説【断シャリ】

140字小説【断シャリ】

 回転寿司にて。

「もう年末か〜。アンタの家はもう大掃除始めたりしてんの?」
「少しずつ断捨離してるよ」
「へぇ〜。私なんかさぁ……あっ、サーモン来た」
「そういやアンタ、炭水化物抜きダイエットは?」
「ああ、やめたわ。やっぱり私には向いてなかったのよね〜、モグモグ……」
「断シャリ失敗ね」

140字小説【台風一家】

140字小説【台風一家】

「せっかくの休みに家でゴロゴロと……ちょっとは外で遊んできなさい!」
「嫌だ! だって僕が外に出たらみんなが迷惑するから……」
「またそんなこと言って! 《子どもは風の子》って言うでしょ!」
「風の子は風の子でも、僕たち家族みんな《台風》だろ!! 太陽君や雪ちゃん家とは違うんだよ!!」

140字小説【家業と作業】

140字小説【家業と作業】

「お願いです、私にカ行を継がせてください!」
「それならもう間に合ってる。カ行は末っコに受け継がせるからな」
「そんな!? 私の何が駄目だと言うのですか!? 今までずっと隣でお仕えしてきたのは私じゃないですか!!」
「とにかく無理なものは無理なんだ! わかったら、とっととサ行に戻れ!」

140字小説【技を盗め】

140字小説【技を盗め】

「いいか? 料理は教わるもんじゃねぇ、盗むもんだ」
「はい! 親方!」
「分かってりゃいいんだよ。それより最近、妙に食材の減りが早い気がするんだが……お前何か知らねぇか?」
「知りません!」
「そうか。で、お前はさっきから何食ってんだ?」
「食ってません! 盗んでます!」
「ならいいんだよ」

140字小説【さっきからアナタは】

140字小説【さっきからアナタは】

 せっかくのお家デートなのに彼ときたら、私の隣でずっと上の空。まぁ、そんな彼の物憂げな横顔も好きだけど。
 ねぇ、アナタは今、何を考えているの? さっきから何を見上げているの……?

「どうしたの?」
「虫が一匹飛んでるんだよ。さっさと始末しないと」

 ……殺気から見上げていただけだった。

140字小説【山があれば】

140字小説【山があれば】

「なぁ、《山がある》って何だ? 山があるから何だというんだ?」
「ああ、おじいちゃん。それね、《山がある》じゃなくて《山ガール》。山登りするガールのことね」
「そうか。じゃあ《山ガール》がいれば《海ガール》もいるのか?」
「多分いるでしょうねぇ」
「海を登るのか?」
「見てみたいですねぇ」

140字小説【駆け出汁】

140字小説【駆け出汁】

「出過ぎた真似をして、申し訳ありませんでした」
「気にするな、出始めの頃は誰だってそうさ。次から気をつければいい」
「ありがとうございます」
「まぁ、いくら俺たちが気をつけたところで、結局は俺たちを使ってくれる人間次第だけどな。おっ、そろそろ出番らしい」
「お疲れ様です、ケチャップ先輩」

140字小説【ありがと】

140字小説【ありがと】

 朝食を作ったとき、掃除したとき、荷物を持ったとき……自分にとっては些細なことでも、妻はことあるごとに「ありがとう」と言う。
 その頻度は日を追うごとに増していき、寝る前ですら言ってくるようになった。

 そんな妻が最期に目を閉じるときも、スマホで打ってくれた文字は「ありがと」だった。

140字小説【夫婦の終わりの始まり】

140字小説【夫婦の終わりの始まり】

「最近、夫がオナラで返事するようになって……私たち、もう終わりなのかしら?」
「な〜に言ってんの! 私なんてオナラにはオナラで返してやってるわよ!」
「そ、そうなの?」
「そもそも家でオナラできるってことは、それだけ安心してるっていう証拠。終わりどころか、むしろ本当の夫婦の始まりよ!」

140字小説【転職】

140字小説【転職】

「こんにちは! こちらではアナタの経験値と引き換えに、レベルアップやジョブチェンジを行うことができます。本日はどういったご用件でしょうか?」
「あの〜、勇者に転向したいんですけど」
「すみません、現在のアナタの経験値では遊び人くらいしか……」

 ……こうして俺は、めでたく遊者になった。