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好きな記事、好きな小説、好きな文体

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個人的に好きな記事や小説や文体。個人的に注目している書き手、活動。
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#短編小説

【小説】 Draw Your Rainbow

【小説】 Draw Your Rainbow

 「虹描きは、不要不急です」
 そう、文科省のお偉いさんに言われた楓は激怒していた。
 「たくさんの人々が家に拘束されている今こそ、虹を描かなきゃいけないんです!」
 それでも、先方の言い分は一向に変わらなかった。
「疫病の蔓延を抑えるために、不要不急の外出は控えてください」
 壊れたレコードのようにそう繰り返すので、楓は怒りに任せて電話を切った。

 だめだ、埒が明かない。月読さんに電話しよう。

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【ショートストーリー】三条大橋の男

【ショートストーリー】三条大橋の男

「お母さんおおきに。行ってきます」

兎の結は、タクシーにのって、街から少し遠い料理屋のお座敷へ向かった。 

料理屋につくと、すでに地方の姉さんがたがついていて、一番下っ端の卯の結(うのゆう)は慌てて挨拶をした。

どうやら今日は、舞妓は卯の結一人だけらしい。

お座敷はいつもどおり進んでいき、5、6人の客も、芸妓の姉さんも酔いが回ってきたころ、卯の結は、自身に向けらている熱い視線に気がついた。

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【小説】 つぎのおはなし

【小説】 つぎのおはなし

「ゆうちゃん、もうおしまい。帰るよ」
 そう繰り返す私の声は、徐々に厳しくなっていった。

 それは、入院している父を見舞いに行った帰りのこと。病棟の来客スペースにあるテレビを食い入るように見つめる二歳の息子は、一つのことに熱中しだすと、なかなか次の行動に移ってくれなかった。
「お母さん、これから買い物行かなくちゃならないの。はやくして」
 無駄だと分かっていても、イライラしてしまう。もうちょっと

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砂男さま、登場。

砂男さま、登場。

noteを始めて2ヶ月が経過した。
とにかく最初はある程度のクオリティを保ちながら、2日に1度は書くことを目標にした。

書き終えると、当然のことながら記事の反応が気になり、3分に1度のペースでチェックし、反応がないと溜息を漏らした。
自分の記事が少ないことが恥ずかしくて、書いては予約投稿、書いては予約投稿を繰り返し、明日が来るのを待ちわびた。

少しずつコメントがつき始め、皆さまの記事を読める余

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童心を思い出した僕たちと今の君たちが繋がる日

童心を思い出した僕たちと今の君たちが繋がる日

「4人で新しく出来る小学校のプロデュースをしてください。」
7月、新入社員研修が終わった俺たちが初めて任された仕事は、一年かけて理想の学習環境を作り出すことだった。

プロデュース?学校を?1年で?
学校の形の大枠は決まっているし、プロデュースっていったい何をすればいいんだ?
全く話の全貌が見えてこない。
困惑する僕たちに上司は、構想8ヶ月、試行一年というスケジュールと学校の場所だけ告げた。

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記憶の名残り

記憶の名残り

はしがき戦後の混乱が回復するまでの数年、戦中から制定された食糧管理法は、何度か改正された。その間、主食である米穀の生産、流通、消費にわたって政府が何らかの形で介入し、管理されていた。
米穀は配給制のため、都市部の家庭では不足しているのが実情であった。
そのため農家が配給に供出していない米を、金や着物などで取引して手に入れる、「闇米」が社会の底辺で流通していた。
その闇米を農家から直接高い値で買

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