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#恋

「少し寒い」×「あと1時間」× #54917f

「少し寒い」×「あと1時間」× #54917f

 狭苦しいキッチンに甘いとろけるような香りが立ち込める。
 甘いものが苦手な私の部屋では珍しい。20を超えて早数年。アラサーに片足を突っ込んでいる私が手作りチョコレートを作っているってなんかおかしい。困らないくらいには稼いでいるんだから、ブランド物のチョコレートでも叩きつければいいのである。

 バレンタインに染まった街は、そこらじゅうにピンクとハートが溢れていて、見ているだけで胸やけを起こしそう

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「可愛い後輩」×「会議」× #5F9EA0

「可愛い後輩」×「会議」× #5F9EA0

『先輩、とても退屈です』

 隣に座る先輩にメッセージを送ってみる。

 週に1度のミーティングは面白くもないし、正直無意味だと思っている。勉強会も兼ねたこの集まり、正直何も得るものがない。

『私だって退屈』

 ちらりと横を見ると、表情を崩さずに頷きながら熱心にメモを取る先輩の姿が見える。業務上、パソコンを使うことが多いから、メモは紙よりも電子。覗き込まれない限り、何をしているのかは分からない

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「眠いのに」×「オーブンレンジ」× #FA8072

「眠いのに」×「オーブンレンジ」× #FA8072

 『オーブンレンジが届きました。明日、午前中に私の家にきてコーヒーを淹れてから起こしてください。朝ごはんはイングリッシュマフィンのオープンサンドが食べたい。マフィンは買っておくから作ってください。夜ごはんはグラタンを作ります。』

 久しぶりに、リクから連絡がきた。いつもはこちらから送るばかりで、返信も3回に1回くればいいほうだ。

 こちらが会いたいときに、一方的に待ち合わせ場所と時間を送り付け

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「まだ寝ていたい」×「どこで飲むんだろうか」×#add8e6

「まだ寝ていたい」×「どこで飲むんだろうか」×#add8e6

 ふぅーと空に向かって息を吐きだすと、真っ白なふわふわが音もたてずに消えていった。

 冬の朝は、鼻の奥がキシキシと痛む。冷たい空気を思い切り吸い込むと、胸の奥から身体全体を冷やしていくような気がする。グレーの色をまとった街は、いつもよりなんだか静かだ。いつもと同じ時間のはずなのに、曜日によって街は全く違った顔を見せる。

 車移動が当たり前の地元ではわからなかったことだ。仕事が休みの人が多い朝は

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「蝶」×「まんまるだ」× #DDBCFF / しの

「蝶」×「まんまるだ」× #DDBCFF / しの

 私は完全に朝方の生き物だ。なかなかイマドキの子にしては珍しいんじゃないだろうか。
 決まった時間に目が覚めるし、決まった時間には休む。日が落ちた時間なんて、気分まで落ちちゃってもう最悪なんだから。空気はしんと冷たいし、真っ黒なつまらない服を着た人たちがふらふらと歩いていく。朝と夜、時間が変わるだけなのに、同じ服がまったく違うものに見えるのはなぜなのか。分からないけれど、とにかく夜に見る黒い服を着

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「夜は何を食べよう」×「卵」×FFF799

「夜は何を食べよう」×「卵」×FFF799

 例えば、コーヒーを飲み終えたカップに緑茶を注ぐとか、二人しかいないのにポットにたっぷりのお湯を沸かして一気にお茶を淹れてみたりだとか。彼女にはそういう大雑把なところがある。

 だけど、正直彼女のそういうところは嫌いになれないし、というかむしろ好きだし。

 すっかり冷めた緑茶をすすりながら、ペラペラと資料をめくる彼女の姿を眺める。大雑把なくせに片付いている部屋とか、笑うときは口元に手を添えると

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「まどろむ」×「よく聞こえない」× #8FBC8F

「まどろむ」×「よく聞こえない」× #8FBC8F

 耳元で携帯の震える音が聞こえる。
 鼻にしつこいくらいにこびりつく甘い匂いに、思わず眉をひそめた。友人が海外旅行のお土産でくれたトリートメントは、数種類の花の香りがブレンドされているらしい。この調子だと、数日はこの香りに悩まされるだろう。枕にもしっかりと染みついているのが、少し恨めしい。
 開かない目でしぶしぶ携帯の画面をのぞくと、十数件のメッセージが届いていた。

「ミサ、話を聞いてほしい」

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「早く終わらないかな」×「最高の充実」× #0000CD / しの

「早く終わらないかな」×「最高の充実」× #0000CD / しの

 宮本先生はいつも優しい。身体は細いくせに、笑い声は大きくて、若い先生が珍しいうちの高校では女子に人気だ。

「瀬戸、寝るな」

 注意する声すらも優しい。数学は嫌いだけれど、宮本先生の授業は好き。分かりやすくて、点検されたノートには可愛いスタンプとコメントが添えられている。私のノートに押されるスタンプはいつも「がんばりましょう」。猫が旗を振っていて、私にエールを送ってくれている。『瀬戸ならもっと

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「目が回る」×「ドアに付箋」× #00FFFF

「目が回る」×「ドアに付箋」× #00FFFF

「……よっと、靴多すぎ。ん?」

『玄関に出していていい靴は3足まで。朝香の足は何本あるの?』

 目の前に現れたカラフルなブルーのメッセージにげんなりする。はがすのも面倒だから、そのままにして無理やり足を、たくさんあるうちの1足に突っ込んで玄関を出る。

「説教くさぁ……。」

 朝香の足は何本あるの?母親のような彼の小言が頭のなかをぐるぐるする。

 朔也のメッセージは留まることを知らない。困

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