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「動きたくない」×「いざ出発」× #8EFFC6

 あの夜から、3週間が経った。

 一人になることに抵抗はなく、ユウイチくんのいない生活には思ったよりも早く慣れていった。結局、私は彼に心を開いていなかったということなのかな。いつでも私のペースで生活をしていて、彼はあくまでも合わせてくれていただけ。彼は、私が彼に合わせていると思っていたかもしれないけれど、実際は逆だったのかもしれない。私は、結局どんなときも自分のやりたいことを優先しているのだ。

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偏見は気づかない×水筒×#B2B2FF

 カシャカシャと軽い音を立てながら、たくさんの書類がコピー機のなかに飲み込まれていく。社内では電子でもいいが、さすがに社外での打ち合わせではまだまだ紙ベースである。基本的に自分のことは自分で、が徹底された社内で、若い女性社員に「これコピーとっていて」をする男は嫌われる。

「渡辺さん、コピー終わりました。」

「よし、じゃあ行きますか。」

 先輩の渡辺さんはいかにも“優男”って感じで、人当たりも

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頭がぼんやりする×エージェント×#F4A57A / しの

 たとえば、爪をじっくりと眺めてみる。大きくも小さくもない私の爪は、当たり前のようにそこに存在していて、でも私以外の誰にも必要とされていない。去年買ったばかりのネイルポリッシュには、ずいぶん前に飽きてしまった。爪はペラペラになるし、ずぼらな私には向いていない。数週間に一度、爪磨きをするくらいの手入れが私にはちょうどいい。

「サトコはネイルとかしないの?」

 ユウイチくんが、放り出された私の手を

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「あと少しだけ!」×「ネイル」× #4D4398 / しの

「あと少しだけ!」×「ネイル」× #4D4398 / しの

 呼び出されたから来たものの、退屈すぎるからもう帰ってもいいかなーなんて考えている。薄いピンクのシフォンスカートに、昨日買ったばかりのざっくりとした網目のセーター。ヒールは6㎝だし、バッグはコンパクトなサイズでデートスタイルとしては完ぺきなのに。

「内藤、今日はありがとな。仕事のあとなのに」

「ううん、全然。」

 にっこりと、鏡で練習したとおりに笑いかける。竹中くんは悪い人じゃないけれど、仕

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「コードレビューまみれ」×「カウントダウン」×#228b22 /しの

「コードレビューまみれ」×「カウントダウン」×#228b22 /しの

 病み上がりの仕事はキツイ。深く息を吸い込んで、思い切り背筋を伸ばす。

「せんぱーい、これもいいですかー」

「おっけー送っといて」

 返事をしながら、プロテインバーの袋をもそもそと開封する。しまった、これは開けにくいパッケージだった。握力が弱いからか、袋を破くのが苦手だ。会社となると、口であけるわけにもいかない。

 病気というものは、つくづく土日に発症すべきでないと思う。それでも、私が病気

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「サポートは大切」×「くぎづけ」× #D2B48C

「サポートは大切」×「くぎづけ」× #D2B48C

「みゆきはかわいいからなぁ」

 そう言って、私の頬を撫でる指が嫌いだった。愛おしそうに目を細めて、子ども扱い。やることはやっているくせに、一人の女としては見てくれなかった元カレたちには、なんとなく冷めていって私から別れを切り出した。といっても、元カレはせいぜい3人。彼らの名前は憶えているけれど、顔はすでにあやふやだ。

「顔色、よくなったね」

 日曜日、ぼさぼさの頭で起きてきたさとみちゃんに朝

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「やっちまった」×「どら焼き」× #8b968d

「やっちまった」×「どら焼き」× #8b968d

 竹中隼人は落ち込んだ。

『さとちゃんが風邪を引いたので、今日の約束はキャンセルさせてください。本当にごめんなさい。』

 彼が、内藤みゆきにいわゆるデートに誘い始めてから約3カ月。ようやく漕ぎつけた約束だった。しかし、同居人である中川さとみが寝込んでいるというのなら、それを責めるわけにはいかないだろう。隼人は、今頃献身的に看病をしているであろう彼女を好きになったのだから。

 隼人と中川さとみ

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「まぶたが開かない」×「できなかった」× d6adff

「まぶたが開かない」×「できなかった」× d6adff

 やっちまった……。扉を隔てたあちら側から、温かい匂いが漂ってくる。何も言っていないのに、さとちゃんはリビングに続く扉を少しだけ開けてくれていた。風邪のときは、みんな少しだけ心細くなっちゃうから、だって。

 少なくとも、独り暮らしのときの私は風邪をひこうが、寝込もうがあまり気にしたことなかった。寝てれば治ると思っていたし、それはほぼ正解で。常備しておいた薬を飲んで、会社の帰りに買ってきておいたス

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「5分」×「早起き出社」× #74325C

「5分」×「早起き出社」× #74325C

 年中無休で嫌いだけど、冬の目覚ましは特に嫌い。ぬくぬくと自分の体温であったまった布団って気持ちいいし、頭のなかがとろけそう。意識をしっかりさせようと、少し冷えた指先で目元をこするとちくちくと悔しさが胸をかすめる。学生みたいに、自堕落に、とめどなく、自分だけの時間を過ごすことって少しずつ難しくなってるんだって分かるから。

 眠たいままに身体を起こして、ひんやりとした部屋の空気で頭を働かせる。もそ

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「少し寒い」×「あと1時間」× #54917f

「少し寒い」×「あと1時間」× #54917f

 狭苦しいキッチンに甘いとろけるような香りが立ち込める。
 甘いものが苦手な私の部屋では珍しい。20を超えて早数年。アラサーに片足を突っ込んでいる私が手作りチョコレートを作っているってなんかおかしい。困らないくらいには稼いでいるんだから、ブランド物のチョコレートでも叩きつければいいのである。

 バレンタインに染まった街は、そこらじゅうにピンクとハートが溢れていて、見ているだけで胸やけを起こしそう

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「可愛い後輩」×「会議」× #5F9EA0

「可愛い後輩」×「会議」× #5F9EA0

『先輩、とても退屈です』

 隣に座る先輩にメッセージを送ってみる。

 週に1度のミーティングは面白くもないし、正直無意味だと思っている。勉強会も兼ねたこの集まり、正直何も得るものがない。

『私だって退屈』

 ちらりと横を見ると、表情を崩さずに頷きながら熱心にメモを取る先輩の姿が見える。業務上、パソコンを使うことが多いから、メモは紙よりも電子。覗き込まれない限り、何をしているのかは分からない

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「きらきら光る」×「休もうかなぁ」× #3cb371

「きらきら光る」×「休もうかなぁ」× #3cb371

 なんとなく、そんな気分だったから。

 公園のベンチに座って、あんパンを手に空を見上げる。冬の空は清々しくて、少し寂しい。点々と散る雲は薄く柔らかそうで、ふんわりと手元に落っこちてきそうだ。冷たい風が頬を撫でて、相反するように私の足元を太陽がぬくぬくと照らす。

 大きな理由もなく、会社の最寄りの駅で足が動かなくなってしまった。

 金曜日、週末――大好きな言葉たちは、一週間の締めくくるための奮

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「1本遅い」×「起きるのは大変」× #b22222

「1本遅い」×「起きるのは大変」× #b22222

 彼は早起きだった。私よりも1本速い電車に乗るはずの彼は、私が家を出る1時間前に駅へと向かう。駅前の喫茶店で朝刊を読むのが好きだった。

 彼は、私の見送りは必要としなかったし、私に朝食を作ることを強要することもなかった。穏やかで、笑うことは少なかったけれど、激昂するということもなかった。

 だからだろうか、終わりもあっさりとしていた。

『もう終わりにしよう』

 落ち着いた彼の声を、私は拒否

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「笑わせたい」×「久しぶり」× #E60012

「笑わせたい」×「久しぶり」× #E60012

 声にならない声をあげて、思い切り背筋を伸ばす。獣のようなうめき声が部屋に響いて、思わず吹き出してしまう。

 首をぐるりと、右と左1回ずつ。鈍い音が響いて、思わずため息が漏れる。

 ペタペタと音を立てて、フローリングに足を滑らせる。冷蔵庫を開くと、微かな冷気がむき出しの腕を撫でる。

「……っし」

 3カ月前に買いっぱなしだったコーラ。コーラは絶対に缶が好きなのだけど、あるのはペットボトルだ

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