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SF、読書のよろこびマガジン

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大人になってからSFの楽しみを知った人の記録。本が好き、ゲーム興味ないかたはここで。
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#読書メモ

太宰「映画好きは弱虫である」

太宰治の文章を280個まとめ買いしてちょっとづつ読む。

「弱者の糧」
文学と違って映画の観方が素朴すぎて、太宰ってこんな?と驚く。
映画を観るとほぼ泣いてしまう。
どんな酷評されてようが泣く。
翌日に思い出してまた泣く。
「映画を芸術だと思っていない。おしるこだと思っている」
「けれども人は芸術よりもおしるこに感謝したいときがある」

「川端康成へ」
文藝春秋で川端康成に小説を酷評された返答。

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【読書記録】吉村昭「高熱隧道」

【読書記録】吉村昭「高熱隧道」

「昭和は今考えるとおかしい」
テレビ番組のフォーマットで、年の差ゲストを読んで昔の映像を流すのが人気だ。
ぼくは理解できる昭和もあるけど、
「黒部渓谷のトンネル工事、開通までの犠牲者300人以上」
は、さすがにノンフィクションなのか、あとがきを読むまで信じられなかった。人名や細かい行動はさすがに架空のようだが、事実関係は調査した通りだという。

発電所完成のために北アルプスに貫通させるトンネル工事

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【読書】ミステリーしか読まない人にも保坂和志を読んでもらいたい。「ハレルヤ」

【読書】ミステリーしか読まない人にも保坂和志を読んでもらいたい。「ハレルヤ」

あらすじだけ切り抜いたら、よくある、泣ける動物ものみたいだけど違います。
がんになった猫の花ちゃんにリスクのある治療を受けさせようか迷ったら、花ちゃんは「ニャア!」と鳴いた。
「花ちゃんがやるって言ってる!」
と、飼い主の夫婦は治療を決めた。

保坂和志短編集「ハレルヤ」

ペットが死ぬ話だけど、飼い主はずっと深刻になるわけじゃなくて、猫に関連する昔のことを思い出したりどうでもいいことを連想したり

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【読書】少女愛、義理親娘、寝取られ、妊娠、復讐。ナボコフの「ロリータ」

【読書】少女愛、義理親娘、寝取られ、妊娠、復讐。ナボコフの「ロリータ」

シャーロックホームズと同じくらい、読んでない人でも知っている小説の登場人物。ロリータ・コンプレックスのもとになったウラジーミル・ナボコフの「ロリータ」を読む。
精霊ニンフのような魅力を放つ「ニンフェット」の少女と、愛する者、愛された側の関係の物語。完全にネタバレします。

冒頭で「ロリータ」の名前の呼び方、授業でやったような発声法から始まる。
舌が口蓋を2歩下がって3歩目に歯を軽く叩いてロリータの

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宇佐美りん「くるまの娘」 話がはずまない人との車内会話あるある、話題が前の車のナンバープレート!

宇佐美りん「くるまの娘」 話がはずまない人との車内会話あるある、話題が前の車のナンバープレート!

宇佐見りん「くるまの娘」を読みました。

車は、家と違って部屋にこもることもゆるされない「ゆるい密室」。
DVの父、病気で不安定な母、逃げたり病んだりした兄妹が久しぶりに祖母の葬儀のために集まる。

短い話に書かれてない「空白」でも家族それぞれが生きてきた感じ、名前すらはっきり出てないのに、それぞれが人間として言い分がある感じ。たまらなく不快で上手い。

父はおとなしいけど、人が変わったように家族

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【読書日記】米澤穂信の黒牢城がスゲくてスゲくて声も出ねえよ

【読書日記】米澤穂信の黒牢城がスゲくてスゲくて声も出ねえよ

まだ読み終えてないのでネタバレしません、できません。

いくさのあと、誰がより上の位の敵を討ち取ったか、誰に褒美をさずけるべきかを検分する「首実検」をテーマに一章書いた着眼点がすごい!
生首が常に出てくるから映像が手をつけにくかったところに踏み込んだ面白さにくわえて、かぶとの形の流行とか、身分の低いものが上の者と会話するときにどんな姿勢でどんな態度だったのか、どれだけ取材したのかわからない細かいネ

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【読書メモ】蜜柑と檸檬、どっちかを食ってどっちかを読みました

【読書メモ】蜜柑と檸檬、どっちかを食ってどっちかを読みました

梶井基次郎の檸檬を読んで、蜜柑を食べました。
本好きを名乗っている割に教科書に乗るような古典を全く知らないんですが、ひとつひとつハードルを跳ぶように読む。
ふと手にしたレモンを爆弾に見立てた人らしい、という認識でしたが、本当にその通りでした。

ただし、その表題作が唯一の愉しい想像で、あとはずっと、30代前半で死んだ作者が、病をわずらって寝込んだまま冬の景色を静かに描写している。

その静かな迫力

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金田一耕助シリーズは二人目の犠牲者が出たときが一番怖い。

病院の待合室で「犬神家の一族」を読んだ。
その後バリウム飲んでぐるぐる回る台の上で逆さまに近い状態になって、俺も犬神家!? みたいになったのが面白かったんだけど、こうして書くと作り話みたい。悔しい。

金田一耕助シリーズを読み始めました。
ミステリー好きからしたら「今更!?」って話ですが、仮面の男がいて、犠牲者が池に逆さづりにされるビジュアルが有名なあれ。

「犬神家の一族」は、おおざっぱに言うと

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【読書記録】イギリス人は学校でこんな面白い小説を読むのか、ずるいぞ「蠅の王」

【読書記録】イギリス人は学校でこんな面白い小説を読むのか、ずるいぞ「蠅の王」

路上飲みで騒いでいるグループの報道を見て「あ、蠅の王にいた子だ!」と思ってしまった。

無人島に遭難した子供たちが、彼らなりにリーダーを決めて、毎日のろしを上げて、船が通ったときに気づいてもらうようと約束ごとを決めたけど、途中から仲間割れをおこしてしまう。

約束事を守るグループと、いつかわからない救助を待つより今を楽しみたいグループに分かれる。
秩序VSカオスに分かれるのだ。
カオス側の子供たち

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【読書記録】屋台もない。うどんもない。「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」に出てくる豆腐が気になる!

【読書記録】屋台もない。うどんもない。「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」に出てくる豆腐が気になる!

生きた動物を飼うことがステータスになっている1990年代の未来。
人間のふりをした高性能アンドロイドを排除して賞金でペットを飼おう、あわよくば馬のような大型の生き物を飼いたいと願うバウンティハンター、リック。

彼が持っている機械は、ウソ発見器の進化版のようなもので、相手の顔に器具をつけて、いくつかの質問をして本物の人間かどうかを識別できる。
しかし、新型アンドロイドはその機械で判別できるかどうか

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【読書記録】日常生活の中の遍路「内澤旬子の島へんろの記」

【読書記録】日常生活の中の遍路「内澤旬子の島へんろの記」

四国のわだちがある遍路とは違う、小豆島の遍路みち。
ほぼ廃墟だったり、イノシシに道を掘り返されていたり、ほぼ洞窟だったり、いやここ誰かの庭だろって道があったり、景色はカラフルに刺激的に変化する。

忙しい日常の合間をぬっての、車と歩きを使って長い月日で分割した巡礼の旅。豪快に休みと金を使った旅行記と違って、多くの人にマネできそう。小豆島に行かなくても、知ってるはずの地元の道をていねいに歩くだけで、

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「悪童日記」双子美少年は戦時下でサイボーグになる

「悪童日記」双子美少年は戦時下でサイボーグになる

「悪童日記」は、双子の美少年が、疎開先のおばあちゃん家に連れてこられるところから始まる。

おばあちゃんは服を洗わない。そのへんで用を足す。
戸惑うふたりだが、そこで適応するために自ら厳しいルールを定める。

これから生きるために、自主的に読み書きを学ぶ必要がある。
聖書を手に入れ、店でごねて文房具をゲット。二人で交互に作文を書いて勉強をする。

おばあちゃんや周囲の子供に暴力をふるわれた。
じゃ

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【読書記録】「雨に呼ぶ声」ノーベル文学賞候補・余華の初長編。バラエティ番組の「落とし穴ドッキリ」を連想する。

【読書記録】「雨に呼ぶ声」ノーベル文学賞候補・余華の初長編。バラエティ番組の「落とし穴ドッキリ」を連想する。

!ストーリー重視の作品ではありませんが、内容にふれます!

天災は「菩薩を大事にしないからだ」と迷信で先導する祖父。
封建的で女と子供に厳しい父。
自分だけだと思っていた自慰。好きな子へのイタズラ。思春期の悩みを抱えた主人公。

中国の古い農村の、主人公、父、祖父。
三世代にわたる、老人、おじさん、子供。
それぞれの世代の「どうしようもない男たち」をどうしようもなく繰り返し描く。
特につらい!ひど

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【読書記録】元祖ルパンが大変なものを盗んでいくやつ。八点鍾

【読書記録】元祖ルパンが大変なものを盗んでいくやつ。八点鍾

かごの鳥のように不自由に育ったお嬢様を、ルパンが外に連れ出し、お嬢様に生きるよろこびをお見せしましょう、というものだ。

女性を連れ出したさきで入った無人の屋敷で、ネジを巻いてない、動かないはずの古時計が8つの鐘を打ち鳴らした。
時計の中に引っかかっていたものを見つけ、殺人事件に遭遇するのだが、事件が解決した後。ルパンは退屈な人生にもどろうとする女性を冒険の旅へといざなう。

人生は冒険だ。冒険が

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