見出し画像

「悪童日記」双子美少年は戦時下でサイボーグになる

「悪童日記」は、双子の美少年が、疎開先のおばあちゃん家に連れてこられるところから始まる。

おばあちゃんは服を洗わない。そのへんで用を足す。
戸惑うふたりだが、そこで適応するために自ら厳しいルールを定める。

これから生きるために、自主的に読み書きを学ぶ必要がある。
聖書を手に入れ、店でごねて文房具をゲット。二人で交互に作文を書いて勉強をする。

おばあちゃんや周囲の子供に暴力をふるわれた。
じゃあ、痛くない体を作ろう。普段から痛みに慣れておくため、双子はたがいにベルトで叩き合い、全身あざだらけで平然とすごす。
軽蔑されてもつらくないように、日を決めてお互いの悪口を言い合おう。

修行のかいあって、心の痛みは感じなくなった。他者に対する想像力は消えて、いじめっ子を相手にしたときは容赦なく石を詰めた靴下で殴り、隠し持ったカミソリで切り裂くと相手は逃げて行った。

やらなければやられる。
すべては生存のため、天使のような美少年といわれた双子は、身近な人が死んでも全く動揺しない冷血動物に進化していく。

小銭を稼ぐため、ジャグリングの練習をする。自分たちの容姿が愛されてることをわかってて、酒場でハーモニカを吹く。
ときに目の見えない人や耳の聞こえない人を演じる練習もする。身障者は軍隊入りをまぬがれたり、ときに哀れみをかうことは生存のために使えると学んだからだ。
強さも容姿も語学力も、すべて自分たちが生きるために使う。

戦争と貧困は、子供たちを最短距離で自立させていく。
実際に戦争を経験した作者の静かな怒りを感じる。
こんなことを平然とやる子になっちゃたぞ。大人の勝手で始めた戦争でこんな子供になるしか、生きる方法がなかったんだぞ。この子たちはこうならないと生きていけないんだ、この世界を作ったのは誰だ。悪はどっちだ。だれが悪童だ。

最後に、ひとの子供であれば絶対に踏み越えられない一線を、すたすた踏み越えて、双子少年は未来へと歩みをすすめる。
少年たちは平然としているのか、涙をこらえているのか、希望に輝いているのか、それすらも読者の解釈にまかされている。たっぷりの余白が用意されていて、読み方は自由。

画像1


読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。