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最高の贈り物

「マフラーぐらい、普通、するでしょ?」
美咲が言った。
大志は何も答えなかった。

二人と息子の太郎は、夕暮れの雑踏の中に居た。外ハネにセットされた美咲の髪が静かに揺れていた。


太郎は中学受験を控えている。試験日まであと2週間。
本来なら家に籠って勉強をしている時期だが、思い切って外出しよう、と大志が言ったのは一月ほど前のことだった。

その頃の太郎は計画的に勉強を進めており、模試では第一志望校の合格ラインに達していた。

試験前のちょっとした気分転換は、逆にモチベーションアップにつながるはず。大志はそう考えた。

試験2週間前に少しだけ外出しよう、と言うと、美咲は、
「え?普通、それはないんじゃない?」
と言った。

そこで、大志は、「トゥルース」に行くことを提案した。

「トゥルース」は駅前にある老舗のレストランだ。
店内は白を基調とした落ち着いた雰囲気で、料理にも定評がある。週末は予約必須の人気店。芸能人の来店も多いと聞く。その分、料金は少し高めで、普段使いにはできない。

大志と美咲は、一度だけ、行ったことがあった。それは、大志がプロポーズして、二人が結婚を決めた日だった。

店の名前を出すと、太郎の意見を聞くことになった。
「大丈夫だよ。その代わり、その日は早起きすることにするよ。」
太郎は答えた。
この頃、本当にしっかりしてきたな、と美咲は思った。

家族の了解を得た大志はレストランの予約を取った。
美咲はせっかくなので、美容院に寄ってから行くと言い、夕方6時に駅前に集合することになった。

太郎はぎりぎりの時間まで勉強すると言って部屋に入っている。
時間になれば大志が声をかけることになっていた。

その間、大志は洗濯物を取り込み、家の掃除をした。普段は美咲に任せているが、家事を済ませておけば、今日ぐらいは美咲もゆっくりできるだろう。

どうも掃除に没頭しすぎたようだ。気が付くと家を出ると決めた時間を少し過ぎていた。
慌てて太郎に声をかけると、太郎はすぐに部屋から出てきた。
「急げ、急げ~」
ちょっとしたハプニングを楽しみながら、男二人でキャッキャッ言いながら、コートをひっかけて、家を出る。

家を出ると、身体がぶるっと震えた。
<寒波がやってきて、今晩から気温が下がります。>
今朝のテレビでそんなことを言っていたことを思い出した。

寒いからくっつこうぜ、と言う大志。
いやだよ、と太郎。
小学校6年生、少し反抗期も始まっている。最近はツレナイ言葉が多い。

通行人の多い待ち合わせ場所には、艶のある髪を肩の上あたりで外ハネにセットした美咲がいた。茶色がかった髪色が白いコートに合っている。
美咲も、この数か月色々我慢していたんだろうな、いつもより魅力的に輝いて見える美咲を見て、大志は思った。

「え?マフラーは?手袋は?そんな恰好で家から来たの?」
美咲の最初の言葉はそれだった。
「信じられない。受験生だよ。こんなに寒いんだから、マフラーぐらい、普通、するでしょ?」

大志は、何も答えなかった。

「トゥルース」に入り、テーブルに案内された。
その場所は、奇しくも二人が前に来た時と同じ席だった。
「この席からの景色、憶えているわ」
あれから十年以上経つのか。
冬なのに、汗をかきながら気持ちを振り絞って大志が伝えてくれたプロポーズの言葉を思い出した。

料理は、大志がコースを事前に予約していた。
オードブルとパスタに舌鼓を打ったあと、メインディッシュが運ばれた。

ビーフカツレツだった。

料理が運ばれた後、美咲は言う。
「チキンじゃないの?」
「今日はカツレツにしたんだ。ほら、受験に勝つ、なんてね」
「でも、太郎、チキンが好きだし、私たちが前に来たときもチキン食べたじゃん」
「そうだけど。今日は、ゲン担ぎをしたかったんだ」
「普通、チキンじゃない?太郎があんなに好きなの知ってるくせに」

太郎の方を見ると、気にしていないように見えたので、この話はここで終わった。

食べてみると、さすがはレストラン「トゥルース」。今まで食べたカツレツのなかで、一番美味しい、3人ともそう感じた。


~2週間後~

「おめでとう!」

太郎の受験番号が、第一志望校のホームページに掲載されていた。

美咲のスマホを覗き込み、家族みんなで同時に確認した瞬間、心の底から喜びと深い安堵が湧き上がった。

太郎は満面の笑みで、今にも踊り出しそうだ。

美咲は、緊張が解けたのか、少しゆっくりしたい、と感じて、ソファーに深く腰掛けた。
本当に良かった。

「いやー、よかった、よかった。2年間、本当によくがんばったな!」
大志がそう言いながら何かスマホの操作をしている。

「オッケー、じいじとばあばにも合格したことメールしておいたよ」
大志がそう言うと、美咲は眉を曇らせた。

「そういう事は、もっとちゃんとした形で伝えなきゃいけないんじゃない?」
「何が?」
「だって、一緒に心配してくれて、ずっと応援してくれた人たちだよ」
「だから、早く知らせようと思ってメールしたんじゃん」
「そうじゃないの。メールとかじゃなくて、ちゃんと感謝の気持ちを添えて伝えるのが普通だと思うの」
「だって早く知りたいだろう」
「それだったら、せめて電話して太郎から伝えるとか、何かやり方があるじゃない。普通は、そういう風に考えるよ」

大志は困った顔で立っていた。

そのとき太郎が美咲の方を見ながら、にこやかにこういった。

「ママ、パパはね、普通じゃないんだよ。でもそれでいいんだよ。
僕が合格できたのはね。パパが普通じゃなかったからだろうなって思うんだ。
パパはほとんど僕に勉強を教えてくれなかった。
そのかわり、パパは2年間一度も休まずに僕と交換日記をしてくれた。それで文章を書く力が身に付いた。
受験勉強に役立ちそうな漫画を探してきては、それをそっと僕に渡してくれた。
2人のときは、その漫画のことをいっぱい話して、理科とか社会のことがもっとよくわかるようになった。

普通のパパだったら、問題の解き方とか勉強の仕方とかいろいろ言いたくなるんだろうと思う。
でも多分、パパはそれを我慢して、僕が自分のペースで、一番成長できる方法を考えてくれていたんだと思う。
いつも、僕たちのことを考えて、信頼して、そのときに一番だと思うことをしてくれているんだ。

だからね。パパは普通じゃないけど、僕にとっては最高のパパなんだよ。」

美咲は言葉を失った。
大志は、口をぽかんと開けたまま、太郎のことを見ながら、「あ、あぁ」とだけ言った。それ以上言葉をつなぐ事はできなかった。

いつの間に、こんなにしっかりしたことを言えるようになったのだろう。
中学受験という機会は、思わぬ副産物をもたらしたようだ。

美咲は咳払いを一つしてから、
「そうね。わかったわ。ありがとう、太郎もパパも。二人とも最高よ」と笑顔で言った。
試験に合格したから、気分が高揚しているのかしら。いつもなら、こんな言葉は出てこないのに。
美咲の心は、大志と太郎への感謝の気持ちで満たされていた。

「オレは、いつでも、死ぬまで、オレにしかできない、美咲にとって一番だと思うことをする」
大志のプロポーズの言葉を思い出した。

美咲の目が、少し潤んでいる。


あ、だめだ。。

美咲の瞳を見て、そう感じた瞬間、大志の目からも涙が溢れ出した。

何の涙なのか、大志にも分からない。
ただ、なんだか、とても大切なものを手に入れた気がした。




普通は、こうでしょ?
つい、そんな風に考えてしまっていませんか?

もし、自分の考えを伝えたいなら、「普通」をやめて、「私ならこうする」に変えるだけで、ぐっと与える印象が柔らかくなります。
その方が、変に誤解されることがなくなります。
あなたに悪気はないのだから。

そして、普通だから良い、ということでは無いんです。
みんな違っていて、それぞれが、自分が良いと思っていることをしているんですよね。

世の中に正解なんてない。
自分の考えも、他の人の考えも、どっちでも大丈夫。
きっと、うまくいく。

そう思えると、とても楽になれます。

普通じゃなくても、自分と違っていても、目の前の人が笑顔になれたら、それで良いじゃないですか。

ちょっとだけ、受け入れてあげてください。

あなたの周りに笑顔が増えますよ。



(物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません❗️)


どうでしたか!?😁
こんな感じの、ストーリー&メッセージ🤣

Kindle出版に向けた試作です。

こういう感じに物語とコメントを書いて、一冊の本にまとめる。

こんな感じで行こうかな😊

良かったら、感想やご意見をお願いします🙇

最後まで読んでいただき、ありがとうございました✨✨✨

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