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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2023年12月の記事一覧

『「今夜は飲み明かすつもりで来た」』

『「今夜は飲み明かすつもりで来た」』

40年来の親友に

20年ぶりに会う

地元にある

若い頃よく二人で飲んだ

小さな居酒屋で

ほんとうはもう少し前に

会う予定だったんだけど

今世紀に入ってからというもの

世界的災禍があまりに多く

平凡な日常をおくる

暇人サラリーマン代表

みたいな俺とは対照的に

海外を拠点にして

世界中を飛び回る友人は

あまりに多忙で

帰国すること自体

数年ぶりだということで

約束の時

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『待ってろよ家族』

『待ってろよ家族』

母から連絡があって

正月は帰ってこないのって

海外で働いてる姉ちゃんも

帰ってくるからって

悪いけど俺は

年始早々に

オーディションがあるから

その稽古で忙しいと言って

ほんとは配達のバイトの

書き入れ時を逃したくないってだけ

カネがどうしてもなくってね

でもやっぱり

寂しくなってきたな

しょうがない

貧乏ヒマなし

自転車で帰省するか

まあ遠くに配達すると思えば

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『酒とタバコ、それから仕事』

『酒とタバコ、それから仕事』

旦那がめずらしく

夕食どきに帰ってきた

年末なのにどうしたのって

そう問いかけたら

「俺、酒やめるわ」

ですって

きょうの忘年会も

ドタキャンしてきたって

どしたの

あした大雪ふるよ

「ついでにタバコもやめる」

って

ヤニ臭いスーツは

ぜんぶ処分するって

なんなの

あしたいよいよ地球滅亡?

「それから仕事もやめる」

えっ

なにそれ

「夢だった役者目指す」

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『たった一枚だけ』

『たった一枚だけ』

年賀状を書く

とはいっても

たった一枚だけ

わたしの友人や知り合いではなく

祖母のおともだち

毎年かかさず届くし

もう何年も会っていないようだから

わたしが代筆する

もう何年も前に亡くなった

祖母に替わって

わたしが代筆する

悪気はないのよ

祖母の交友関係を

しっかり把握していれば

このおともだちにも

逝去の連絡なり

喪中はがきなりを

送ったかもしれない

でもあ

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『「トナカイよご苦労、ほらごほうびだ」』

『「トナカイよご苦労、ほらごほうびだ」』

世界中を一晩かけてまわって

ようやく僕の仕事が終わった

今年もサンタさんと一緒に

無事に子供たちへ

プレゼントを届けることができた

彼らの喜ぶ顔を僕は

その場でみることができないけど

きっとみんな

よろこんでくれているはず

それが僕のような

トナカイにとっては

なによりのプレゼントだよ

ってちょっと

かっこつけてしまったかな

ほんとうは僕も

サンタさんからプレゼントが

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『国家』

『国家』

(まえがき)
不快かもしれないので始めに言っておきます

この世の中の

ごく一部の女性たちの声

男性なんて共存できない

男性なんて存在しなくていい

女性だけの社会をつくりたい

女性だけの国があればいい

そういう主張をしていた

言論はしだいに過激化し

秩序を乱すこともしばしば

面倒に思った為政者たちは

結託して

それならば望みを叶えようと

女性だけの社会

女性だけの国を

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『社宅』

『社宅』

「ねぇミアちゃんちょっとさ」

パパからの頼みごとはいつも

だいたいややこしいし

めんどくさいんだよね

「クリスマスイブの日のシフトなんだけど」

出た

「ユリさんがどうしても…なんだと」

ユリさん…ねぇ…

同じ社宅に住む部長の娘さん

「イブの日、彼氏と約束ができたみたいで」

同じバイト先に勤めるワタシに

シフト代わってほしいって

「構わないよな?」

ワタシは別にいまどき

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『陳情の手紙 ~雨でマンホールがつるつるして転びました。これは行政の責任じゃないかと思う。~』

『陳情の手紙 ~雨でマンホールがつるつるして転びました。これは行政の責任じゃないかと思う。~』

わたしは東京の大学を出たあと

いわゆるUターン就職で

地元の市役所に勤めています

所属は市民生活相談課

まあいわばなんでも屋さんです

市民のみなさんからの

色々なお声を受け止める係でもあります

毎日のように電話やメール

それから直接のご訪問を受けています

手紙ももちろんたくさん届きます

きょうわたしが

そのうちの一通を読み進めていたら

なんと小学校の同級生からのものでした

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『「できれば壊れにくいレンジがほしいんですよね」』

『「できれば壊れにくいレンジがほしいんですよね」』

パァぁぁぁ―――ン!

「っしゃー!」

「うおー!」

バカ親子がまた

はしゃいでる

旦那と息子

また何か電子レンジで爆発させて

それで喜んでる

っとにもう…

「なぁママ、ちょっといいか」

バカ旦那だ

「壊れちったよ」

ほーーーらごらん

まいかいまいかい

卵だぁトマトだぁ

爆発させて

「さすがに缶コーヒーはまずかった」

はあああ?

ちょっと考えれば

わかりそうなも

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『甘枝ゆとりクリスマスパーティ』

『甘枝ゆとりクリスマスパーティ』

♪ウィーウィッシュヤメリクリスマッ

♪ウィーウィッシュヤメリクリスマッ

♪ウィーウィッシュヤメリクリスマッ

♪ェダハッピーニュイヤー

かんぱーい!!

はじまりました今年も恒例

甘枝ゆとりクリスマスパーティ

みんなこの日を心待ち

豪華な料理に楽しいゲーム

飲めや歌えやの大騒ぎです

-- しばし歓談 --

司会「えーみなさまご歓談中恐縮です」

一同「おっ?」

司会「ここでプレ

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『この夏の懺悔』

『この夏の懺悔』

「なぁ秘山…まだ?」

「いやわかってます、もうちょっと考えさせてください」

「おまえだけなんだよね、卒業文集の作文まだなの」

「サボってるわけじゃないんす、ほんとに」

「じゃ明日ぜったいな、卒業式間に合わなくなっちゃう」

「っす!わかりました!」

-- 翌日 --

「お、書けた?」

「っす」

「2枚かよ」

「っす」

「スペースないんだけど」

「先生そこを是非…」

「遅くて

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『前髪』

『前髪』

警視庁六本木署は今朝未明、ロックバンド「公認再生士」のメンバーでボーカルのLionこと糠瓦史朗容疑者をひき逃げの容疑で逮捕しました。

警視庁は糠瓦容疑者が昨夜遅く、港区六本木の交差点に自身の運転する車で進入した際、赤信号であることに気づかず、横断歩道を歩行する20代の女性を跳ねそのまま現場を去ったとして捜査を進めています。なお女性は軽傷とのことです。

糠瓦容疑者は「運転中だというのに音楽のこと

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『届きましたスタンガン』

『届きましたスタンガン』

届きましたスタンガン

さてわたしがこれで

何をするかというと

あぁほんとうに

なんて夫思いの妻なんだろわたし

「でも~」

「いや~」

なんでも否定から入る

夫の口癖を矯正するために

スタンガン導入を決めたんです

本人は自覚がないようで

そんなに連発していないと言います

そもそも否定の気持ちがないんだからと

録音して聞かせてみたこともあるけど

どうにも納得していない夫へ

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『「ほらみなさんアッチにテレビ」』

『「ほらみなさんアッチにテレビ」』

遺書のかきかた教室というのがあると知って

おしまいの活動すなわち終活を考える身としては

これは是非にと思いもうしこんだ

地元の公民館は同世代のじじばばで満席

やれアッチが痛いコッチが痛い

嫁が憎い孫がそっけない

時間になって

てっきり弁護士やら書士やらのセンセイが

お見えになるものとばかり思い込んでいたら

現れたのはベレー帽にセーターの男性

いいや近頃は身なりで判断したらダメ

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