『酒とタバコ、それから仕事』

旦那がめずらしく

夕食どきに帰ってきた

年末なのにどうしたのって

そう問いかけたら

「俺、酒やめるわ」

ですって

きょうの忘年会も

ドタキャンしてきたって

どしたの

あした大雪ふるよ

「ついでにタバコもやめる」

って

ヤニ臭いスーツは

ぜんぶ処分するって

なんなの

あしたいよいよ地球滅亡？

「それから仕事もやめる」

えっ

なにそれ

「夢だった役者目指す」

寝ぼけてんじゃないよ

「てことでもう退職願だしてきた」

おいおいおいおい

ほんとなのって聞いたら

「ほんとだよ」

って

あたしと息子

あきれてしまって

夕食を食べる気どころか

旦那を叱責する気も失せて

そしたらスーツのまま

旦那もっかい外に出かけてった

小一時間したら

ガチャって玄関また開いて

「吸い納め寂しかったわー」

ひと箱吸って来たって

両手にはビニール袋

焼酎とロックアイス

「退職祝いに盛大にやるぞ」

だってさ

この男は

あしたから無職のろくでなし

息子は

そのろくでなしの息子

かわいそうに

体裁もよくないから

パパの会社の空きポストでも

用意してもらおっか

それから

庭に喫煙ボックスでも建てて

いつでも吸えるように

自分で言うのも恥ずかしいけど

社長令嬢やってるあたしとしては

まがりなりにも

十数年前に

自分の意志で恋愛結婚した

この旦那の存在って

ありがたいよねって

そう思うわけ

ふつうの人には

理解できないでしょうけど