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『「今夜は飲み明かすつもりで来た」』
40年来の親友に
20年ぶりに会う
地元にある
若い頃よく二人で飲んだ
小さな居酒屋で
ほんとうはもう少し前に
会う予定だったんだけど
今世紀に入ってからというもの
世界的災禍があまりに多く
平凡な日常をおくる
暇人サラリーマン代表
みたいな俺とは対照的に
海外を拠点にして
世界中を飛び回る友人は
あまりに多忙で
帰国すること自体
数年ぶりだということで
約束の時間より少し早めに
俺は店に着いた
この店もだいぶひさしぶりだ
なんせきょう会う親友以外とは
来ることもなかったから
当時いつも座っていた
カウンターの一番奥を
2人分予約しておいた
幸いにも店は残っていて
店主が変わることもなく
懐かしい光景を見せてくれている
ほどなくして入口のドアが開き
寒風が流れ込むとともに
懐かしい友人の顔がのぞいた
「ひさしぶり」
「おぅ」
友人の後ろから
同世代かあるいは少し下の
男性が続いて
たまたま連れ立って入った
別のお客かと思ったら
カウンターに俺たちと
3人横並びに
俺は敢えて気にしない様子で
「何飲む?」
「っとビールと…烏龍茶」
え3人分
やっぱりツレなんだ
「っと…」
「いやぁー久しぶり」
「じゃなくて…そちら」
「ん?ああーぁこちらはね」
親友の秘書の方だそうだ
「口は堅いから心配無用」
いや別に
密談なんて何もないだろ
「もちろん支払いは俺が持つ」
そういうことじゃなくて
20年ぶりに会う親友との
よもやま話の宴は
なんだか気を遣うカタチで
そういえばこいつ
俺が好きな子に振られたとき
なぐさめに駆けつけてくれたけど
一緒に新しい彼女を連れてきたな
そんなことを思い出した
「おまえ忙しいだろ?時間ダイジョブ?」
「今夜は飲み明かすつもりで来た」
秘書の人が隣で無言でうなずく
親友は遠いところへ
行ってしまったのかな
そんなことを思っていたら
3名様でも今はいいけど
今夜は予約で満席だから
1時間後にお隣さんが来たら
お会計してくださいねって
そんなことを言われたわけ