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R-50 Ladies Only

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本来は中年女性である私の心の触れたあれこれ綴るつもりが、「父がひとりで死んでいた」という記事が思いがけず多くの方に読まれたことで、親の死や介護や実家の空き家問題を書くことが増えて…
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#50代

メメント・モリ〜四十九日が終わっても

メメント・モリ〜四十九日が終わっても

藤原新也の写真集『メメント・モリ』(1983年刊)をくれたのは、ジョンとヨーコのような先輩カップルだった。

田舎らしく保守的で、他県に進学することを許さなかった両親の望みもあり、私は地元の国立大学に入った。まだ10代で、仏文科に入った私に、3歳年上の建築科のカップルは、あまりにも違う世界に住んでいるようでまぶしかった。

この本は、野犬に貪られている死体やガンジス川のほとりで焼かれている遺体など

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誰もいなくとも、春はめぐってくる。

誰もいなくとも、春はめぐってくる。

今日、無人の実家を叔母に見に行ってもらったら、門の花壇に白い花が咲いていたよと教えてくれた。

誰もいなくとも、春はめぐってくる。

父がひとりで死んでいた

父がひとりで死んでいた

1月半ばに、独り暮らしだった父(84)が遠く離れた実家の自室で倒れて亡くなっているのが見つかった。死後1週間経っていた。

1週間前から嫌な予感がしていた。朝方目を覚ますと、寝室のドアが大きく開いて廊下の電気がついていたことがあったのだ。大寒の最中、ドアを閉めずに寝ることなどあり得ない。寒い空気がひんやりと寝室に流れ込んでいた。誰が開けたんだろう。この家には私しかいないのに。

その時にもう私の心

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マインドフルネス体験レポートが掲載されました

マインドフルネス体験レポートが掲載されました

オンライン・マインドフルネス・プログラムを提供しているMELONで昨年8月からマインドフルネス瞑想を始めたのですが、とても効果を感じているので体験記を寄稿させていただきました。

お読みいただければわかるのですが、この間、ちょっと悲しいことがありました。そんな中で私を救ってくれたのは友人達の言葉とマインドフルネスだったのです。

人生はままならぬ。そして何かが起きるのはいつも突然です。誰かが側にい

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更年期のエッセイをウェブメディア『DRESS』に寄稿しました

更年期のエッセイをウェブメディア『DRESS』に寄稿しました

先日、ウェブメディア『DRESS』の編集者さんから連絡があり、「更年期は私の敵じゃない」という特集に「更年期の後に来るもの」というテーマでエッセイを依頼されました。

依頼書には、私がこれまでnoteで書いたエッセイのなかで「とりわけ印象的なのが、更年期という見えない不安との、いつ終わるともしれない孤独な戦いと、そのあとにくる“明るい未来”との対比です」と書いてありました。

「そんな『苦しみ』と

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更年期について語ろうじゃないか

更年期について語ろうじゃないか

更年期について3年前に書いた私の記事が2020年の今も読まれ続けています。

3年前の記事が読まれ続けているということは、「3年前から社会の状況が変わっていない」ということではないかと思います。

昨年くらいから世間は少し「生理ブーム」で、生理をテーマにしたマンガが注目されたり生理にフォーカスした百貨店の売り場が世間を賑わせたり、若手起業家が生理に着目した製品を開発したりユニチャームや花王の生理キ

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「首」が問題だ

「首」が問題だ

私は東京都内住まいだが、自粛の要請(自粛なのに要請とはこれいかに)に次いで緊急事態宣言が出されてからはや2か月あまりが経つ。食料の買い物という目的以外で最後に家を出たのは取材に出た3月27日だ。

この2か月で変わったことといえばオンラインによるコミュニケーションだろう。私は50歳からフリーランスなので、それまでの電車通勤からはとっくにおさらばしていたのだけれど、取引先に打ち合わせに行ったり取材や

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短編小説集『夏物語』をAmazon Kindleで発売しました。

短編小説集『夏物語』をAmazon Kindleで発売しました。



「如月さん、小説を書いてみませんか?」と、とある大手出版社から声をかけてもらったのは2015年の初め。2000文字の超短編小説の連載依頼でした。どんなテーマで何を書くか、と考えたとき、私は小説家ではなくそもそも俳人なので、俳句をテーマにしようと思い立ちました。

私は有季定型(季語が入って五・七・五の一七音を基本とする、型の決まった表現)という伝統を守りつつ、その器に、現代の働く女性という立場

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円形脱毛症が発見された

円形脱毛症が発見された

人間、長く生きているといろんな目に遭うものですが、よもや自分の身に起こるまいとすら思ってもいなかったことが起きるときがあります。想像すらしていなかったわけだから、驚く前に現実を理解するまでに少し時間がかかります。

いつものように月に1度のヘアサロンに行ってカットしてもらっているときに、スタイリストさんが「んんっ!?」という声を出してハサミを止めました。

「…如月さん…円形脱毛症になってますね…

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生理よ、さようなら、永遠に。更年期になって、つらいやら苦しいやら

生理よ、さようなら、永遠に。更年期になって、つらいやら苦しいやら

気がついたのは2か月後くらいでした。「あれ? 先月、生理来てなくない?」

13歳のときに月経がはじまって以来、欠かすことなくログをつけてきました。そういう教育がちょうど中学校でなされ「エンジェルメモ」なる月経ログ手帳をもらったからです。

思えば、あれが生涯で初めてのライフログだったのだな。しかも37年の長きにわたり、私は欠かさずつけ続けてきたのです。すごいよね。

そう、ガジェット男子が「ライ

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「自分らしさ」なんて探してもどこにも見つからない

「自分らしさ」なんて探してもどこにも見つからない

3月8日は「国際女性デー」だそうです。

報道を見ていて「女性が自分らしく生きるために」という言葉が多いな、と思いました。

私はこの「自分らしく生きよう」というメッセージを聞くたびに息苦しく感じます。「自分らしさ」とは何か? という問いも答えも、そこから抜けているからです。

自分らしさ、って、何でしょう。

私は、その瞬間、瞬間の選択、そしてその積み重ねのことだと思っています。瞬間の選択を

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衰えてゆく自分を受け入れることは、他者を受け入れることだった

衰えてゆく自分を受け入れることは、他者を受け入れることだった

それはまず老眼からやってきました。

薄暗いレストランで、私はおしゃれなメニューの文字がよく見えず、わかっているふりをして適当なことを伝えるようになりました。ちらちらと文字がかすむので、夜に読書ができなくなりました。通勤電車の中で、iPhoneの文字が見えなくなりました。PC画面を見ていると、まぶしくて文字が読みづらいと思うようになりました。

それは目が疲れてるせいだ、仕事のしすぎなんだとずっと

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"都会のキャリアウーマン"になりたくてなったわけじゃない

"都会のキャリアウーマン"になりたくてなったわけじゃない

50歳になったことを機会にこの連載を書き始めようと決めたとき、まず一番目に大きくメモしたのは「今の立場は自らの意志でつくってきたものではない」という一文でした。

この言葉には2つの意味があります。

ひとつは「"都会でキラキラおしゃれに仕事をしてる独身キャリアウーマン"になりたくてなったわけじゃない」という意味。

もうひとつは「求められなければここにはいない」という意味です。

私は(たま

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はじめに〜年齢から自由になるために

はじめに〜年齢から自由になるために

最初に訪れたクライシスは40歳になる前でした。

どうしよう。私はこれまで何もしてこなかった。仕事で大した成果も出していない。かといって何か努力をしているわけではない。夫もいない。子どももいない。それなのにもうすぐ40歳になってしまう。

それはただ漫然と生きてきたという証のように思えたのです。

40歳以上の女性向けとされる雑誌やサービスやイメージはどれもこれもがくすんで見えて、私はそのくす

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