如月サラ

エディター、俳人、作家。書籍『父がひとりで死んでいた』(日経BP)発売中。遠距離介護と…

如月サラ

エディター、俳人、作家。書籍『父がひとりで死んでいた』(日経BP)発売中。遠距離介護と空き家になった実家の管理をしながら5匹の猫たちと東京ぐらし。旅、写真。俳句、ヨガ(RYT200)。Twitter @kisaragi_sarah

マガジン

  • R-50 Ladies Only

    本来は中年女性である私の心の触れたあれこれ綴るつもりが、「父がひとりで死んでいた」という記事が思いがけず多くの方に読まれたことで、親の死や介護や実家の空き家問題を書くことが増えてきました。2024年1月で父親の三回忌も過ぎたところで、そろそろまたさまざまなジャンルの記事を書いていこうと思います。

  • 写真日記 Fragments of life

    日々の断片を写真と言葉で書き留めていきます。

最近の記事

よい写真ってなんだろう

最近、写真家さんの書籍が人気というので、2冊購入して読んでみた。テクニックではなくもっと根っこのほうの、撮るという行為にていねいに触れた素晴らしい内容だった。また、2冊とも、写真と言葉は不可分なのだということが書いてあった。文章を書くことを仕事にしている私には、その部分がとても理解できた。 写真のディレクションも私の仕事のひとつだけれど、自分でカメラを持つとあまりにもつまらない写真ばかりを撮っている気がしてならない。こちらの頭の中にあるイメージを素晴らしい画にしていく職業フ

    • 雪の日はカメラを持って

      昨日の東京の雪はすごかった。 みなさまご無事でしたでしょうか。 私はたまたま友人との夕食の約束があり、SIGMA fpを持って出かけていたので(ありがたき防塵防滴構造!)、帰宅の途中でいくつか写真を撮ることができた。もし家で食事をしていたら、とても出かける気はしなかっただろう。 昨日は降雪と雷が同時に起こってとても驚いたけれど、ニュースで「降雪と雷が同時に起きるのは世界でも珍しく、日本以外ではノルウェーの西海岸やアメリカの五大湖から東海岸にかけて見られる程度」と聞き、とて

      • 誕生日といういちにち

        誕生日というのは年々、何を感じていいのかよくわからなくなる日だ。子どもの頃はあんなに待ち遠しかった日曜日や夏休みが、大人になるとただの平凡な休日になってしまうことと似ているかもしれない。 昨日は、日付が変わるとメールで必ず1番にハッピーバースデーとメールが届き、何十年も欠かさず図書券を贈ってくれていた父が亡くなって3回目の私の誕生日だった。 無人の実家を整理するために帰省すると、いつもそこにいた父親の姿が見えなくなってさびしいとか悲しいという気持ちはいつの間にかなくなった

        • いつも空を探している

          季節が移り変わってゆく土地に暮らしていて良かったなとよく思う。四季が繰り返してゆくことは、再生を感じさせる。春が年にいちど必ず巡り来るように、「今回はだめだったけど、またやればいいかな」と信じることができる。 たぶんそうやって生き延びてきた。 季節は空からやってくる、とずっと思っていた。あるとき友人たちと話していたところ、空から来るんじゃなくて「風が運んでくる」という人も「光が変える」という人もいた。それぞれ感じ方が違うものなんだな、とおもしろかった。 都会のど真ん中で

        よい写真ってなんだろう

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        記事

          きっとひとりじゃないんだよ

          日常生活で、見知らぬ人や弱い社会的つながりしかない人々との会話や挨拶、感謝の言葉が多いほど生活満足度が高まるという研究結果が2023年11月に出たとき、実感と合うなあと思った。 研究では、例としてスーパーマーケットでレジ係に挨拶する、バスで隣に座る人と会話をする、庭の世話をしている隣人と話す、同じシフトで働いている同僚と会話する、毎朝コーヒーを買う店のバリスタと会話するなどの例が挙げられている。 実際はなかなか難しいことが多いかもしれない。バスで隣に座っている人に急に話し

          きっとひとりじゃないんだよ

          MY PERFECT DAYS

          かつて、同じ映画をこんなに多くの友人達が見たり話題にしたり考察したことはなかったように思う。『PERFECT DAYS』のことだ。監督はヴィム・ヴェンダース、主人公の平山を演じるのは役所広司。東京を舞台に清掃作業員の男が送る淡々とした日々を描いている。 ある寒い火曜日、自宅から徒歩20分かかる映画館まで、ダウンを着てポケットにカメラを突っ込んで見にいった。帰りにお茶でもしようと考えていたけれど、見終わった時の感情をそのままにしておきたくて、寄り道せずにまっすぐ帰ってきた。

          MY PERFECT DAYS

          変わってゆくことと変わらないこと 

          2020年に半年あまり使っていたけれど、流り病で外に出るのが憚られるようになり、夏過ぎには手放してしまったSIGMA fpを2024年初頭にふたたび手に入れた。どうしてまたほしいと思ったのか定かではないのだけれど。 2020年夏といえば、母が急激に認知症になっていることがわかり遠距離介護となり、その半年後には父が死んでしまい4匹の猫と無人の実家が残されるという家族のオオゴトにひとりで立ち向かう日々の始まりだった。 この年始に飛行機に乗って母の見舞いに行き、ふと自分が3年分

          変わってゆくことと変わらないこと 

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          11月の写真日記

          11月の写真日記

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          「如月サラの空き家ストーリー」新作2本公開しました

          昨年、東北電力の空き家管理サービス開始にあわせて、空き家に関する新作エッセイを1本書かせていただきました。 その後、ご縁が続いて、今回、一挙に新作2本が公開されました。なんだか連載のような雰囲気になってきました。 『父がひとりで死んでいた』のその後です。よろしければご覧ください。 vol.2 遠くて怖い場所になってしまった実家 vol.3 草むらになって荒れ果てた実家の庭 初回から読みたいという方はこちらもどうぞ。 平凡な人生を生きた父との鮮やかな再会 エッセイ

          「如月サラの空き家ストーリー」新作2本公開しました

          10月20日までもう少し

          「今日は10月10日でしょう」と、母は言う。 「うん、そうだよ」と、スマートスピーカー越しに私は答える。私の手元のスマートフォンで母の姿が見える。施設で寝たきりの母の部屋にある小さなディスプレイには、私の顔が映っているはずだ。 「私の誕生日じゃなかったかな」 「いや、お母さんの誕生日は10月20日だから、もう少し後だね」 「そうか、今日かと思っていたよ。美智子妃殿下と同じ誕生日ということは覚えていたけれど、今日じゃなかったんだね」と、母は答える。 母がレビー小体型認知症と

          10月20日までもう少し

          猫へのバースデーカード

          「HAPPY BIRTHDAY ルルちゃん 6歳」と書いたハガキが、どうぶつ保険の会社から届いた。毎年、3週間前にこうやってバースデーカードが届くと、私は猫の誕生日を思い出すことができる。 ルルは私が実家を出てから初めて一緒に暮らした猫だ。生後半年で私のところにやってきて、それからずうっと一緒にいる。旅の多い私が、猫のお世話なんてできるだろうかと思っていたけれど、何とかなるものだ。さまざまな私の不在を、ペットホテルの利用やキャットシッターさんの協力で乗り越えてきた。 今で

          猫へのバースデーカード

          5月は、まるで

          5月は、まるでいつもと違う土地にいるかのようだ。朝はバリ島のウブドのようにほんの少しひんやりして空気が澄み、目を閉じればそれが旅になる。 今日の東京にオフシーズンのリゾートを感じて、カメラを持って散策してみた。 写真については下手の横好きで、作家についても詳しいわけではないのだけれど、例えばニューカラーと呼ばれる一群の写真の雰囲気や色はとても好きだ。 下記のリンクからエグルストンの写真など見てもらえればイメージがわかると思う。 一方で、ナン・ゴールディンのような生々し

          5月は、まるで

          「小さな自分」を大切に〜ウェルビーイングを高めるささやかな方法

          もし宇宙から地球を見ることができたら、どんなに心震えるだろう——。天体望遠鏡を買ってもらった小学生の私はそんなことばかり考えて、実家のベランダから月のクレーターや土星の輪を飽きず眺めていた。それから数十年。今生では、宇宙飛行士になれそうにもないけれど。 本記事のカバーに使っている写真「地球の出(Earthrise)」は、1968年にアポロ8号の宇宙飛行士ウィリアム・アンダースが撮影した地球の写真。「史上最も影響力のあった環境写真」として知られている。この写真を見るだけでもな

          「小さな自分」を大切に〜ウェルビーイングを高めるささやかな方法

          自分を取り戻すための半年間が過ぎて

          本来この「R-50 Ladies Only」というマガジンは、ふざけたタイトルからもわかるようにnoteに「50代になって感じたこと」を、時には笑える話など交えながら書いていこうと思っていた。 けれど、2021年1月に「父がひとりで死んでいた」経験をしてからは、孤独死や遠距離介護や空き家や老猫の飼育のことを書かざるを得なかった。私の生活が1年以上、それ一色に塗りつぶされたからだ。 その過程で多くの読者のみなさまに読んでいただき心強かった。とてもひとりではこの怒濤の日々を乗

          自分を取り戻すための半年間が過ぎて

          タイガーが死んだ

          実家から連れて帰ってきた4匹の老猫のうち、タイガーという雄猫が6月半ばに死んでしまった。慢性腎不全で1年あまり闘病していた。 実家から猫が東京の我が家にやってきた顛末はこちらの『日経xwomanARIA』に書いている。 そもそも東京の我が家には、先に2匹のノルウェージャンフォレストキャットがいた。父の死によって実家に取り残された4匹の老猫を連れてくるに当たっては、実家の近くの動物病院で健康状態を検査しており、問題ないでしょうという言葉をもらっていた。 実際はそうではなか

          タイガーが死んだ

          バイバイ、ブルーバード

          無人の実家に置いていた母の車を手放した。 日本中の多くの場所がそうであるように、私の故郷は車がなくては生活できない。実家から目的地までをピンポイントで結んでいる公共交通機関はなく、母の入っている高齢者施設にバスで行こうとすると一度街の中心部に行って乗り換えなくてはならない。車だと10分もかからず行けていた場所に、待ち時間も含めるとバスで2時間かかってしまう。 地方都市とはそういうところだ。 昨年は月に1度東京から飛行機に乗って実家に行き、1週間滞在するという生活を送った

          バイバイ、ブルーバード