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つよいことば[短純文]
「死にたくなったことはありますか」
目の前に座る白衣を着て眼鏡をかけた、あまり身なりに気を遣っていないような素朴な女が、パソコンでカタカタとカルテのようなものを取りながら、
目もくれず機械的に話す。
「え?」
身じろぎして、息を漏らすようにした。
そうして息を吐き出さずにはいられなかったのかもしれない
女は手を止めて、今度は小バエのように飛び回る僕の黒目を見定めて、鈍重に口を動かす。
「今まで生き
うみを知るまで(終)
大学進学と共に、家を離れて一人暮らしを始めた。
流れで部活を決めて、すぐにアルバイトを始めた。
慣れない生活と未経験な仕事で疲れても、部活に参加した。
誰もいない部屋での1人は、想像よりも落ち着いたが、それよりも、夜はより深く、暗く感じた。
それからしばらくすると、すこし経済的に苦しくなって、アルバイトを増やした。
息をしているだけでお金がかかる感覚に陥ったときは、決まって明るくなるまで眠れなかっ
うみを知るまで(2)
朝でも夜でもない時間。
それが僕の時間になって、一番安らぎを得られる瞬間だった。
いつしか、人生に答えを求めるようになってしまった僕は、図書館で伝記ばかり借りて読んだ。
どうしたら、名の残る人間になれるのか、わかると思ったから。
世界の偉人や、天下人は苦悩していたのだろうか。
己がなんなのか、どうあるべきか。
きっと、こんなことを考えてる時点で、僕は、偉人ではないし、非凡な才能を持ち合わせていた