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うみを知るまで

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記事一覧

うみを知るまで(終)

大学進学と共に、家を離れて一人暮らしを始めた。
流れで部活を決めて、すぐにアルバイトを始めた。
慣れない生活と未経験な仕事で疲れても、部活に参加した。
誰もいない部屋での1人は、想像よりも落ち着いたが、それよりも、夜はより深く、暗く感じた。
それからしばらくすると、すこし経済的に苦しくなって、アルバイトを増やした。
息をしているだけでお金がかかる感覚に陥ったときは、決まって明るくなるまで眠れなかっ

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うみを知るまで(3)

僕は、将来の夢を書くのが、いつからか苦手になった。
生きていても、自分の思い通りにならないことの方が多いし、予期せぬことが起きる方が多いから。
夢を叶える人間は、ごく僅かで、僕はその中の1人ではないと思ったからだ。
いつも困って、人のためになる仕事、人の役に立ちたいと、書くようになった。
つまらない、渇いた人生が、続くと思っていた。
死ぬために生き、その準備をし続けていると思っていた。

その事実

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うみを知るまで

いつからか、夜が怖くなった。
思い当たる理由は、いくつかある。
小学生の時に、ある恩人がいた。
ある日、その人と喋り、また来週と、手を振って別れた。
そして数日後に、亡くなった報せを受けた。
まだ人が死ぬとか、そういうことを全くわかっていなかった。
告別式に出て、亡くなってから初めて対面した。
その時、人生で初めて人の死に顔を見た。
正直に言うと、その頃の僕は怖くなってしまった。
ついこの前まで、

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うみを知るまで(2)

朝でも夜でもない時間。

それが僕の時間になって、一番安らぎを得られる瞬間だった。
いつしか、人生に答えを求めるようになってしまった僕は、図書館で伝記ばかり借りて読んだ。
どうしたら、名の残る人間になれるのか、わかると思ったから。
世界の偉人や、天下人は苦悩していたのだろうか。
己がなんなのか、どうあるべきか。
きっと、こんなことを考えてる時点で、僕は、偉人ではないし、非凡な才能を持ち合わせていた

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