うみを知るまで(終)

大学進学と共に、家を離れて一人暮らしを始めた。
流れで部活を決めて、すぐにアルバイトを始めた。
慣れない生活と未経験な仕事で疲れても、部活に参加した。
誰もいない部屋での1人は、想像よりも落ち着いたが、それよりも、夜はより深く、暗く感じた。
それからしばらくすると、すこし経済的に苦しくなって、アルバイトを増やした。
息をしているだけでお金がかかる感覚に陥ったときは、決まって明るくなるまで眠れなかった。
次第に太陽が、嫌に眩しく感じて、昼にも夜にも嫌われた気がした。

また僕は、人生について考えた。
人生はやっぱり、思い通りにならない。
朝から晩まで勉強して働いても、手の中を見たら何も残っていない。
息をすれば、お金がかかり、罪悪感に苛まれる。
右を見れば、酔っ払った大学生が楽しそうに酒を酌み交わし、左を見れば、友だちと頻繁に旅行に行き楽しそうに写真を撮っている。別に、そういうことがしたいんじゃない。この差は一体何なのだろう。
素朴な疑問だった。
面倒なことを引き受けてしまった気分だった。

ある日、学校に行くと、友人に顔色が悪いと言われた。
不調を感じていなかった僕は、大丈夫と言って、講義に向かった。
家に帰って、鏡を見ても、自分の顔色が良いか悪いか、よくわからなかった。
久々に自分の顔をまじまじと見た気がした。
ふと、自分が自分をおとしめている気がした。
誰のための人生だろう、誰のために生きているのだろう。
この顔も、手も足も、身体も脳みそも、全て自分のモノだ。
自分のしたかったこと、やらなければならないこと。
義務でも仕事でもなく、自分自身の行為があるはずだと。
どんな形でも、遺さなければならないと思った。
自分の生きた足跡を。
誰かに追われなくても、誰にも見つけられなくても。

骨になっても、灰になっても、何かに怯えずに、眠れるように。

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