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高井宏章 雑文帳

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徒然なるままに。案外、ええ事書いてます
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#読書感想文

『お金のむこうに人がいる』の田内学さんと会って、話して、経済と人間のことを考えるのは面白いと改めて思ったこと

『お金のむこうに人がいる』の田内学さんと会って、話して、経済と人間のことを考えるのは面白いと改めて思ったこと

田内学さんの『お金のむこうに人がいる』を読んだ後、先日、ご本人と三越前のイタリアン「Da GOTO」で2時間ほどお話をした。美味しゅうございました。

このユニークな本と、同じようにユニークな著者から受けた刺激を書き留めておく。
こちらから「はじめに」が読めます。

個人的なメモのような文章なのだが、「読んでみようかな」と迷っている人の背中をちょっと押せるなら、それは嬉しいおまけだ。
では、つらつ

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ロシアと中国の仕掛ける新たな戦争の形 『破壊戦』

ロシアと中国の仕掛ける新たな戦争の形 『破壊戦』

最初に、著者の古川英治氏が私の親しい友人であることを明記しておく。
この文章には身びいきがあるかもしれない。

一方、著者を良く知っているからこそ、断言できることもある。

信じられないような話が次々と出てくるが、独自のエピソードはすべて事実、直当たりした取材の成果だ。話を盛ったり、筆が走ったりした部分はない。
取材の途中過程を直接聞いていた身としては、「ずいぶん抑制したな」と思うほど、筆運びは禁

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旅行記というバトン 『0メートルの旅』

旅行記というバトン 『0メートルの旅』

旅行記は、良い書き手を得れば、ほぼ確実に良い読み物になる。
見知らぬ風景や人との出会いに刺激された書き手の熱に巻き込まれ、気づけば読み手も旅人となる。

新型コロナウイルスのパンデミックの前、旅行記はインフレ時代にあった。あらゆるフロンティアが掘りつくされ、検索すれば、ISS(国際宇宙ステーション)の滞在記すら複数見つかる。
そんな状況をパンデミックは一変させた。
国境どころか、ときに県境さえ「越

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ナメクジに考えさせられる 『考えるナメクジ』

ナメクジに考えさせられる 『考えるナメクジ』

ナメクジほど、「考える」という動詞と縁遠いイメージの生物はなかなかいないだろう。
これしかない、というタイトルで、しかも看板に偽りなしの好著だ。

『考えるナメクジ』さくら舎 松尾亮太/著

苦い薬品とセットで与えると美味しいジュースを避けるようになる。
同じように薬品で条件付けすると、大好きな暗い隠れ家も「苦い思い出の場所」と記憶して、隠れるのを逡巡する。

そんな意外な学習能力・論理的思考力に

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「勉強のやり方」を知らない子どもたちに 『東大式節約勉強法』

「勉強のやり方」を知らない子どもたちに 『東大式節約勉強法』

私事で恐縮だが、著者の布施川天馬さんと私は、年は二回り以上離れているものの、境遇が少し似ている。

家庭が貧しく、塾や予備校に通うお金もなく、かといって自宅で学習する習慣もなく、働きながら大学受験に臨み、地理的・金銭的な制約で「地元の国立大学」に入った。

私は現役で名古屋大学、布施川さんは一浪で東大と「着地」は違っているが、似たようなコースだ。

『東大式節約勉強法』扶桑社 布施川天馬/著

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タペストリーのような大風呂敷 『三体2 黒暗森林』

タペストリーのような大風呂敷 『三体2 黒暗森林』

翻訳モノには、独特のマゾヒズム的な楽しみ方がある。

もう「新刊」は出ている。
でも、読めない。
ギリギリ行ける英語でも大作は躊躇する。
原書を読んだ人たちから「傑作」といった評が耳に入ってくる。
ジリジリしながら、訳を待つ生殺しに耐える日々。

『三体』3部作にそんな思いを抱く方は多かろう。

『三体II 黒暗森林』早川書房
劉慈欣/著 大森望、立原透耶、上原かおり、泊功/翻訳

私もこれほど「

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「すべての男」が読むべき傑作 『ザリガニの鳴くところ』

「すべての男」が読むべき傑作 『ザリガニの鳴くところ』

「2019年アメリカで一番売れた本」
「全米500万部突破」

そんなパワーワードが踊る帯には強力な布陣で、

「とにかく、黙って、読め」

と言わんばかりの推薦の言葉が並ぶ。

『ザリガニの鳴くところ』早川書房
ディーリア・オーエンズ/著 友廣純/翻訳

この上に私が贅言を重ねても意味がなさそうなので、個人的な体験を少々ご紹介する。

私が本書を購入したのは、文学YouTuberのベルさんのこの

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教育の「悪平等」への偏見をほぐす 『日本の15歳はなぜ学力が高いのか?』

教育の「悪平等」への偏見をほぐす 『日本の15歳はなぜ学力が高いのか?』

PISAをご存知だろうか。
OECD(経済協力開発機構)が3年ごとに行う国際的な学力調査で、Programme for International Student Assessmentの頭文字をつないだものだ。
「日本の子ども、学力順位が後退」といった形でニュースになるので、名前は聞いたことがなくても、結果だけご覧になったことはあるかもしれない。

本書は英国人教師が、PISAの成績上位から5つの

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鳥肌モノのエピソードの宝庫 『エリザベス女王』

鳥肌モノのエピソードの宝庫 『エリザベス女王』

秀作ぞろいの中公新書の歴史シリーズのなかでも、指折りの傑作だ。

今年で94歳、在位68年を迎えた「史上最長・最強のイギリス君主」の世界史的な位置づけ、そして何よりエリザベス女王自身と英王室メンバーの伝記として、きわめて秀逸な読み物になっている。

『エリザベス女王』中央公論新社 君塚直隆/著

あらかじめお断りしておくと、ロンドンに駐在した影響もあって、私はエリザベス女王のファンだ。ご長命をお祈

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アザと病と英語 『女帝 小池百合子』の違和感

アザと病と英語 『女帝 小池百合子』の違和感

話題のベストセラー『女帝 小池百合子』を読んだ。
あけすけに書けば、読んでいる最中はかなり不快で、読後1週間たってもモヤモヤした違和感が消えない。そんな読書になった。
あまり気が進まないのだが、気持ちの整理をかねて文章にしておく。
以下、敬称略です。

低評価には違和感なし最初にはっきりさせておこう。
政治家・小池百合子に対する厳しい評価について、本書に異論はない。

その歩みを多少なりとも見てき

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「語りえないもの」を描いた天才ジョージ秋山 『捨てがたき人々』

「語りえないもの」を描いた天才ジョージ秋山 『捨てがたき人々』

今回は何度か紹介しようと試みては断念してきた作品、『捨てがたき人々』(小学館、幻冬舎)を取りあげる。

ジョージ秋山『捨てがたき人々』 幻冬舎文庫

6月に入り、作者・ジョージ秋山氏が先月亡くなっていたことが明らかになった。この機会に書くしかないだろうと腹を固めた。以下、敬称略で書き進める。

書くのを諦めてきたのは、この作家の作品に正面から向き合うと、「すごい」の先につなぐ言葉が浮かんでこないか

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10億年後を心配する、最も“ぶっ飛んだ“AI論 『LIFE 3.0』

10億年後を心配する、最も“ぶっ飛んだ“AI論 『LIFE 3.0』

まず自分の誤算を白状しておこう。
まさか邦訳が出るとは。しかも、こんなに売れるとは。

『LIFE 3.0』紀伊国屋書店
マックス・テグマーク/著 水谷淳/翻訳

私は本書を2017年に原書で読んだ。刊行直後、駐在先のロンドンの書店で「面展開」されていて、タイトルと表紙に惹かれた「ジャケ買い」だった。ちなみに英語版単行本の表紙も、夜景とタイトルを組み合わせたもので日本語版に近い。

英語なので多少

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今こそ見習うべき「大人」の余裕 『蘇生版 水の上を歩く?酒場でジョーク10番勝負』

今こそ見習うべき「大人」の余裕 『蘇生版 水の上を歩く?酒場でジョーク10番勝負』

本稿は光文社のサイト「本がすき。」に9月6日に寄稿したレビューです。編集部のご厚意でnoteにも転載しています。

この、文豪・開高健と週刊プレイボーイの名物編集長だった島地勝彦氏のジョーク対談は、長年の私の愛読書だ。1989年のオリジナル版を四半世紀前に買い、それ以来、何度となく再読してきた。
最近、復刻版が出ているのを知り、ぜひ、多くの人に知ってもらいたいと本欄でご紹介することにした。

『蘇

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天皇家という家族の実像 『天皇陛下の私生活』

天皇家という家族の実像 『天皇陛下の私生活』

本稿は光文社のサイト「本がすき。」に4月3日に寄稿したレビューです。編集部のご厚意でnoteにも転載しています。もう元号が変わったので、最後だけ少しリライトしています。

半藤一利の「日本のいちばん長い日」など、終戦の年である昭和20年(1945年)の昭和天皇と周辺の言行を記録した読み物はおびただしくある。
本書のユニークさは、その激動の1年を「観察期間」としながら、あえて天皇家という特殊なファミ

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