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「勉強のやり方」を知らない子どもたちに 『東大式節約勉強法』

私事で恐縮だが、著者の布施川天馬さんと私は、年は二回り以上離れているものの、境遇が少し似ている。

家庭が貧しく、塾や予備校に通うお金もなく、かといって自宅で学習する習慣もなく、働きながら大学受験に臨み、地理的・金銭的な制約で「地元の国立大学」に入った。

私は現役で名古屋大学、布施川さんは一浪で東大と「着地」は違っているが、似たようなコースだ。

『東大式節約勉強法』扶桑社 布施川天馬/著

タイトルには「東大式」と「節約」とマーケティングワードが並んでいる。実際、参考書を安く買いそろえて「使い倒す」方法などのノウハウも開陳される。

でも、あえて言おう。そこはこの本の本質ではない。

本書はある意味では平凡で、読む人によっては「わざわざ本にすることか?」と思うかもしれない。
「普通の環境」で勉強して大学に入り、大企業などに就職したような人には、「軽いおさらい」にはなっても、新発見はほぼないのではないだろうか。

それでも私は、「この本を、中学生、高校生のころの自分に読ませてやりたい」と強く思う。

私は「『日本のヒルビリー』だった私」にこう記した。

貧乏であることは、1つの構成要素ではあるが、それだけでヒルビリーになるわけではない。むしろ重要なのは環境だ。具体的には、周囲にロールモデルがなく、コミュニティ内部に人生における広い選択肢を提示するメカニズムがないことが、ヒルビリーをヒルビリーたらしめている。

日本には、「勉強をした方が人生の道が広がる」という事実や、「受験や勉強はどこから手をつけるべきか」という最初の一歩が「見えない」人たちがたくさんいる。
「元ヒルビリー」の私には、それがよく分かる。つい最近も昔の友人から「センター試験って、なんなの」と相談されたばかりだ。

そうした層には普段、光が当たることはない。そもそも本も読まないから、彼らのために「勉強法の本」が書かれることもない。

この本は「悩める受験生たち」ではなく、「そもそも悩み方が分からない受験生たち」にこそ届くべき本だ。
「合格に目標を絞った、最も効率の良い攻略法」を、ここまで「彼ら」の視線の高さに合わせて丁寧に書いた本は、そうそうない。

そこに「本を読まない人に向けて書かれた本」という矛盾があるのは否めない。
多くの「勉強のやり方」が分からない子どもたちが手にとれるよう、高校の図書室や教室に置かれると良いのだが。

おまけ。
こちらは若い方に高井さんから送るエールです。ええこと言うてるなぁ。

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本稿は光文社のサイト「本がすき。」に寄稿したレビューです。編集部のご厚意でnoteにも転載しています。

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