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読書のススメ

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読書感想と創作小説&エッセイ集 読書感想記事はネタバレはしないように、あくまでも自分自身が感じたことを中心にしたもの。 創作ものは私の好みで独断と偏見で選びました。
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2023年8月の記事一覧

[SS]「ハーメルンの笛吹き男」(1378文字)

「ところで、お前は『ハーメルンの笛吹き男』というのを知っているかね?」

その男は急に私に質問をしてきた。

「『ハーメルンの笛吹き男』?。ああ、グリム童話だったかな?」

「童話じゃない。1284年6月26日にドイツの街ハーメルンで起きた正真正銘、本当の事件だ。グリム童話は史実を元に作られたものにすぎん」

「そうだったか。よくそんなことまで知っているんだな、君は」

「博識でなきゃ、泥棒なんて

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『祖父の手紙』# シロクマ文芸部

『祖父の手紙』# シロクマ文芸部

「ヒマワリへ」と書かれた封筒が出てきた。
祖父の葬儀の前に、遺品整理を手伝っていた時だ。

祖父が何十年も使っていた文机があった。
しかし、祖父がその文机に向かっている姿を見たことはない。
それもそのはずだ。
私たちが訪ねた時には、祖父はほとんど私や他の孫の相手をしていたのだから。
だから、文机の存在そのものを意識したこともなかった。

その文机の一番上の引き出しの奥に封筒はあった。
時の流れに少

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心動く時 人には思いもよらない力が湧いてきます・・・

心動く時 人には思いもよらない力が湧いてきます・・・

ここにエコーさんと言う
昔ながらの宿場町に暮らす 80歳になる老女がいます。

いつも置物の様に座り よろずやのお店番をしています。

そうしながら・・・毎日
エコーさんは 長い間ジーッと周りの様子を見ています。
この自然豊かな環境の良い地域が衰退していく様子を・・・!!

エコーさんは・・

この地でこの家で生まれました。

若い時から絵をたくさん描いてきました。

詩や物語もたくさん書いてきま

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ショート: 夏祭り

ショート: 夏祭り

ヒマワリへ水やりをして、
「今年も花火を見なかった」
ヒマワリや花火は、夏の風物詩。
僕の中にある夏が欠けて、秋の訪れを風で知る。

悠馬へLINEを送った際、『夏祭り』に画面が反応し
メッセージやスタンプが霞むような花火の壁紙が
晩夏を楽しめとばかりに広がった。
『夏祭り』と打ち込めば、花火が見られる。

「おめーは
夏祭りの伝達事項を確認したいのか
派手な壁紙が見たくてLINEしてきたのか」

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あの夏休みを覚えているかな

あの夏休みを覚えているかな

ヒマワリへあれだけ憎憎しくモノを言う
同級生の真希を
ヒマワリの画像を見る度に思い出す

「ヒマワリは太陽の方にしか向かない
強い者へ媚びる人は大嫌い」

高校の頃は、陽キャでウェイウェイしていた真希は、家業を継ぐのに大阪へ進学した
その間に何があったのかは、誰も知らない

夏休み。同級生が集まり飲んでいた

どっかにヒマワリ畑があり
今度、何台かの車へ便乗して見に行こう
盛り上がる矢先、真希が目

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〔お話〕あおときいろ 〜夏〜

〔お話〕あおときいろ 〜夏〜

 「一緒に連れてってやんなさい!」

 お母ちゃんに、そう言われたら、もう、連れていくしかない。

 あおは、しぶしぶ、うなずいた。納得はしてなくても。きいろは、笑顔だ。その笑顔が、今日は、憎たらしい。

 待ち合わせ場所の、たばこ屋に着いたら、もっちは、もう来ていた。

 「あお!おっせーぞ。えっ!きいちゃんも一緒?」

 あおは、ふてくされたままだ。もっちは、それで、悟った。

 「あお。児童

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家に帰ろう。 #シロクマ文芸部 〜ただ歩く〜約5400字

「ただ歩く、それだけですよ」
電話の相手が言った。若い女性の声、おそらく20代ぐらい。優しくて丁寧な印象だ。
「わかりました」
そう言って俺は電話を切った。

同級生の連帯保証人になり、300万円の借金を背負ってしまった。そいつとはそれほど仲が良かったわけではないが、まさかこんなことになるとは想像もしなかった。その後奴とは連絡が取れなくなり、代わりに連絡をよこすようになったのは取り立て屋だ。自分の

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【#シロクマ文芸部】歩く男

【#シロクマ文芸部】歩く男

ただ歩く、それだけを守って生きてきた。同じ場所を1mmも違えずに歩き続ける。それがどれだけ大変なことだったか。

そこまで言ってため息をついたのは多田アルク。地球の軸が間違った方向にズレないようにひたすら歩く宿命を授けられた一族だった。

「1mmくらいズレたって」
と胡散臭げに言うと、
「本気で言っているのかい?」
とアルクは目を丸くして驚いた。

地球の軸が崩れてごらん、気候変動が起こるだろ?

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ショート: 未来の日本を守ったのよ

ショート: 未来の日本を守ったのよ

「この話は実話に違いない」
未来の作家が投稿する“letter”で読んだ小説。
肉体を断捨離する発想は、常軌を逸脱し、
とても素人が書いた作品には思えなかった。

左手に握るスマホで、110番する。
私に躊躇はなく、ただ正義のため、
あんな殺人鬼を見過ごすなど、できっこない。

「110番、緊急電話です。
事件ですか? 事故ですか?」

「殺人事件です」

「今、貴女が電話をかけられている場所です

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ペス

ペス

戦争が終わった。お父ちゃんが戦地から帰ってくるかもしれない。本郷区に帰らなきゃ。

疎開先から大慌てで帰ってきたのに。

見知らぬ家族が掘っ立て小屋を建てていた。

「ここは私らの家だよ!」
そう怒鳴ると、出てきた女は後ずさりをした。
このままさっさと退いてもらわないと、と一歩前に踏み出した時。

「なに難癖つけてやがる!」
復員兵とすぐにわかる男が飛び出してきて、
突き飛ばされた。

「なにすん

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ショート:愛してるのタイミング

ショート:愛してるのタイミング

文芸部出身だからか、妙なタイミングで
「愛してる?」
結衣は僕に問いかける。

付き合い始めは
「信じてないわけ?」
僕が突っかかったばかりに痴話喧嘩へなり
結衣がやたらと不機嫌で困った。

映画館でチケットを買う前、カフェの行列
「愛してる?」
結衣からの投げかけには、真剣な眼差しを作り
「愛してる」

結衣の表情は柔和に変化し、言動が寛容になるのを、結衣の不安から脱却させるための魔法の言葉とし

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浅田次郎の「近代史」から戦争を思う

浅田次郎の「近代史」から戦争を思う

 戦後生まれだからこそ「戦争」という現実

自らの自衛隊体験から、発想を飛ばしたファンタジー的ストーリーの中に、浅田氏の戦争に対する思いが表れています。

毎年、特に8月になると戦争の悲惨さや、原爆の実情などをメディアなどで再確認しつつも、現代を生きる私たちには「戦争」というものをどこか別の国、あるいは違う次元の話だと捉えがちです。

ウクライナでの戦争も未だに収束せず続行中なのですが、心のどこか

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【#シロクマ文芸部】なあ、平和って、なんなんだろうな

【#シロクマ文芸部】なあ、平和って、なんなんだろうな

平和とは
正義とは
と自身に問うてみた。

そんなもん、真面目に答えられるか。
そう考え、ふっと笑うと、

「ソンナモン、マジメニコタエラレルカ」
と奇妙な声がした。

ギョッとして前を見るといつの間にか、
焚き火の向こうに男がいた。
俺1人しかいないはずなのに。

奇妙な声音は男から発せられたものだ。
しかも、俺の考えをそのまま口にしている。

妖怪さとりか。

「ヨウカイサトリカ」

ゾッとし

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『いのち喰い 2』 # シロクマ文芸部

『いのち喰い 2』 # シロクマ文芸部

平和とは何か?
この俺に聞くのか。
では、逆にお前に聞こう。
幽霊はいるのか。
あの世はあるのか。
そんなものがあると言うやつの理論はいつもこうだ。
幽霊はいない、あの世はないと言っても、ないことが証明できなければ、あるかもしれないじゃないか、とな。
お前たちの平和も同じだ。
同じ理屈をこねれば、あるかもしれない。
そんな程度のものだ。
平和とは何か?
答えはこうだ。
そんなものは、幽霊と同じだ。

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