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2023年8月の記事一覧
[SS]「ハーメルンの笛吹き男」(1378文字)
「ところで、お前は『ハーメルンの笛吹き男』というのを知っているかね?」
その男は急に私に質問をしてきた。
「『ハーメルンの笛吹き男』?。ああ、グリム童話だったかな?」
「童話じゃない。1284年6月26日にドイツの街ハーメルンで起きた正真正銘、本当の事件だ。グリム童話は史実を元に作られたものにすぎん」
「そうだったか。よくそんなことまで知っているんだな、君は」
「博識でなきゃ、泥棒なんて
『祖父の手紙』# シロクマ文芸部
「ヒマワリへ」と書かれた封筒が出てきた。
祖父の葬儀の前に、遺品整理を手伝っていた時だ。
祖父が何十年も使っていた文机があった。
しかし、祖父がその文机に向かっている姿を見たことはない。
それもそのはずだ。
私たちが訪ねた時には、祖父はほとんど私や他の孫の相手をしていたのだから。
だから、文机の存在そのものを意識したこともなかった。
その文机の一番上の引き出しの奥に封筒はあった。
時の流れに少
〔お話〕あおときいろ 〜夏〜
「一緒に連れてってやんなさい!」
お母ちゃんに、そう言われたら、もう、連れていくしかない。
あおは、しぶしぶ、うなずいた。納得はしてなくても。きいろは、笑顔だ。その笑顔が、今日は、憎たらしい。
待ち合わせ場所の、たばこ屋に着いたら、もっちは、もう来ていた。
「あお!おっせーぞ。えっ!きいちゃんも一緒?」
あおは、ふてくされたままだ。もっちは、それで、悟った。
「あお。児童
家に帰ろう。 #シロクマ文芸部 〜ただ歩く〜約5400字
「ただ歩く、それだけですよ」
電話の相手が言った。若い女性の声、おそらく20代ぐらい。優しくて丁寧な印象だ。
「わかりました」
そう言って俺は電話を切った。
同級生の連帯保証人になり、300万円の借金を背負ってしまった。そいつとはそれほど仲が良かったわけではないが、まさかこんなことになるとは想像もしなかった。その後奴とは連絡が取れなくなり、代わりに連絡をよこすようになったのは取り立て屋だ。自分の
『いのち喰い 2』 # シロクマ文芸部
平和とは何か?
この俺に聞くのか。
では、逆にお前に聞こう。
幽霊はいるのか。
あの世はあるのか。
そんなものがあると言うやつの理論はいつもこうだ。
幽霊はいない、あの世はないと言っても、ないことが証明できなければ、あるかもしれないじゃないか、とな。
お前たちの平和も同じだ。
同じ理屈をこねれば、あるかもしれない。
そんな程度のものだ。
平和とは何か?
答えはこうだ。
そんなものは、幽霊と同じだ。