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【エッセイ】『私の本当』


 亀のように丸く蹲(うずくま)る私の目を盗み見ながら、こっそりと刻を進めていく時計の針。何か後ろめたい事でもあるんやろうか。子供が家へ帰ってくる時間が近づくと心臓の鼓動が早まり胸が苦しくなる。本当の私は、こんなにも心細くて生きづらい人間だー。


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 子供に向かって、毎日ごめんと思って、産まなければ良かったと思う日があるー。子供達は3歳5歳。私は時にメンタルを病み悩まされるアダルトチルドレン。自分の力で大して育てられないのに、何で産んだんだよー…そう自分を責め立てる声が落雷のように何処からともなく心臓を目掛けて墜ちる。もう駄目だ…もう駄目だ…。その声は無論明るい天からは降りない、海底の一番暗くて哀しい部分で鯨の屍と共に棲息している。身体の中で行き場をなくした怒りや哀しみから醸造された特製のマグマは一気に噴き出し、全ての感情を行止まりにする。


ー哀しい苦しい、子宮が泣くー

子宮にこれ以上の負担を架けたくない

どこかで漠然と、そう思っている

子宮とか性とか全部纏めて

嫌いやねん

そうや、逃げてやろうー。


 いつも頑張っているけど、頑張ってきたけど途端にそれができなくなる。脱力して頑張れなくなる。心が挫ける。総てに意味付けして頑張ってきたけど、一つ躓いた途端に物事が立て続けに意味を失う。そうしたら今度こそ自分の番だ、消えてやろう、と心に誓うー。



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 子供は大きな事故もなく元気に育っていてそれだけで感謝すべき、そう大人達は諭(さと)す。ちなみに私は自分のことを大人とも子どもとも思っていない=マージナルマン=。無責任と叱咤されてもいい。 
 「みんな頑張っているから」と大人が子供を諭すあの言葉、生い茂る感情を無視する身の毛もよだつ凶器の様なこの言葉「みんな◯◯だから」。中学生の頃からこんな言葉を聞かされては恨み、私は自分特製のマグマを心の底に練り上げてきてしまった。


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 ここ最近の私は完全に疲れ切り、子どものオムツを右から左へ機械的に変え、右手を上下しては子供の口にご飯を運ぶことしかできない子育てロボットになっていたので生憎このnoteに投稿することが何週間か、できなくなっていた。noteへの【現代詩】の投稿は半年前から私を支えてくれる癒やしとなっていた、のに。

 なんでもかんでもどーでもよくなり、息を吸って吐いて呼吸だけする。マッコウ鯨が脳油を抱き締め海底へ沈殿していくときみたいに極めて密やかに。子育てロボットのフリをしながら、頭の隅で消えてしまいたいと現実逃避し、数日前には夫に向かってはじめてー遺書ーなるものを書いたー。これが=最新の私=ロボットの事情なのだった。

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 17年前中学生特有のイジメ体験から、離人感やヒステリー球、動悸、緊張頭痛、パニック発作を発症してしまったことをはじめに、この症状は図々しくも成長し、今ロボットになってしまった私を舞台に勢を振るう。

特別誰かに意地悪されたというわけでもないし、みんな優しい、それでも、私は時として、悲劇のヒロイン・ロボットとなってぶっ壊れなければ生きて居られないー。不治の病、これが私の生涯の親友なんやろうかー。

夫は私の遺書を見て「♪はじめてーの遺書っ、きみの遺書っ」とキテレツ大百科の“はじめてのチュウ“で替歌を歌っていた。夫は私が発狂する様を今までに何度も見ているのでこの遺書が本当の遺書ではないと分かったらしい。

ーありがたいこったー


当の私は失踪しようと思い立ち遺書を書いてみたものの、書いてみると奮った気持ちが収まって幸いにも今日に至るー。自分も自分で、めでたいやっちゃー。嗚呼、ここに誕生!!遺書療法!!!!
“書く”ことは、たとえそれがー遺書ーだとしてもええねん。始めてみるのが大事ということやねん。教訓めいたこの気持ちをいつまでも持てればいいけどー。

ちなみに、飼い慣らしている親友の、喉元のヒステリー球ちゃん、名をば=コンクリート詰め=。頭の緊迫感やグチャグチャ頭痛、名をば=生ゴミの掃き溜め=。2人共17年来の親友也。意味不明に思われるかもしれないけど、きっと精神症状を体験したことのある人なら共感してくれるだろう。この症状達を私は愛を込めて普段こんなふうに呼んでいるー。



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 こうして、自閉症スペクトラムと不安症状を持ちながらも子育てに奮闘している私の憐れにさえ見える姿をある時、夫がこう喩えたー

“亀が重い荷物を引き摺りながら進んでいるみたい”。

アナウンサーの様に上手な標準語で得意気に言い放った、夫。ーこの平凡すぎる喩え、阿呆らし。普通ならそう思って終わり。だろうけど、皮肉にもうちの家では3ヶ月前から陸ガメを夫の希望で飼いだしたところで(実話)、この喩えは我が家においては他人事とは思えない、リアルでまあまあ気の利いた=私がマイペースに頑張っているということも一応加味された=タイムリーな喩えであった。

子育てが忙しい中、何でまた亀まで飼って、何でまた私がその亀の糞まで拭く羽目になるんだろう、そう愚痴っていたけど、そんな自分の丸ごとを、そのまま亀に喩えられてしまう。嗚呼、これが【私の本当】。

ふと見ると、一生懸命掘った穴の中へ自分の頭をこれでもか、と埋め込んでいる愛らしい陸ガメの姿ー。

「おい、お前、何が嬉しくてそんなこと、しているの。」

数日前、遺書を書いている私の元へ今駆け寄って、同じ言葉をかけてやりたい。

これが、この世から現実逃避しようとしているお前と私の【本当の姿】。


あかきみどりむらさき
2024ねん







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