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ねこのこと②

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ねこのこと
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【エッセイ】うさぎ

【エッセイ】うさぎ

 秋分を幾日か過ぎた夕方に、うさぎが現れた。
 姉から写真とともに「なんかいる」と送られてきた。
 最初は隣の家の馬屋のあたりをうろうろしていたが、そのあとうちのほうに来て、しばらく家のまわりを見てまわり、知らないうちにいなくなったそうだ。山に帰ったらしい。
 毛色は白に少し茶が混じりはじめ、まだらだった。耳は見慣れたペットのうさぎより短い。立ち歩くと、足の長さに違和感を感じるほどだ。
 動画も送

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【エッセイ】一応のめでたし

【エッセイ】一応のめでたし

 姉には「次に動画が送らさってくるときは家出猫が見つかったときだな」と言っておいたが、ニャギが行方不明になって一週間ほどが過ぎ、もう帰ってこないんじゃないかという考えがちらつき始めた。なぜか死んだ犬の夢を見た。

 それから数日して、姉から「やっとお帰りになった」と動画が届いた。ニャムニャムと声を出しながらエサを食べる猫。その頭を「もう行くなよ、行くなよ」と手荒く撫でる姉。後ろから「良かったー帰っ

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【エッセイ】不在

【エッセイ】不在

 ニャギが姿を消して4日が経った。
 日の当たる馬房にも、草切り場にも、お気に入りの桶にもいない。このごろ暖かい日が続いたので、春と勘違いして出掛けたのだろうとのこと。
 母と姉は寂しいと言ってニャギの帰りを待っている。(姉はカボチャを切りながら外を見ていて、包丁で手を切ったらしい)
 そろそろ帰ってくるだろうと思うが、なんとなく不安だ。興味ないふりをしてみるが、実は私だってちゃんと心配しているの

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【エッセイ】正月の前後のこと

【エッセイ】正月の前後のこと

 仕事納めののち、まずもちをついて、それから年末年始に猛烈に雪かきをした。
 あとは、馬入れを手伝ったり、スタックした車を全力で助けたり、外でねこを抱っこしたり、ポテチを食べながらゲームしたりしてすごした。
 つまりはいつもの正月か。
 久しぶりに間近で見る馬は鼻先の毛がひどくみっしりと生えていて、もじゃもじゃだった。触ると、上唇を引き伸ばして、私をかじろうとパクリとやる。
 姉はニャギにかまぼこ

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【エッセイ】褒めてつかわす

【エッセイ】褒めてつかわす

 実家から帰るとき、ニャギが暗がりでうずくまっていた。
 いつもなら顔をこちらに向けるなり立ち上がるなり、なにか反応を示すのだが、顔を地面に向けたまま動かない。
 ヘッドライトでニャギをとらえたまま、車を降りて様子を見に行く。口元から何かが出ているのが見えた。
 たぶん、ネズミのしっぽと足(2本)だった。
 無言でニャギから遠ざかる。
 そのままひー、じゃ、じゃあね!と告げて車で自宅に戻った。

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【エッセイ】ねこ、ネコに寝る

【エッセイ】ねこ、ネコに寝る

 ニャギが変なことを覚えた。
 手押しの一輪車の荷台に載って寝ることを覚え、それがたいそうお気に入りらしい。
 金属がひんやりして、暑いときには気持ちいいのかもしれない。
 とにかく、一輪車を倒して置いてあると鳴いて立て直しを要求する。立て直してやると、いそいそと荷台に載ってごろん、である。
 それはそうと、このごろニャギは夏バテでやせたようだ。

【エッセイ】パーティ

【エッセイ】パーティ

 外に行くと、姉がニャギを膝に乗せて座っていた。母がそれを横に立って見ている。暖かくなって、ニャギは少しやせたみたいだ。
「さ、家に入るか」
 姉が立ち上がってねこを地面に下す。
「あんたは馬屋で勝手にエサ食べて、どっか行きな」
 私たちが歩き出すのに合わせて、ニャギもぬるぬると馬屋に向かって歩いていく。
 私は肌寒いので先に家に向かった。後ろに姉、そのあとに母。
 歩きながら振り返る。等間隔で歩

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【エッセイ】置き物

【エッセイ】置き物

 馬房の日の当たるところで、寝藁に埋もれてニャギが寝ている。丸くなっている。
 それが窓から見えたので「ねこ寝てるよ」と姉に言ったら、姉は「知ってる」と答えた。「だって、私が置いたんだもん」なぜか得意げだ。
 午後になって日が当たらなくなっても、ニャギはしばらくそのまま寝ていた。丸くなってぬくぬくと眠っているから気付かないのだろう。
 そのうち姉によって、仕事の邪魔だとまたどこかに移動させられるの

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【エッセイ】漬物猫

【エッセイ】漬物猫

 ニャギから漬物のにおいがするので、隣の家の漬物小屋でネズミでも狙ってるんだろうと思っていたそうだ。
 それが、数日後に眉間にケンカでつけたような傷が見えはじめた。漬物のにおいは消えない。
 姉が傷を改めたところ、患部から毛が抜け、何やら臭い汁だか膿だかが流れ出てきた。
 漬物臭の原因は、ニャギの額だったというわけだ。
 当のニャギは始終元気で、手当てをする(と言いつつ興味本位で見たいだけの)姉の

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【エッセイ】ねこかわいがり

【エッセイ】ねこかわいがり

 ニャギがとねっこ用の馬服の上に寝て毛まみれにしたので、その上にふかふかの布を拡げてやったのだ、と姉が満足気に言った。ニャギはその寝床に大人しく沈み込み、姉が呼んでも聞こえないふりで眠りに集中している。
 窓のとこに寝てたときはすぐ出てきたのに、今は奥に寝てるから出てくるの遅いわ。

 夕方、母が髪を切りに行くのに外に出たところ、ニャギが外の水栓のところにいた。にゃあ、とえさをねだる。母は時間がな

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【エッセイ】冬じたく

【エッセイ】冬じたく

 ムクムクと太ってゆく。
 毛はみっしりと密度を増し、さらに空気を含んで膨らんでいる。
 顔も四肢もしっぽも、ひとまわり大きくなった。抱き上げるとずしりとくる重さだ。
 冬がくる。ニャギはそのしたくに余念がない。

【エッセイ】2日ぶりの再会

【エッセイ】2日ぶりの再会

 姉から<2日ぶりの再会>と題した動画が送られてきた。
 職場で音を消して見た。
 夕暮れのオレンジの光の中、向こうのほうからニャギが歩いてくる。のそのそ……途中少し急いで、水たまりを越える。カメラも少しニャギに向かっていく。
 何を言っているのか、音が無くてもわかる気がした。
 帰宅してから、音声つきで見た。
 風の音『ぼぼぼ……』
 姉『ニャギー……ニャーギ―――!』
 風の音『ぼぼぼ、』
 

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【エッセイ】朝のお迎え

【エッセイ】朝のお迎え

 目が覚めた。うす明るい。時計を見る。午前4時の少し前。すぐに目を閉じる。
 廊下で母がゴトゴト何かしている。そのあと階段を下りて、裏口の引戸を開けた。
 外に出ると同時に、母が何か言ったようだった。続いてニャギがにゃあ、と鳴くのが聞こえた。母が出てくるのを待っていたようだ。
 あとは連れだって馬屋に行き、ニャギは馬たちより先にエサをもらって朝寝するのだろう。
 目を閉じたまま、並んで歩く母とニャ

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【エッセイ】餌付け

【エッセイ】餌付け

「ニャギいる?」
「今日は出掛けてる」
 午後にそんなやり取りをした。
 そのあと夜ご飯を食べて、薄暗くなる頃に姉が二階の窓から外を見て「あ、ニャギ来てる」と大きな声で言った。(そして自分は足早にトイレに向かった)
 ニャギは自分が観察されているとも知らずに馬屋の角で辺りをうかがいながら座る。姉がトイレのドアをバンと閉めると少し顔を家のほうに向けた。
 わたしはうちの猫に対する作法がわからないので

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