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小説

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#恋愛小説

この世の果て(短編小説 8)

この世の果て(短編小説 8)

《《 今までのあらすじ →3回目の幽体離脱をした真希は、海岸にひっそりと設置されていた電話ボックスで鳴り響く電話のベルに引き寄せられる。試しに電話に出てみると、津波に流され行方不明になった恋人、裕二の声が聞こえた…… 》》

       《 最終回 》

あの世とこの世の狭間。
それは、水平線の彼方にある。
以前、何かの本で読んだ記憶がある。
神秘的な作り話ね、と思ったが、あながち嘘ではないかも

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愛した人 (短編小説 6 )

愛した人 (短編小説 6 )

【 あらすじ → 5年前に亡くなった恋人、隼人がかつて住んでいた住居を美紀が訪れると、隼人そっくりの住人がいた。イヤ、隼人本人に見えた。それとも幽霊なのか? 隼人と一晩を過ごし、お互いの愛を確かめあった。が、翌日ドライブに出かけた海辺で、さよならと言い残したまま、隼人は消えてしまった……】

        《 最終回 》
何だか寒気がした。
美紀は身震いすると同時に目覚めた。
ぼんやりとした意識

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愛した人 (短編小説 5 )

愛した人 (短編小説 5 )

【 あらすじ→ 5年前に亡くなった恋人、隼人がかつて住んでいた住居を訪れると、隼人そっくりの住人がいた。イヤ、隼人本人にしか見えない。亡くなったのは、何かの間違いだったのか? それとも隼人の幽霊なのか?
その後、2人はお互いの愛を確かめ合った。美紀が未来に希望を持ち始めた矢先……。 】

「天気もいいし、海でも見に行こうか」
隼人の提案に、美紀は二つ返事で同意した。

海岸線に沿って、隼人は車を走

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愛した人 (短編小説 4 )

愛した人 (短編小説 4 )

【 あらすじ → 5年前に亡くなった恋人、隼人がかつて住んでいた住居を美紀が訪れると、隼人そっくりの住人がいた。イヤ、隼人本人に見えた。
夢なのか、現実なのか判然としない中で、その後2人は…… 】

隼人は美紀を抱きかかえ、優しく押し倒した。

「もう会えないのかと思ってた。来てくれて嬉しいよ」

「私も、嬉しい……」

愛しさが込み上げてくる。
今まで隼人が夢に何度も現われ、目覚める度に泣いてい

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愛した人(短編小説 3 )

愛した人(短編小説 3 )

(あらすじ → 5年前に亡くなった恋人、隼人が
かつて住んでいた住居を、美紀が訪ねると……。
そこには、隼人そっくりの住人がいた。
イヤ、そっくりというより、隼人本人? に
見えたのだが……)

長い抱擁の後、美紀を抱き締めていた手を緩めると
隼人は言った。
「本当に久しぶりだね」

「うん、そうね……」

(だって、あれからもう5年よ……)

2人はひとまず、ソファーに並んで腰かけた。
ベージュ

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愛した人(短編小説 2)

愛した人(短編小説 2)

(あらすじ→ 5年前に亡くなった恋人、隼人を美紀は未だに忘れられない。かつて隼人が住んでいた住居が空き家になってるのか、既に新しい住人がいるのか、ずっと気になっていた。好奇心を抑えきれず、訪れてみると……。)

心臓がはち切れそうだった。
鼓動が激しさを増して、息苦しい。
予想外の出来事に何だか怖くなり、逃げ出したいと思いながらも、体が固まってしまって動けない。
最早、隼人以外の何者にも見えない男

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愛した人 (短編小説 1)

愛した人 (短編小説 1)

その家の門の前に立つと、妙な違和感があった。
空き家にしてはそう古びた雰囲気がしない。
よく見ると、出窓にかかるレースのカーテンは真新しい白さだ。僅かに開いた窓から吹き込む風を受けて、軽やかに揺れている。

(新しい住人が住んでるのだろうか?)

その家は平屋建てで、玄関は引き戸だ。
グレーの壁は、さほど色褪せてはいない。
ふと、家屋に隣接するガレージに目を向ける。
シャッターが空いていた。中を覗

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イヴの涙 (短編小説 2)

イヴの涙 (短編小説 2)

どれくらい時間が経ったのか、我に返り辺りを見回す。
いったいどこから溢れてくるのか、イルミネーションを見物する人々で、相変わらず通りは混み合っている。
しばらく地べたに座り込んでいたことに、美里は羞恥心を覚えた。まだ、痺れが残る腰をさすりながら
ゆっくりと立ち上がる。
そして、イルミネーションとカップルから目を逸らし、駅の方角へと歩き出した。

アパートに帰宅すると、すぐさまヒーターの前に座り込み

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イヴの涙 (短編小説 1)

イヴの涙 (短編小説 1)

今、けやき並木が一斉に光を放った
ハッとして、立ち止まる。
イルミネーションの点灯の瞬間は、さながら魔法のようだ。
すっかり落葉したけやきが黄金色の発光体と化し、美里は一時目を奪われた。

イルミネーションを見上げている周囲の人々の顔が、黄金色に染まっている。
皆、一様に幸せそうな表情に見えた。
だけど、美里は憂鬱だった。
勤務先が、けやき並木のある通りの近くだから
帰宅する時は、どうしてもここを

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引き裂かれた恋(連載小説9)

引き裂かれた恋(連載小説9)

        《 最終回 》

クリスマス当日、仕事を終えた亜矢は真っ直ぐ帰宅した。途中、幸せそうなカップルを何組か見かけた。

(私、今誰にも愛されてないんだわ……)

そんな感情が込み上げ、一段と寂しさが増した。

帰宅すると、昨日レンタルしてきたDVDを見始めた。海外のアクション映画だ。何も考えず、頭をからっぽにしたかったのだ。
見終わると、結構気分がスッキリしていた。

入浴の準備をする

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引き裂かれた恋(連載小説8)

引き裂かれた恋(連載小説8)

毎朝目覚める度に、亜矢は絶望感に襲われる。
雅人を失った悲しみが、じわじわと押し寄せ
仕事に行く気分になどなれなかった。
それでも、ノロノロと洗顔、着替え、化粧を済ませると出勤した。

亜矢は思うのだった。今後、雅人よりも好きな人に巡り逢うのは難しいのではないかと。

そういえば、一番好きな人とは結婚できない?
というような話しを、どこかで聞いたことがある。
小説か、エッセイに書かれていたような気

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引き裂かれた恋(連載小説7)

引き裂かれた恋(連載小説7)

あと1週間でクリスマスだ。
先日、久しぶりに雅人から電話がかかってきて以来
連絡は途絶えている。
亜矢は希望を無くし、毎日淡々と過ごしていた。
それでも、もしかしたら会いに来るという連絡が入るのではないかと、期待も少しはあった。

とうとう明後日がクリスマスイブ、という日の夜。
ほとんど希望は失いかけていた。でも、もしかしたら? という気持ちもわずかに残っていた。

そろそろ入浴しようかと思った矢

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引き裂かれた恋(連載小説6)

引き裂かれた恋(連載小説6)

11月も半ばを過ぎると、商店街の店先のディスプレイはクリスマスムード一色になる。
人々はウィンドーの前で立ち止まり、マネキンのコーディネートを眺めたり、ブランドの新作バックや
ブーツを楽しそうに眺めている。
亜矢はそんな楽しそうな人々を横目に、足早に通り過ぎる。

クリスマスまで、後2週間。
12月に入ってから、雅人からの電話は途絶えている。10日も音沙汰がないのは、 今までなかった。
こちらから

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引き裂かれた恋 (連載小説 5)

引き裂かれた恋 (連載小説 5)

望む未来をイメージする。
常に、その状態を維持する。
思考は現実化すると聞いたことがある。

亜矢は雅人と家庭を築き上げた光景を頭に思い描く。想像するだけで、満ち足りた気分になる。
それでも時折、不安が芽生える。
そんな時は、雅人と名古屋で一夜を過ごした記憶をたぐり寄せた。あの時の雅人の行動は誠意に溢れていて、2人の未来を確実に思い描くことができた。

次に会えるのはクリスマス。どこかレストランを

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