Yayako|弥也子

ここは四万十川が流れる高原台地、高知県中土佐町大野見。百姓弟子。畑の昼飯日誌。そこにあ…

Yayako|弥也子

ここは四万十川が流れる高原台地、高知県中土佐町大野見。百姓弟子。畑の昼飯日誌。そこにあった生活、ここにある暮らしの記録。

マガジン

  • 喰らう記録

    畑の野菜で作る昼飯の記録。週の半分通う中里自然農園にて。

  • 村の昔の生活史

    昭和43年から続く小さな村の広報誌。ページをめくると大野見の歴史や民話、暮らしぶりが記されている。 そこには歴史の教科書に出てくる偉人など一人もいない。

  • わたしと狩人

    山奥で出会った狩人の話。

記事一覧

固定された記事

失敗と成功の境ってナンだ。

キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン 時計の短長針がてっぺんに重なる時、学校のチャイムと同じ鐘がこの小さな街に鳴り響く。オカワカメの収穫を終えて、…

Yayako|弥也子
1か月前
22

雨の日のホットな過ごし方

思い返せば、私は唐辛子をナメていた。農家の昼飯時、青唐辛子のタバスコ大匙大盛り一杯。トマトリゾットにかけるその挙動に迷いはなかった。それでいて燃えるような口内、…

6

モロッコインゲンとの出合い、その後。

よくわからない野菜との出合いの記録。それでいて来年も、きっとその先も、出合い直し続けていきたいと心をメラメラ燃やしている。 朝八時半、ビーチサンダルから地下足袋…

Yayako|弥也子
2週間前
15

自由の海で息をするための食べ方。

抹茶味のプロテイン、アーモンドミルクにオートミールを一晩漬けたもの。 ふと、高知に移り住む前によく食べていた朝ごはんを思いだした。 それは美味しくて食べていたの…

Yayako|弥也子
1か月前
11

マインドフルネスのすゝめ

モーニングルーティンというものにとても憧れていた私が、田舎の山奥にて、朝の心地よい習慣とそれによって身につけてしまった稀なスキルの話をしよう。 田舎に引っ越して…

Yayako|弥也子
2か月前
22

そなた、人か獣か。

獣は宿る。あなたの中にも、わたしの中にも。 桜がアスファルトを飾る春の日、わたしは初めて猟師と山の中を歩いた。 本業・大工のムツさんは、60代中盤で山奥に一人暮…

Yayako|弥也子
2か月前
11

あなたの面影を消したくて。

当時、私が住んでいたアパートの一室の畳には、手のひらほどの大きさのシミがついていた。 ”心地良い部屋”に最も相応しくないもの、そぞろ不気味なシミ。 友達や知り合…

Yayako|弥也子
2か月前
13

炭焼きという貴族のたしなみ。

これは、今からおよそ100年前に生きた炭焼き職人の話。 昭和53(1978)年の大野見の広報誌に編まれている。 炭焼きの歌 炭焼きは、汗と涙の仕事。山小屋でとまり、…

Yayako|弥也子
5か月前
6

春よ、来い

いただきますをする前の味見ってなんであんなに美味しいんだろう。 寒さ極まる冬に感じる春の暖かさが嬉しいのもそんな類なのかもしれない。 春になったら、夏の猛暑を予…

Yayako|弥也子
6か月前
27

凍てつく新春、田んぼで無駄を愛している

田んぼ仕事は、米を収穫して終わりではない。 秋、米を収穫。冬、稲藁を粉砕して田んぼに還す。 それを土の肥やしとし、また来たる春に備えるのだ。 睦月の冬日和、朝8時…

Yayako|弥也子
6か月前
10

優しくなれと言われて優しくなれるほど優しさは易しくない。

スマホの画面が光り、電話が鳴った。 家の向かいのおばあちゃんからだ。 「野菜あるけどいらん?いっぱいあるき、とっていきー」 翌週、焼いたお菓子を持っていったら、 「…

Yayako|弥也子
7か月前
7

鹿の血を浴びた時、私は山に溶け込んだ

たった今、鹿の体内をどくどくと流れていた血は、私の服と顏に飛び散った。 まだ生暖かった。 あまり嫌な気はしない。 鹿が罠にかかったのは、罠を仕掛けて2か月以上たっ…

Yayako|弥也子
7か月前
5

【イタドリ探訪記②】旬に従うと地に足がつく

〈イタドリ探訪記①の後半。〉 「イタドリとの思い出はある?」 健一「20年ばぁ前の話よね。愛媛の方はイタドリを採って食う習慣がないから、イタドリがあるからゆうて…

Yayako|弥也子
8か月前
7

【イタドリ探訪記①】不味くはないけど美味しすぎもしない。

村は人々の何でもない日々の集積である 「イタドリを持っていくき、それでなんか料理作ってや~」 「かまんで。夕方うちに来いや。」 この二つ返事で【イタドリ探訪記】…

Yayako|弥也子
8か月前
9

変わりゆくかつての村に立って。

人の生き様を保存する 「選挙フェス!」という映画を観た。 2013年7月に行われた参議院選挙に立候補し、落選候補者最多の17万6970票を獲得したミュージシャン・三宅洋平に…

Yayako|弥也子
9か月前
9

塩は「買うもの」だという幻想を壊してみる

塩を作りたくなったただの庶民の塩作り備忘録。 専門家でも職人でもないので悪しからず。 でも塩は、農民でも農民じゃなくても 貴族でも貴族じゃなくても 伯方の塩でも伯方…

Yayako|弥也子
10か月前
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失敗と成功の境ってナンだ。

失敗と成功の境ってナンだ。

キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン

時計の短長針がてっぺんに重なる時、学校のチャイムと同じ鐘がこの小さな街に鳴り響く。オカワカメの収穫を終えて、農園の釜屋(ダイニング)に帰る。

わたしが週の半分通う中里自然農園は、高知県の真ん中より少し西寄りの小さな町に位置する。中土佐町・久礼(くれ)の海に面した小さな集落。
南国土佐という字面に相応しいエメラルドグリーンの海が青空の下に広がる

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雨の日のホットな過ごし方

雨の日のホットな過ごし方

思い返せば、私は唐辛子をナメていた。農家の昼飯時、青唐辛子のタバスコ大匙大盛り一杯。トマトリゾットにかけるその挙動に迷いはなかった。それでいて燃えるような口内、反省は微塵もなかった。

高知県の真ん中より少し西寄りの小さな町、中土佐町・久礼(くれ)の海に面した小さな集落に、私が週の半分通う中里自然農園はある。

昼すぎ、あいにくのにわか雨に降られて午後の畑仕事は中止になった。農園長が昨日作ったと言

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モロッコインゲンとの出合い、その後。

モロッコインゲンとの出合い、その後。

よくわからない野菜との出合いの記録。それでいて来年も、きっとその先も、出合い直し続けていきたいと心をメラメラ燃やしている。

朝八時半、ビーチサンダルから地下足袋に履き替える。親指ソックスも、五本指ソックスもない。普通の靴下の、親指と人差し指の間を無理やり押し込んで、地下足袋を足にはめる。

高知県の真ん中より少し西寄りの小さな町、中土佐町・久礼(くれ)の海に面した小さな集落に、わたしが週の半分通

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自由の海で息をするための食べ方。

自由の海で息をするための食べ方。

抹茶味のプロテイン、アーモンドミルクにオートミールを一晩漬けたもの。

ふと、高知に移り住む前によく食べていた朝ごはんを思いだした。

それは美味しくて食べていたのか、「痩せたい」と刷り込まれた幻想の奴隷的作法だったのか。それでも一日三回、"ヘルシーな食事"を身体に取り込む行為は、自分自身をエンパワーしていた。いつのまにかそんな食事も記憶の霞のなかにおいて来てしまった。

6月11日、朝6時過ぎ。

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マインドフルネスのすゝめ

マインドフルネスのすゝめ

モーニングルーティンというものにとても憧れていた私が、田舎の山奥にて、朝の心地よい習慣とそれによって身につけてしまった稀なスキルの話をしよう。

田舎に引っ越して半月も経っていないうちに、私は小さな畑を始めた。自給自足とまではいかないが、体を動かして自分が食べるための野菜を育てるのは、何とも言えない充足感と安心感に満たされる。

朝6時には畑に向かい、一日の終わりに再び畑に立つ生活が始まった。畑で

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そなた、人か獣か。

そなた、人か獣か。

獣は宿る。あなたの中にも、わたしの中にも。

桜がアスファルトを飾る春の日、わたしは初めて猟師と山の中を歩いた。

本業・大工のムツさんは、60代中盤で山奥に一人暮らし。ここのあたりでは腕の利く猟師らしい。ひょんなことから狩猟を始めた私は、知り合いの紹介でムツさんに教えを乞うことになった。

獣の通り道、微かに残る獣の足跡、残された糞、草木の種類、、、。猟師と歩くと、何気ない里山には、何十匹もの猪

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あなたの面影を消したくて。

あなたの面影を消したくて。

当時、私が住んでいたアパートの一室の畳には、手のひらほどの大きさのシミがついていた。

”心地良い部屋”に最も相応しくないもの、そぞろ不気味なシミ。

友達や知り合いが家を訪れるたび、ちゃぶ台を移動させて隠した。それがどうも不自然な位置にあったので、何かやましいものでも隠しているような気持ちになり、毎度心がむずがゆくなるのだった。

とはいえ、つけたのは他の誰でもない、私なのだが。そのシミには、と

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炭焼きという貴族のたしなみ。

炭焼きという貴族のたしなみ。

これは、今からおよそ100年前に生きた炭焼き職人の話。
昭和53(1978)年の大野見の広報誌に編まれている。

炭焼きの歌

炭焼きは、汗と涙の仕事。山小屋でとまり、夜明けと共に、木をきり、日が暮れてからおく(おく:終わらせる)。そんなに働いても儲からない。 かつてふる里の山あいからは、薄紫の煙が、もうもうとあがっていた、そこには、窯と小屋と炭を焼く、たくましい人々がいた。

雪の日も、風の日も

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春よ、来い

春よ、来い

いただきますをする前の味見ってなんであんなに美味しいんだろう。

寒さ極まる冬に感じる春の暖かさが嬉しいのもそんな類なのかもしれない。
春になったら、夏の猛暑を予感して、暖かさへの期待はどこかに飛んでいくのに。

ここ一週間、春を予感させる暖かさが続いた。
おかげで、春の訪れを待ち望んでいる自分をはっきりと自覚した。
そりゃあ田舎の人が、春になったら山菜採りに行きたくなるのもわかる。

知り合いに

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凍てつく新春、田んぼで無駄を愛している

凍てつく新春、田んぼで無駄を愛している

田んぼ仕事は、米を収穫して終わりではない。
秋、米を収穫。冬、稲藁を粉砕して田んぼに還す。
それを土の肥やしとし、また来たる春に備えるのだ。

睦月の冬日和、朝8時半。
まだ霜が田んぼ一面を覆っている。
何処其処に積まれている、稲藁の山が今日の敵だ。
長靴で踏み込む一歩一歩に霜がこすれる音が後追いする。
山にかくれた太陽はまだ出てこない。

藁を粉砕するのに、押切り(わら切り)という農具を使う。

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優しくなれと言われて優しくなれるほど優しさは易しくない。

優しくなれと言われて優しくなれるほど優しさは易しくない。

スマホの画面が光り、電話が鳴った。
家の向かいのおばあちゃんからだ。
「野菜あるけどいらん?いっぱいあるき、とっていきー」
翌週、焼いたお菓子を持っていったら、
「昔の古いもん好きやろ?うちにいくらかあるき見てかん?」
おっと、お返ししに来たんじゃなかったっけ。

家の前の小さな畑で水菜の種をまいていると、
隣の家のおばあちゃんが現れた。
「この前、サツマイモ置いちょってくれたね。ありがとう。

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鹿の血を浴びた時、私は山に溶け込んだ

鹿の血を浴びた時、私は山に溶け込んだ

たった今、鹿の体内をどくどくと流れていた血は、私の服と顏に飛び散った。
まだ生暖かった。
あまり嫌な気はしない。

鹿が罠にかかったのは、罠を仕掛けて2か月以上たった日のことだった。
そのあいだ、幾度となく「けもの道」を見回った。

「見回る」とは、足跡や糞の硬さ・大きさ、木々に残された泥の跡、山の植生や周辺環境から獣の動向を探ることだ。そうして罠を仕掛ける。
もっと言うと、鹿や猪の行動パターンや

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【イタドリ探訪記②】旬に従うと地に足がつく

【イタドリ探訪記②】旬に従うと地に足がつく

〈イタドリ探訪記①の後半。〉

「イタドリとの思い出はある?」

健一「20年ばぁ前の話よね。愛媛の方はイタドリを採って食う習慣がないから、イタドリがあるからゆうて、愛媛の方へ採り行ってた。ここから1時間ちょっとかけて、軽トラに一杯くらいを年に5回くらい行ったろうかね。」

私「なんでそこまでするの?」

道子「山の中をごそごそ這ってね、採るのがおもしろいの。一か所見つけるとたいてい10本くらいそ

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【イタドリ探訪記①】不味くはないけど美味しすぎもしない。

【イタドリ探訪記①】不味くはないけど美味しすぎもしない。

村は人々の何でもない日々の集積である

「イタドリを持っていくき、それでなんか料理作ってや~」
「かまんで。夕方うちに来いや。」

この二つ返事で【イタドリ探訪記】は始まった。

高知県の郷土食である山菜・イタドリを携えて大野見の村人を訪ね、
それを使った料理を囲みながら、彼らの暮らしや人生の断片を含味する。
そんな図々しい試みを【イタドリ探訪記】と名付けた。

日本の輪郭は、いつも歴史の教科書や

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変わりゆくかつての村に立って。

変わりゆくかつての村に立って。

人の生き様を保存する

「選挙フェス!」という映画を観た。
2013年7月に行われた参議院選挙に立候補し、落選候補者最多の17万6970票を獲得したミュージシャン・三宅洋平に密着したドキュメンタリー映画。

彼は、音楽と演説を融合させた“街頭ライブ型政治演説”を「選挙フェス」と称して全国ツアーを行う前代未聞の選挙活動が、路上に多くの観衆を集めた。

選挙活動という姿を帯びた三宅洋平のエネルギーが、

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塩は「買うもの」だという幻想を壊してみる

塩は「買うもの」だという幻想を壊してみる

塩を作りたくなったただの庶民の塩作り備忘録。
専門家でも職人でもないので悪しからず。
でも塩は、農民でも農民じゃなくても
貴族でも貴族じゃなくても
伯方の塩でも伯方の塩じゃなくても
本当は誰でも作れる。

時間さえあれば。

時短機能や、要約コンテンツや、人力を肩代わりしてくれる家電に溢れてる世界で、原始的な塩作りは、片隅に追いやられるべくして追いやられた非効率極まりない生産活動である。

一縷の

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