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モロッコインゲンとの出合い、その後。

よくわからない野菜との出合いの記録。それでいて来年も、きっとその先も、出合い直し続けていきたいと心をメラメラ燃やしている。

朝八時半、ビーチサンダルから地下足袋に履き替える。親指ソックスも、五本指ソックスもない。普通の靴下の、親指と人差し指の間を無理やり押し込んで、地下足袋を足にはめる。

高知県の真ん中より少し西寄りの小さな町、中土佐町・久礼(くれ)の海に面した小さな集落に、わたしが週の半分通う中里自然農園はある。

朝一番に向かう先は、三週間の収穫時期をまもなく終えるモロッコインゲンの畑である。マメ科インゲンマメ属。さやの幅が広く、平たく、シャキシャキとした食感でほのかに甘い豆。そう、いちおう豆なのだ。

モロッコインゲンというのは、本当によくわからない野菜だ。豆を食べているのか、それを包み込む莢(さや)を食べているのか、どっちだよ!ていうか、この豆のどこがモロッコなんだよ!「扁平足いんげん」とかのほうがしっくりくるだろ!と、ふてぶてしい図体を収穫しながら思っていた。

最後の収穫を終え、ツタの根っこ近くを鎌で切っていく。そのうち枯れ果てて、カラカラに軽くなるのを待つ。1週間ほどしたら片付けやすくなるらしい。

扁平足いんげんを今日はスパイスカレーで食べ収める。

モロッコインゲンの優しい味はカレーに持っていかれているが、それはそれで悪くない。「肉厚なシャキシャキした食感」ってレシピサイトにもよく書かれるけど、豆としては悔しくはないのか。褒められてるの、莢のほうだぞ。

本当に、君はよくわからない野菜だった。3週間の出合いは息をつく間もないくらいあっという間で、揚げたり、茹でたりできなかった。ちなみに、原産はモロッコですらないうえに、発売当初、映画「カサブランカ」が日本で流行っていたからモロッコインゲンになったらしい。しょうもな。

来年はもっと深くいろんな表情の君を知りたい。そうしたらきっと初夏がさらに待ち遠しくなるだろう。待ち焦がれる何かが多ければ多いほど人生は幸せなんじゃないかと思う。しかもモロッコインゲンは、いつまた出会えるかわからないものではなくて、季節の到来とともに手繰り寄せられるものである。


と、書き留めたのは1週間前のことである。
今日、カラカラに枯れ果てた残骸を畑から運び出して焼却した。さらば、モロッコインゲン。

炎が消えてもまだなお、その内側でメラメラと赤く燃えている灰のように、私のモロッコインゲンへのよくわからなさへの情熱もまだ燃えている。

片付けながら
「どうやって食べると美味しい?」
と農園長に訊くと、
「そうね〜まあ、焼いたり茹でたり?」

多分、聞くべき人を間違えた。

今度、中里自然農園の夕飯担当に聞いてみよう。

農園長の妻で夕飯担当・さっこちゃん
クリエイティブな料理はいつもシンプルなのに味わい深くて本当に美味しい


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