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コラム

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徒然なるままに
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記事一覧

櫛の歯が欠けるように~ブラック企業に入社して~

「今月末をもって退職することになりました」という紋切り型の挨拶が、バイブとともに画面上部に現れる。
僕はそのバナーを上に追いやって、流し見していたストーリーズに再度目をやった。
あるべきものがポロポロと欠けていくさまを表した慣用句は「櫛の歯が抜ける」か「櫛の歯が欠ける」のどっちだったっけ。
溜まっていたストーリーズを消化し、無為に流れていくリールを眺めながらふと思った。

「同期が退職する」という

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世界一のタイトルを取った話

世界一のタイトルを取った話

学生証を失くした。
卒業ひと月前、大学の授業もすべて受け終わった二月に学生証を失くした。
中高六年間、大学は当初の予定より一年多く五年間。十一年間の学生生活も間もなくフィナーレを迎えようかというこの時期に、僕は学生証を失くした。
入社予定の会社から諸々の証明書を提出するように言われ自室で財布を開くと、学生証が入っていたはずの空間だけぽっかりと焦茶色の財布の革目が露出している。
憔悴しながら散らかっ

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八王子ウエストゲートパーク〜同窓会の回

八王子ウエストゲートパーク〜同窓会の回

小学校の同窓会に呼ばれた。
成人式の少しあとに開催されて以来なので二年ぶりということになる。いまも八王子に住んでいる連中はたまに会っているらしいが、引っ越してしまった僕は彼らと会う機会も減ってしまった。彼らと会うのも必然的に二年ぶりということになる。

三月上旬には、出席者だけのLINEグループができた。発起人のユウヤを中心に、メンバーは七人しかいなかった。思ったより少数だなと思ったが、よくわから

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俺はぜったいにリストカットをしない

俺はぜったいにリストカットをしない

就活が終わった。
別段いい結果だとも思わないが、落ち着いた今となっては悪い結果だとも思わない。とにかく今は、来年から真っ当に働く社会人になれるのだと少し安心している。

就職浪人を決めた昨年の夏、僕はそんなに焦りを感じていなかった。
志望業界の納得できる企業から内定を貰えなかったら就職浪人しよう。
そう思っていたから、ある程度の覚悟は出来ていたのかもしれない。元々、人を妬んだり羨んだりするタチでも

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「官能小説を書いてみよう」と思い立ったことはあるか

「官能小説を書いてみよう」と思い立ったことはあるか

家族が家にいない時間を見計らい、ソワソワしながらリビングのパソコンの起動ボタンを押す。
ドアの鍵が開く音に知覚過敏になりながらネットサーフィンに乗り出す。
身体のあらゆる感覚を研ぎ澄ませながら、一期一会の「宝物」を探す。

スマホが普及した2020年現在、こんなハイリスクローリターンなスリルを味わう中高生はいるのだろうか。いたとしても、恐らく数は少ないだろう。自室で、学校で、トイレで、風呂で。18

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尻の毛の断捨離

自粛期間が続き、家にいる期間が増えた。外に出る用事といえばたまの運動や買い物、郵便物の投函くらいのもので、家の周囲2km圏内にやんわり軟禁されているような状態が続いている。

古着を買いに下北沢に行くことも、大学の近くのカフェにフラッと入ることもない。思い返してみれば、四月に入って以来飲み屋街もサウナも一度も足を踏み入れていない。
ちょっとした金や莫大な無駄と引き換えに、僕たちは虚無の時間を手に入

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浮気性と幻歯痛

浮気性と幻歯痛

なにはともあれ僕は出不精だ。
なるべく理由なく家から出たくない。よって、病院に行くときはそれなりの気合を入れる必要がある。気合を入れないと通院の予約の電話すらできない。
しかし、健康体であっても病院と関わる機会は多い。インフルエンザの予防接種、歯医者の定期検診、コンタクトレンズを買うための眼科の検査…と、定期的にXデーは訪れる。

いざ病院に行くとなれば、その日は「病院の日」と称して何箇所かの病院

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はじめてフリースタイルラップバトルに出たら知らない世界が広がっていた

はじめてフリースタイルラップバトルに出たら知らない世界が広がっていた

「お前そろそろバトル出てみたら?」
「そうだな〜」

サイファーにも通わず、独学でフリースタイルラップを始めて二年。
友達からフリースタイルラップの大会に出てみたらどうだと薦められた。

仲間内のカラオケや飲み会でラップするだけの状況に飽きつつあった僕にとっても魅力的な誘いではあった。
ただ、これまでは踏ん切りがつかなかった。
知り合いがいるわけでもなく、クラブカルチャーに馴染みがあるわけでもない

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2019年ラジオ備忘録

2019年ラジオ備忘録

あけましておめでとうございます。
2019年もとにかくラジオ漬けの毎日だった。
朝、家を出たらイヤホンでラジオ、大学でも講義中は片耳イヤホンでラジオ、面接に向かう電車でラジオ、家に帰ってからスピーカーでラジオ…と、中学以来変わらない聴取量をキープできた一年だった。
その労力をもう少しでも就活に向けていたら就活留年しなかったのかもしれない。まあいい。

2018年の備忘録はこちら。

昨年と同様に月

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アンタッチャブルと「文脈回収」について

アンタッチャブルと「文脈回収」について

「うわ〜!!
バカ!! 駄目だって、お前! 駄目だってお前マジで!
違う違う! 駄目だって!!
駄目だ… 違う違う!
バカ!! 駄目だってぇ!
違うって!! マジで!?
(中略)
ちょっと待って、お前マジで!
おいおいおいおいおい!
ちょっと待てよ〜!こんな出方あるか!?
(中略)
ちょっとほんとに…、この番組でやんの!?
よっしゃああああ!!!
ありがとうございます!!!」

11月29日放送の

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アメリカ旅行記-2日目-「偽りの$45」

無言の時間は永遠に思えた。僕の目の前の巨大な鏡餅は怪訝そうな表情を浮かべるだけで、何も言葉を発さない。「What should I do?」鏡餅の顔を見上げながら僕は言った。1日目「この中にヘミングウェイはいない」はこちらから

僕…著者。
石川…最近彼女と別れた。こちらでは「タマキン」として登場。性豪。
中村…留学経験あり。「僕」の母親の中では就職留年することになっている。
吹野…人の心がない。

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アメリカ旅行記-1日目-「この中にヘミングウェイはいない」

「あんた、アメリカなんて行くんじゃないわよ」
「え?」
中高の友達と卒業旅行に行く、ということを前々から匂わせていた僕は、事後報告で決定項を母親に伝えた。そのときのアンサーが上の一言だ。切れ味抜群。取り付く島もない。
確かに、母が卒業旅行を後押ししてくれるかは微妙なところだった。そのために外堀を埋めようと先に父に相談して了承を得た。母にもなんとなく卒業旅行があること自体を匂わせて、【僕は旅行に行く

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柔能く剛を制す

梅田駅近くのバス乗降場に降り立つと、むわっとした熱気が僕を包んだ。18時過ぎだというのに太陽の余熱は収まる気配もない。
大阪に着いたらどのラーメン屋に行こう、と10店舗ほどリストアップした中で、僕は福島エリアの2店舗に目星をつけていた。9時間近い長旅は、めぼしいラーメン屋の選定には充分すぎる。

僕が最初に行こうと決めたラーメン屋は福島駅から歩いて行ける距離にある「燃えよ麺助」という店だった。福島

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ROCK IN JAPAN紀行 -予定は未定で-

ROCK IN JAPAN紀行 -予定は未定で-

サマソニ、ロッキン、フジロック、ビバラ、メトロック、アラバキ、ベイキャン、ライジン、ラブシャ、CDJ…。
年々増えつつある大型フェスだが、僕は今までこれらのイベントに参加したことがなかった。出不精と金欠が原因でフェスに行ったことがない、というのは、《音楽に一家言ありますけど?歌詞考察だいすき!》な僕としてはあまりよろしくない。
「だってお前大型フェス行ったことないんでしょ?音楽を語んな」と吐き捨て

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