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和美
2024年5月9日 07:35
腕の痛みで目が覚めた。点滴が入らず、血が逆流している。しばらく管を流れていく私の血液を、ぼんやり見ていた。生への諦め。自分の身体に残された時間くらい、家族が黙っていても何となく分かる。無駄にお金をかけさせていて申し訳ない…。生暖かい管。もうこのままで良いや…。朦朧としていく意識の中、看護師さんの呼び掛けで鈍い頭が少しだけ働いた。「ダメですよ!すぐナースコール押さなきゃ!」
2024年5月5日 23:25
シャボン玉とんだ屋根までとんだ屋根までとんで壊れて消えた風 風吹くなシャボン玉飛ばそう私の耳に入る澄んだ声はまだ幼さが残り、時々私の目の前を透明な丸い玉が飛んできた。私は不思議な物に好奇心が抑えられずに、思わず口を開けて…パクっ。「こら!玲!ダメ!お口に入れちゃダメ!」まだふっくら柔らかい手のひらが、私の口許を触る。私は大人しくされるがままにしている。「紫織。
2024年5月3日 01:19
信号待ちをしている時、結構周りの人を観察したり、自分の中に入っていたり。今日もそんな感じで、青に変わるのを待っていた。ふと視界の端に引っ掛かる人が居た。私の向かい側に立っている20代半ば位の男性。一度気になりだしたら、何故かその彼から目が離せなくなった。陽射しはどんどん高くなり、気温表は33度を表示している。日傘をさしていても、こめかみを伝う汗。信号が青に変わる。私は一歩足
2024年5月1日 07:12
「今日は奈留がずっと食べたいって言ってた、スイーツのお店行くよ」朝起きて、まだぼんやりしてる頭。低血圧だから、尚更直ぐには起き上がれない。しばらくベッドでウトウトしていると、瑠偉が来て覗き込んできた。「無理そう?無理なら、俺が奈留の為に作るよ」いつもの優しい瞳に癒され、やっぱり辛い身体の事を伝えた。瑠偉は本当に嫌な顔も態度も取らない。私の体調を優先してくれる。 けどきっと、急な
2024年4月28日 18:43
「あれ、狐の嫁入りだよ」おばあちゃんはそう言って、慌てて縁側の釣竿に干してあった布団を取り込んだ。「狐の嫁入り?」私はその言葉に、とても惹かれた。狐がこの天気雨の中、お嫁入りする姿を想像して、ドキドキしたのだ。「おばあちゃん、今外に狐のお嫁さんが歩いてるの?」おばあちゃんは笑いながら「諺なんだよ、天気雨の」そう言って、布団を畳に敷き、少し雨に濡れた部分をタオルで叩きながら拭いていた。
2024年4月25日 05:27
いきなり来たメッセージ。そこには、止まった時間を動き出させてくれる、愛があった。初夏が訪れ様としていた。私は精神病院に入院して、もう1年が経つ頃だった。閉鎖病棟ではなかった為、何か必要な時は看護師さんが携帯を渡してくれる。「誰かからメールが来てるみたいだから」穏やかな雰囲気の、大らかな看護師さんは微笑みながら携帯を渡してくれた。確かにメールの表示が出ている。私にメールを送ってく
2024年4月12日 02:43
本当に心から人を愛した事がない。心から、コイツを守りたいと思えた相手がいない。そんな俺が、仕事が忙しく、中々一人暮らしのマンションを片付けられずにいた時、偶々目にした映像。映し出されたモニターには、今流行りの人型ロボット。見た目は人間と見紛う程。カスタムで、自分好みにオーダーした物を配送してくれる。性別も勿論選べる。一通り映像を見て、俺は購入を決めた。一ヶ月後に、それは届いた
2024年3月29日 21:45
コイツ、会った事あるか…?一瞬のデジャヴの後、そいつは無愛想に携帯を向けて「この髪型でお願いしたいんですけど」とオーダーして来た。今時珍しい、ガラケーだった。携帯を手に取り髪型と、彼の髪質、骨格のバランスを見た。まだ若い印象だ。20代後半当たりだろうか。端正な顔立ちは、他の女性客がチラチラ見ている程。「かしこまりました。少しパーマかける感じで?」そう聞くと「俺、元がストレー
2024年3月28日 05:29
腕に増える傷。遂には手首にまで…。切っても切っても、最後までやれない。俺は意気地無しだ。アイツが逝ってから、今日で49日だ…。アイツとの約束守れなかったな…。バイクのキーを片手に家を出た。アイツが自殺してから、俺は職場に居づらくなり辞めた。アイツをいじりといういじめで、自殺に追い込んだのは俺だ。アイツのお袋さんの声が耳に鳴り響いている。それは絶え間なく。アイツは一人息
2024年3月26日 22:59
一人暮らしを始める時に、母が本棚から渡してきた2冊の文庫本。『砂の器』私が時々借りて読んでいた小説だ。母は少し寂しげに笑い「これ瑞佳にあげる」そう言って、私の手のひらに乗せてきた。「良いの?これお母さんの愛読書でしょ?」「良いの。瑞佳の傍に居られる気がするから、持って行って」母の笑顔が泣き顔になる前に、私はありがとうと伝え、バックにしまった。何もかもが初めて。母は頼りない私を心
2024年3月23日 21:59
なぁ、そこのお前ちょっと時間ある?あんなら付き合えよ。いや、そんな時間は取らせねぇ。俺の話を聞いてくれりゃ良い。煙草吸って良いか?悪ぃな。お前は?やっぱな、吸わないよな。お前真面目そうだもんな。お前、今生きてて楽しいか?何かこう、目標とかってあるか?将来こうなりたいとか、なんか夢とか。え?何もない?随分素直な奴だな、ごめんごめん。真顔で、ありません、とか言うからよ…ちょ
2024年3月17日 20:03
いつもその神社の前を通る時、私の掌には汗が出る。帰り道、どうしてもそこを通らないと家に着けない。友達はその前に、道を折れて帰ってしまうから、私は一人で通らなければならない。嫌だな…何でだろう…すごく不安な感じを受ける。昔からこの神社が苦手だった。理由は分からない。おばあちゃんに聞いたら、琴美はもしかしたら霊感があるのかもしれないね、と言われた。おばあちゃんの霊感が強いのは、こ
2024年3月17日 05:18
足をブラブラさせて、眺めてた。高い場所から見る夜景って、こんな綺麗なんだなって。揃えた靴、綺麗に書いたつもりの遺書。誰も気付かない私の存在。今私がこのビルから落ちても、きっと誰も悲しまない。小さなニュースにはなるかもしれない。けどそんなものは、数日もすれば忘れ去られる。誰かの記憶に残る人生だったかな。ふと思った。悲しいけど、私はいつも見下され、貶されバカにされて来た。
2024年3月15日 19:58
ふらっと立ち寄ったBAR。失敗したな、と思ったのは所謂ストリッパーが踊って、男どもにまたがったり、腰を振りながら挑発的なダンスでチップを貰う店だったからだ。俺の趣味じゃない。そう思いオーダーしたばかりのウォッカも飲まず、店を出ようとした時、一人の女から目が離せなくなった。鳥籠に似せたステージで、煌びやかでセクシーな衣装を身に着けた彼女が、俺の瞳を見詰めていた。誘う様な眼差しで、くね