中瀬 光安 (NAKASE Koan)

日本の民主制と政策、たまに人生について。/ 元フリーター、音楽家、公共政策修士 / 職…

中瀬 光安 (NAKASE Koan)

日本の民主制と政策、たまに人生について。/ 元フリーター、音楽家、公共政策修士 / 職業: 政策関係 / 東京在住

記事一覧

世代を焚き付ける唱導者でありたい

個人の生き方や価値観は、生まれ育った時代の趨勢から自由であることはあり得ない。したがって、社会の動態は、そこで暮らす個人の生き方に、しばしば不可逆的な変化をもた…

次なる統治機構改革(2): 政策コミュニティの実情と課題

民主制国家における政策過程は一般に、政党や中央省庁、業界団体、シンクタンク、NPO、地方公共団体、マスメディア、そして有権者などといった多様な政策主体が関与するこ…

私にとっての「誓」: 不可避的な葛藤をいかに処理するか

「誓(うけい)」とは、古事記や日本書紀といった日本神話に現れるモチーフの一つである。ある人が邪心を抱いているかどうか、嘘偽りがあるかどうかなどを確かめるために行…

時代認識と政策について (及び思考することに関する備忘録)

政策は理念を具体化するための道具である政策は何のためのものか。政策を通じて新しい制度を作れば、多くの場合、その制度を使ったり、それに作用される人がいる。企業は税…

新しい個人主義: 中央省庁における集団主義に関する私見

こんな記事を読んだ。 記事の要旨は以下である。 ホワイトカラーの報酬は、専門的なノウハウやスキルを持った優秀な層と、それ以外の「中途半端なホワイトカラー」の層に…

音楽と国家: 社会を変える力について

音楽と国家は、いずれも、経済関係から疎外された幻想性の様式の一つである。両者の明瞭な差異を一つ挙げるとすれば、いずれも幻想性の範疇に属するものであるのに、国家は…

時間性を克服するための他者への作用: 言葉と仕事と子育てについて

私は人と話すことが好きである。人の話を聞くことも好きだが、人の話を聞いたあとは、必ず自分の考えを喋りたくなる。 言葉というものは、それを誰かが受け取った瞬間に、…

春めく時、京の雨に濡れて花咲く 絶えざる傷と光を知る 果てなき時の中 言葉は此処にある 繋がる記憶と交わり 夢、色褪せぬ日々は巡り往き、還る日を待つ 問い立てるまま…

制度と文化(4):統治機構の不可欠性

前稿において、国家の文化を日常的に認知する契機が、制度国家の安定した存立の維持のために不可欠であることを確認した。本稿では、制度国家による安定した統治、すなわち…

制度と文化(3):文化的契機と国家の存立

国家としての個は集合的な認知の共通項において成立する人間は文化によって相対的に自己を定義すると述べた。これと同様、国家も文化でもって他と区別されるものである。こ…

次なる統治機構改革(1)

プロローグ:とある報道について思ったこと先日、こんな報道があった。 https://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/900000986.html 私は「政府が大学授業料無償…

制度と文化(2):現代の国家が抱える非対称性

人間は、直接的には消費の対象とならない事物を作り出すことにおいて特徴付けられる生き物である。こうした営為には、物質面の充足をその主たる目的とするものと、精神面の…

制度と文化(1):現代の国家が持つ両義性

複数の人間が集まり、一定の規範や価値観のもとで行動する単位のことを共同体と呼ぶとすれば、その形態や態様は時代や地域によって多種多様である。例えば、企業や学校とい…

世代を焚き付ける唱導者でありたい

個人の生き方や価値観は、生まれ育った時代の趨勢から自由であることはあり得ない。したがって、社会の動態は、そこで暮らす個人の生き方に、しばしば不可逆的な変化をもたらすのであり、時代が変われば、価値観も当然にして変わる。
価値観とは、ある事象の良し悪しを判断するための物差しである。「美意識」と言い換えてもよい。何が美しいか、何が正しいか、何がオシャレだとされるか。時代が変われば、そういったものも変わる
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次なる統治機構改革(2): 政策コミュニティの実情と課題

次なる統治機構改革(2): 政策コミュニティの実情と課題

民主制国家における政策過程は一般に、政党や中央省庁、業界団体、シンクタンク、NPO、地方公共団体、マスメディア、そして有権者などといった多様な政策主体が関与することによって成り立つ。
政策過程とは、政策が形成され、実施されるまでの一連の過程を指すものであり、単純化すれば以下のように整理できる。

1. 政策課題の提示
2. 政策課題の設定と政策資源の投入量の決定
3. 政策立案
4. 政策決定
5

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私にとっての「誓」: 不可避的な葛藤をいかに処理するか

「誓(うけい)」とは、古事記や日本書紀といった日本神話に現れるモチーフの一つである。ある人が邪心を抱いているかどうか、嘘偽りがあるかどうかなどを確かめるために行われる儀式のようなもので、『もしもAならば、Xが起きる、Aでないならば、Yが起きる』とあらかじめ宣言し、現にそのどちらが起こるかによって、これを判断するという独特な方法が用いられる。
有名なのは、高天原(天上にある神々の国)の支配者である天
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時代認識と政策について (及び思考することに関する備忘録)

時代認識と政策について (及び思考することに関する備忘録)

政策は理念を具体化するための道具である政策は何のためのものか。政策を通じて新しい制度を作れば、多くの場合、その制度を使ったり、それに作用される人がいる。企業は税金を減資とする形で何らかの補助を受けて、新しいビジネスや投資ができる。政府が示した方針や規制のもとで市場が一定の方向に動くことで、新たな市場が作られたり、人々の生活が変わったりする。教育制度を変えて小学校にタブレットを配布すれば、デジタル技

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新しい個人主義: 中央省庁における集団主義に関する私見

新しい個人主義: 中央省庁における集団主義に関する私見

こんな記事を読んだ。

記事の要旨は以下である。

ホワイトカラーの報酬は、専門的なノウハウやスキルを持った優秀な層と、それ以外の「中途半端なホワイトカラー」の層に分かれる形で二極化が進みつつある。

前者の報酬は以前よりも上昇している。グローバル企業との人材確保競争に直面した日本企業が、社外の労働市場の基準に合わせて、以前より高い報酬を設定するようになってきたためである。

後者の報酬は停滞して

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音楽と国家: 社会を変える力について

音楽と国家: 社会を変える力について

音楽と国家は、いずれも、経済関係から疎外された幻想性の様式の一つである。両者の明瞭な差異を一つ挙げるとすれば、いずれも幻想性の範疇に属するものであるのに、国家は現実の人間が構成する経済関係に具体的に作用する力を持つということだろう。
国家は政策という目に見えない道具を使って、その幻想性の範疇を逸脱して、現実に人間の行動を変容させる力を持っている。その力は、国家が独占する物理力、すなわち警察や軍とい

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時間性を克服するための他者への作用: 言葉と仕事と子育てについて

時間性を克服するための他者への作用: 言葉と仕事と子育てについて

私は人と話すことが好きである。人の話を聞くことも好きだが、人の話を聞いたあとは、必ず自分の考えを喋りたくなる。
言葉というものは、それを誰かが受け取った瞬間に、良かれ悪しかれ、それを受け取った他人に何らかの作用を与える。だが、自分が発したその言葉は依然として、自分だけのものである。それは言うなれば、私が生み出した言葉が他者に作用するという働きである。

だが、自分が生産した情報を他者が受け取って、

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春めく時、京の雨に濡れて花咲く
絶えざる傷と光を知る 果てなき時の中
言葉は此処にある 繋がる記憶と交わり
夢、色褪せぬ日々は巡り往き、還る日を待つ
問い立てるまま

春めく時、京の雨に濡れて煌めいた
言葉は此処にある 重なる理由は解けて
夢、覚め止まぬ熱に焼かれては、彷徨い
唯、生かされた僅かな命に
夢は覚めない 煌めくあの日から

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制度と文化(4):統治機構の不可欠性

制度と文化(4):統治機構の不可欠性

前稿において、国家の文化を日常的に認知する契機が、制度国家の安定した存立の維持のために不可欠であることを確認した。本稿では、制度国家による安定した統治、すなわち、一定の領域において、独占的かつ排他的に支配を行う統治機構を安定した形で持つことがなぜ必要なのかについて検討する。

本稿の問題意識本論に入る前に、本稿の問題意識を明らかにしたい。
インターネットの普及とデジタル技術の発達により、膨大な情報

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制度と文化(3):文化的契機と国家の存立

制度と文化(3):文化的契機と国家の存立

国家としての個は集合的な認知の共通項において成立する人間は文化によって相対的に自己を定義すると述べた。これと同様、国家も文化でもって他と区別されるものである。これまでの議論に即せば、文化でもって他の国と区別されるものが、文化国家であると言える。もちろん、国家には人格があるわけではない。国家としての特殊性の根拠となるのは、そこに暮らす人の集合的な認知である。すなわち、ある国の文化を通じて、その国民が

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次なる統治機構改革(1)

次なる統治機構改革(1)

プロローグ:とある報道について思ったこと先日、こんな報道があった。
https://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/900000986.html

私は「政府が大学授業料無償化」という話を何かで読んで、ようやく政府も少子化対策に本腰を入れ始めたか、と思った(なお、私は少子化の背景には経済的な側面以外の要因が大きく働いていると考えており、したがっ

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制度と文化(2):現代の国家が抱える非対称性

制度と文化(2):現代の国家が抱える非対称性

人間は、直接的には消費の対象とならない事物を作り出すことにおいて特徴付けられる生き物である。こうした営為には、物質面の充足をその主たる目的とするものと、精神面の充足をその主たる目的とするものの二種類がある。例えば、農耕や企業活動、政治行政などといったものが前者であり、芸術や学問、言論、宗教などといったものが後者である。前者を「物質的営為」、後者を「精神的営為」と呼ぶこととする。
言うまでもなく、物

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制度と文化(1):現代の国家が持つ両義性

制度と文化(1):現代の国家が持つ両義性

複数の人間が集まり、一定の規範や価値観のもとで行動する単位のことを共同体と呼ぶとすれば、その形態や態様は時代や地域によって多種多様である。例えば、企業や学校といったものは、現代の日本において馴染みの深い共同体の例である。地域社会で活動をする団体や、自治体、あるいは国際機関といった単位も、その共同体の具体的な形態として理解できる。
こうした様々な共同体の形態の中で、現代社会において、他の共同体のあり

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