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【頂を目指した戦士】『躍動感ある攻撃に不可欠な姿勢』~田中雄大~

得点を意識したプレー選択が、チームに躍動感をもたらす。ケガで不在だった2カ月があったからこそ、ゴール前の崩しにおいて、田中雄大が放つ存在感の大きさに気付かされた。

2023シーズン、ファジアーノ岡山の課題はゴール前の崩しだった。自陣からパスをつなぎ、ボールを前進させる。ビルドアップが向上し、主体性をもってバイタルエリアに進入する回数は増加した。しかし、その先に苦戦する。バイタルエリアを固めた相手を、いかに崩すか。スペースがない状況を、いかにこじ開けるか。その際に効果的なのは、1対1で突破するプレー、密集地でも前を向くプレー、狭いスペースに潜り込んでいくプレーだ。シュートを打つ直前に工夫が必要で、特に終盤戦はそれが足りなかったように思う。相手守備ブロックの前でのパス回しに留まり、動きながらパスを受ける選手も少なく、急所を突くプレーが見られなかった。停滞感が漂っていた。組織としてボールを運べていたからこそ、もどかしかった。

チームは「ニアゾーン」を合言葉に、ゴール前の崩しに取り組んでいた。「ニアゾーン」とは、PA奥のスペースで、ポケットとも呼ばれる。崩しの起点になる場所は共有していたが、ニアゾーンに強制力はなく、あくまでも目安のような位置付けだった。振り返れば、瞬間ごとに選手個人が最適なプレーを選び、それを味方と共有していく方向性があったと感じた。だから、同じ絵を描けた時は、滑らかな連係プレーで美しい崩しが炸裂する。同じ絵が描けない時は、互いの意図が合わずにズレが生じてしまう。

一緒にプレーする時間が長ければ、阿吽の呼吸によって、イメージの共有は容易になり、洗練されていくだろう。しかし、今季の岡山は新加入選手が多くピッチに立っていた。プレーの特長やプレー選択の傾向は十人十色で、すり合わせなければならない。相手のことを考える行為で意図を合わせられればベストだが、明確な意思表示があるかないかで難易度が変わってくる。1人の選手が縦に走り抜けることで、ボールをもつ選手はスルーパスの選択肢が浮かび上がるし、それに応じて3人目の選手の動きも決まる。

ゴール前の崩しで、明確に意思表示をする。自らが描くビジョンに味方を巻き込み、攻撃に流動性をもたらす。これにおいて、田中は欠かせない存在だった。

それを強く感じたのは、第29節・ホーム町田戦で決めた得点だ。6分、バイタルエリアで左サイドからのパスを受けると、素早く右サイドに展開。背番号14は歩みを止めずに相手守備ブロックの隙間に潜り込み、河野諒祐の鋭いクロスに合わせてネットを揺らした。

田中が守備陣形を乱した。PA手前にぽっかりと空いたスペースに顔を出すことで、相手SBを引っ張り出し、右サイドに広大なスペースを提供した。また、2タッチ目でボールを離したことにより、相手左SBと入れ替わってPA内に進入できている。パスを受ける場所が絶妙で、その後のプレー選択に一瞬たりとも迷いがなかった。明確なビジョンがあり、最適なプレーを素早く選択する。非常にスムーズだった。

その他の3得点を見返すと、「咄嗟に」「感覚的」という言葉がピタリと当てはまる。第15節・ホーム大宮戦で決めた今季初得点は、本山遥の対角のロングフィードを受けると、ボールのバウンドにうまく合わせるトラップで相手を抜き去った。第26節・ホーム長崎戦では、田部井涼がゴール前に流し入れたボールに勢いよく飛び込んだ。第27節・アウェイ熊本戦の得点は、軽快なターンで寄せてきた相手選手と入れ替わり、GKのタイミングを外すトゥキックでネットを揺らしてみた。

得点を生み出す直接的な要因は、その瞬間の閃きかもしれない。「考えるよりも感じろ」の状態だったと言える。しかし、それは「ゴールに向かってプレーする」という明確な意思があり、それをアクションで表示するからこそ。

今季初得点は、前のスペースにボールを要求するジェスチャーを本山に送った。長崎戦の得点は、PA内の誰よりも早くスタートを切って相手DFの前に入っている。熊本戦の得点は、相手のライン(DF-MF)間にうまく入り込んでパスを引き出した。ハッキリとしたアクションは味方に次のプレーを促し、田中はゴールを重ねた。

約2カ月ぶりの復帰戦となった第39節のアウェイ・山口戦でも、明確な意思表示で味方から「ゴールに向かうプレー」を引き出した。61分、斜め右に下りて本山から縦パスを引き出すと、足首の返しを使ったトラップで相手のプレスを外す。ボールを引き出す動きと反対方向にボールを止めることで相手の逆を突き、中央に切れ込んでいく。相手の前に入ってゴールへ突き進み、前方のルカオにパス。田中はそのままゴールに向かって駆け出す。ルカオのシュートはGKに阻まれるも、PA内に走り込んだ背番号14がこぼれ球に反応した。左足でのシュートは惜しくも相手DFにブロックされたが、ゴール前が混戦状態に。最後はステファン・ムークが押し込み、同点に追い付いた。

田中は前に、ゴールに向かってアクションし続けた。縦パスを引き出す動き、ターン、ドリブル、縦パス、フリーランニング、こぼれ球への反応。ゴールへの強い姿勢が表れた田中のプレー選択に呼応するように、複数の味方もゴールに向かってプレーし、走り出している。チームの攻撃には間違いなく躍動感があった。

来季は名実ともにチームの顔としての活躍に期待が掛かる。2024シーズンに向けた契約更新の発表は、田中と本山の「はるゆうコンビ」から始まった。大卒3年目を迎える彼らがチームを引っ張っていく。契約更新第1号に込められた思いを推測せずにはいられない。

ケガによってルーキーイヤーよりも出場時間は600分(約6試合)短かった。しかし、終わってみれば4得点1アシスト。大卒1年目の5得点1アシストと同等の結果を残している。それでも、満足していない。ケガで離脱した悔しさは言わずもがな、「1年目よりも2年目!」と、より良い成績を残したかったはず。99世代を中心に若手を引っ張る副キャプテンも任され、木山隆之監督からの期待にも応えたかった。

来季は、もっと大きな存在感を放つ。ゴール前の崩しだけでなく、ファジアーノに欠かせない存在になる。フル稼働はもちろん、得点もアシストもキャリアハイを狙う。自らの活躍でチームを勝利に導く。

プロ2年間で9得点2アシストを記録しているものの、まだシティライトスタジアムでのヒーローインタビューはない。来季こそは得点の嬉しさを、勝利の喜びを試合終了直後に聞きたい。愛くるしい笑顔がオーロラビジョンを占領する時を、誰もが待っている。

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