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こころ

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ひとのこころ、見つめてみます。自分のこころから、誰かのこころへ。こころからこころへ伝わるものがあり、こころにあるものが、その人をつくり、世界をつくる。そんな素朴な思いに胸を躍らせ…
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#読書

『宗教と子ども』(毎日新聞取材班・明石書店)

『宗教と子ども』(毎日新聞取材班・明石書店)

当然、と言ってもよいと思う。2022年7月8日の安倍元首相銃撃事件から、毎日新聞社に、ひとつの取材が始まった。
 
宗教とは何か。これを問うことも始まった。特にその狙撃犯が位置しているという「宗教2世」という存在に、世間が関心をもった。次第にその眼差しは、彼らを被害者だという世論を巻き起こしてゆく。そして、子どもに宗教を教えてはいけない、というような風潮が、「無宗教」を自称する人々により、唯一の正

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『「死にたい」と言われたら』(末木新・ちくまプリマー新書)

『「死にたい」と言われたら』(末木新・ちくまプリマー新書)

これは、テーマが重い。サブタイトルが「自殺の心理学」である。いまは「自死」という言い方が広まっており、すでに「自殺」という語が刺激の強すぎる語だと認定されつつある。だが、中高生にこの言葉を突きつけることになる。ちくまプリマー新書は、本来そこをターゲットに据えているからである。恐らく出版社側でも議論があったことだろう。だが、出した。その気概と向き合いたい。
 
著者はもちろん心理学畑の人である。まだ

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芸術や文化が与える力

芸術や文化が与える力

『戦争語彙集』という本が出版された。ウクライナで、戦禍の市民の声を詩人が聞きとった言葉が集められたものである。各方面から支持され、話題に上っている。日本語版では、ロバート・キャンベル氏が訳し、2023年12月に岩波書店から刊行された。だが、本の紹介は、いち早くNHKがすでに8月に大きく取り扱っている。
 
いまその本の紹介をしようとするのではない。その中の、ごくわずかな箇所だけに注目してみようと思

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『現代思想 10 2023 vol.51-12 特集 スピリチュアリティの現在』(青土社)

『現代思想 10 2023 vol.51-12 特集 スピリチュアリティの現在』(青土社)

時折購入する「現代思想」。多くの人が文章を連ねている。ずいぶんと思い切った論調も好きだ。なにより、世の中のメジャーな宣伝では運ばれてこない、だが非常に重要な視点を提供してくれるところが気に入っている。今回も、特集の「スピリチュアリティ」に惹かれて購入したが、執筆者の中には「占星術研究家」なる人もいて、しかもその文章が非常に面白かった。
 
オーソドックスに、スピリチュアリティについての背景や歴史を

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誰のために生きるのか

誰のために生きるのか

『ほんとはこわい「やさしさ社会」』(ちくまプリマー新書・森 真一) を読んでいた。この新書シリーズは、「岩波ジュニア新書」に近いコンセプトをもっている。ティーンズが読みやすいように配慮されている。が、もちろんアダルトが読んでも構うまい。一貫した姿勢で述べ、幾度も繰り返される口調で、誤解なく著者の主張は伝わるものと思われるし、それは大人にとっても分かりやすさという点で同じである。
 
もちろん、こう

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『セラピスト』(最相葉月・新潮文庫)

『セラピスト』(最相葉月・新潮文庫)

執筆の順番としてはこちらが先だが、私は『証し』を先に読んだ。そして、心理学、否心の病という問題に挑んでいた同じ著者の作品に臨んだ。「セラピストとクライアントとの関係性を読み解く」という紹介があったが、この作品のためにも、『証し』の6年という取材に近い、5年という歳月をかけている。じっくりと向き合うその誠実さには敬服の思いしか返せない。
 
河合隼雄と中井久夫との関わりが、その多くの部分を占めている

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『みんなの宗教2世問題』(横道誠編・晶文社)

『みんなの宗教2世問題』(横道誠編・晶文社)

2022年の安倍晋三元首相の殺害事件により、背景にあった統一協会の組織と信者、その家族との関係が、一躍有名になった。それを受けて、信者そのものというよりも、その信仰活動による被害者として逃れられない位置にいる、子どもたちのことが取り沙汰されるようになった。いわゆる「2世」問題である。
 
以前からずっと統一協会問題に関わり、組織の批判と人的救出に尽力してきた弁護士やジャーナリストの声が、もはや他人

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『なぜ君は笑顔でいられたの?』

『なぜ君は笑顔でいられたの?』

(「福本峻平の本」制作委員会・いのちのことば社)

副題に「福本峻平 神と人とに愛されたその生涯」と書かれ、表紙にある写真は、車椅子で喉にチューブを入れた男性の写真がついている。これが福本峻平さんである。
 
とある関連でこの人のことを知った縁で、手に取ることとなった。
 
キリスト者が、困難な環境に置かれた中で、神を信じて乗り越えていった。病にも拘わらず喜びの人生を送り天に召された。このような話

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『天水桶の深みにて』(R.ボーレン/加藤常昭訳/日本基督教団出版局)

『天水桶の深みにて』(R.ボーレン/加藤常昭訳/日本基督教団出版局)

1998年発行の本である。この本についての言及が時折他の本であったので、気になっていた。価格の面で折り合いがつかなかったので手が出なかったが、その値がいくらか下りてきたので、思い切って購入した。
 
知識のない私は、「天水桶」というものをそれまで知らなかった。そもそもどう読めばよいのかさえあやふやであった。「てんすいおけ」、それは江戸時代からあるという防火用水としての水槽であるという。雨水を溜める

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ブルーナと東日本大震災

ブルーナと東日本大震災

ディック・ブルーナ。亡くなったのは2017年。「ミッフィー」の作者として知られるが、福音館書店のシリーズでは「うさこちゃん」として知られる。原語では「ナインチェ」というのだが、「うさちゃん」という感覚なのだそうだ。英語訳からいつしか「ミッフィー」というほうが日本でもメインになってきたようであるが、その辺りの事情が、この本には書いてあった。『ディック・ブルーナ』(森本俊司・文春文庫)である。
 

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『希望のつくり方』(玄田有史・岩波新書)

『希望のつくり方』(玄田有史・岩波新書)

とにかく一冊、「希望」という言葉だけを綴っている。それは、文学者の思いつきではなく、ライフワークとして「希望学」を打ち立てて、地道なフィールドワークも行っている人だ。これは新書とはいえ、ここまでの集大成の観がある。
 
そのために、実例や体験を含め、丁寧に書かれている。最後のまとめは、本書の何頁にこれがあった、と挙げ、またそこを見ることがしやすいように配慮してあった。
 
どうにも閉塞感に包まれて

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『わたしからはじまる』(入江杏・小学館)

『わたしからはじまる』(入江杏・小学館)

題と表紙の雰囲気に誘われて、図書館の新刊棚から手に取った。副題の「悲しみを物語るということ」にも惹かれた。まるで若松英輔さんのような言葉だと思ったら、確かに後から一部その人に触れていた。グリーフケアについての本だと思った。それは必要なことだと思うし、物語るという形にも、心が向いた。
 
ところがいざ開いてみると、大変なことが分かった。この紹介の場でそれを言ってしまってよいのかどうか迷ったが、それを

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クマゼミ

クマゼミ

(2002年8月 #アーカイブ )
 
 その夜私は、JRのローカル線に乗っていました。20%ほどの乗客の一人として、お見合い式の椅子の隅で、『至高聖所』を読んでいました。駅でドアが開いても、乗降客はほとんどありません。
 
 と、音がしました。バチッ、バチ、バチッ……。見上げると、セミが、車内の蛍光灯や天井に、当たっています。ドアから飛びこんだ、珍客でした。
 
 そのあたりを旋回しては、壁に当た

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