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砂肝の本棚

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砂肝が読んだ書籍に関する記事を集めています。
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記事一覧

若林正恭『社会人大学人見知り学部卒業見込』

若林正恭『社会人大学人見知り学部卒業見込』

若林正恭『社会人大学人見知り学部卒業見込』を読了した。面白くもあり心に響くエッセイだった。

この本を読もうと思った明確なきっかけというのは本当に無くて、ただ偶然目が合ったため手に取った。今から振り返って無理やりこじつけるなら、この本が発していた負のオーラに、当時のネガティブな自分が無意識的に引き寄せられたのかもしれない。

このエッセイを読んで、若林さんと僕にはいくつもの共通点があることがわかっ

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「ギフト」 青山美智子|『スピン/spin』 創刊号

「ギフト」 青山美智子|『スピン/spin』 創刊号

このショートショートの「私」は明日から始まる社会人としての生活に不安を感じ、なかなか寝付くことができない。そんな中、気を紛らわせようとして偶然手に取った小学生の頃に読んだ児童書のある言葉から、今感じている不安を乗り越えるささやかな勇気を得る。

小説の言葉に救われたという経験はパッと思い浮かばないのだけれど、物語になら救われたことがある。確かコロナ自粛がちょうど始まった頃だった。僕はその頃も大学か

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『スピン/spin』 創刊号

『スピン/spin』 創刊号

河出書房新社創業140周年記念に創刊された「スピン/spin」を購入した。

他の文芸誌と比べて小ぶりな姿。キュートさも感じさせるシンプルで洗練されたデザイン。表面の手触りはふわふわとしており、少し曲げるとベストな力加減で押し返してくれる。この雑誌のことは前から気になっていたけれど、本屋で実物を手に取った瞬間、「これは買うしかない!」と思った。内容がどうこうよりも、物理的に視覚的に触覚的に相性が良

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短歌と雑感 

短歌と雑感 

恋人の今を形作った人生の転機。そんな重要な出来事が自分とは無関係のところで起こってしまったという一抹の寂しさ。もう自分にはどうすることもできない「その日」への切ない気持ちと、「その日」があったからこそ恋人のことを好きになれたという温かい気持ちに胸がちょっぴり締め付けられる一首。また「その日」をいつにするかで感じ方が色々と変わるのも面白い。「その日」を自分と付き合っている期間に置くなら、自分にとって

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短歌と雑感|その2

短歌と雑感|その2

三八五七七。初句の3文字という異様に少ない文字数にもかかわらず、初めて読んでもそれほど違和感を感じさせないのは、おそらく3つの句点が生み出す休符によるものだろう。この休符を挟みながら読むとちょうど5文字程度を読むぐらいのリズムになり、一呼吸置いてその後の句がスラスラと淀みなく音になっていく。初句の一文字一文字を空間に溶け込ませるような間を組み込み、独特のリズムを作り上げる詠み方は新鮮で面白いと思っ

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志賀直哉「城の崎にて」

志賀直哉「城の崎にて」

来月城崎に行く予定があるので、志賀直哉「城の崎にて」を読み返した。わずか10ページほどの掌編。気が向いた時ササっと読める手軽さが良い。

作品のテーマは,ざっくり言うと「死」について。電車に撥ねられ生死の境を彷徨い、九死に一生を得た主人公が、療養のため城崎を訪れ、その土地で目にした蜂や鼠、イモリなど小さな生き物たちの姿を通して、自身の生と死に思いを馳せるといった内容。

文章の味わいはスッキリとし

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小林秀雄 岡潔「人間の建設」 ~思索と言葉~

小林秀雄 岡潔「人間の建設」 ~思索と言葉~

「人間の建設」を読み返した。小林秀雄と岡潔、文系と理系の天才二人が繰り広げる知的な雑談を収めた対談集で、学問における「情緒」の大切さを説いた内容は、読み返すたびに背筋が伸びる思いがする。この本とは2年ほど前、スケザネさんという書評系Youtuberの方が紹介されている動画を通じて出会った。もうかれこれ5~6回は読んでいるほどの愛読書だ。そして自分の哲学、生き方を作り上げていく上で重要な一冊でもある

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1月に読んだ本たち 詩への誘い

1月に読んだ本たち 詩への誘い

こんにちは、砂肝です。この記事では僕が1月に読んだ本を紹介します。

1月は元日から卒業研究に追われる毎日で、長編小説のように集中力が必要な本を読むだけの時間も余裕もない状態でした。それでも本を、文章を、紙に綴られた言葉を摂取しなければやってられないと思った僕の手は自然と詩の方へと伸びていきました。

1冊目 茨木のり子『詩のこころを読む』

そんな中、新年初読書として手に取った一冊が茨木のり子『

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3月に読了した本の紹介〜後編〜

3月に読了した本の紹介〜後編〜

こんにちは、砂肝です。

前回の記事に引き続き、3月に読了した本との経緯について語りたいと思います。

6. 安部公房『カンガルー・ノート』6冊目は、安部公房『カンガルー・ノート』。

朝起きると脛にかいわれ大根が自生していた男が、診察してもらいに病院を訪れるが、医者によって自走ベットに括り付けられ、そのまま坑道や賽の河原など、冥府を巡る旅をする物語。ブラックユーモアに溢れた安部公房最後の長編。

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3月に読了した本の紹介〜前編〜

3月に読了した本の紹介〜前編〜

こんにちは、砂肝です。

新年度がとうとう始まりましたね。新しい門出のためにも少し立ち返って、3月に読了した本について一言で紹介し、その本を読むに至った経緯を語りたいと思います。本との一期一会を楽しんでもらえるような記事にしました。前編後編と2回に分けて紹介していきます。

1. 岡潔『数学する人生』1冊目は、岡潔『数学する人生』。『情緒』についての著者の思想を思う存分堪能することができる一冊。個

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ショーペンハウアー 著 『読書について』① 《整理された蔵書》

ショーペンハウアー 著 『読書について』① 《整理された蔵書》

こんにちは、砂肝です。

今までに二つほど記事を書いてきたのですが、一つの本を紹介しようとすると、自分の要約力の至らなさに、どうしても文章が長ったらしくなってしまいます(その本に対する熱量があるからこそだとポジティブにも捉えられますが)。

そこで今回の記事からは、色々な方に読んでもらうために、内容を少しコンパクトにしてお届けしようと思っています。具体的にどういう風にしていくのかというと、一冊を一

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フィリップ・K・ディック著『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を読んで 〜書評〜

フィリップ・K・ディック著『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を読んで 〜書評〜

こんにちは、砂肝です。今日は私の大好きな海外SF小説の一つでもあるフィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の魅力を存分に語りたいと思います。(ほんの少しだけネタバレを含みますので、ご注意ください。)

今回が初投稿の記事なのですが、肩肘張らずにありのままの言葉で紹介していきます。

作品概要装丁が黒と黄色を基調としたシックなデザインで、思わず正面を向けて本棚に飾りたくなって

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平野啓一郎 著『私とは何か』を読んで 〜紹介〜

こんにちは、砂肝です。

早速なのですが、皆さんは日常の様々な場面で、「場の空気」に合わせたキャラを演じることで、その場を切り抜けるといった経験をされたことはありますか?

おそらく多くの人が一度はそういった経験をされたことがあるかもしれません。そしてその後に、あれは「本当の自分」ではないんだと思い悩んだこともあるのではないでしょうか?

首尾一貫したウラ・オモテのない自分でいることが理想とされる

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