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【連載小説】なんの変哲もない短編小説を書いてみた3-2
前回のお話はhttps://note.com/sev0504t/n/n601a36b3f86d 真理の家は住宅街の中にあって路地から奥まった旗竿地に建っていた。暗闇の中で外灯の小さな薄紫色が親和的な…
素人がステイホームで人生初めての純文学を書いてみた結果、自分と向き合い生きることを描いた「僕」からむしろ教わった話 ~あとがきにあらすじを添えて~
全16回に分け、ひとつの物語を書き終えることができました。人生最初の私のつたない小説を読んでいただいた方々、発表の場、プラットホームを与えてくれたnoteさんに感謝です。読みにくさもたくさんあったと思いますが、本当にありがとうございました。
10年くらい前から構想だけはしていました。母親を失ったことに何の感情も持てなかった主人公「僕」が、白杖ガールの「彩」と出会い、彼女との対話や交流を通して
【ショートストーリー】43「賽の目」
六角の鉛筆の上の方を削って1から6まで数字を書いた。小学生ではソレは双六に使われたり、単純に出目の大小を争ったりした。そのうち7から12までの目ができたり、極端なヤツは100万っていう途方もない数を鉛筆の側面に書き込んでいたっけ。
中学生になって、ソレはテストの時に運を試す道具だった。選択肢を睨みながら自分の法則のなかにソレを投げ入れた。運がいいとか悪いとかではなくて、そんな小さな所作で運命に抗
【ショートストーリー】42 あの日君の髪がなくなった時、話したことを君は覚えているか
「嘘みたいな本当の話なんだけどね。髪の毛全部無くなっちゃった」
息子に電話でそう言われ、虚を突かれた。
「なんでそうなった?なんの病気だ?病院には行ったのか?」
予想をはるかに違えたその内容に、私は耳と自分の頭を疑った。
「行ったよ」
息子の声は小さく、少し震えているような声だった。
「それで、なんて?」
「原因は、分からないって。ただ、ストレスが関係あるかもしれない、と」
整理がで
さぁ、noteはじめましょうか
外に出れば、真夏の日差しは肌を刺すように照りつけていた。テレビをつければ、連日連夜、東京オリンピックの中継や特集。割って入る感染者数。酔ってしまいそうだった。
秋の風が心地よいと気がついた頃には、マスクなんて外せない日本人を、ワールドシリーズを待ち焦がれるアメリカ人が驚きをもって見つめた。
この間、何があったんだろう?
ぼくが宇宙から帰ってきたらそうつぶやくだろう。
情報に埋もれた期待と不安
【ショートストーリー】37 ロングロングアゴー
だいたい人間の記憶なんてものは曖昧だと思うよ。過去を美化したり、懐古的になって感傷に浸ってみたり、ろくなことはない。え?じゃあ、過去を振り返らないのかだって?そうなだな、ぼくからしてみればいつだって今が最高だと言っていたいよ。でも、どちらかといえば過去が最低だったと言ったほうが楽なのかな。
一番古い記憶ってキミはなんだい?ぼくはふたつあってね。ひとつは暗闇の中に光る自動車のヘッドライトを窓の外か
朝起きたら息子がコンロで火をつけていた話
寝起きと酒酔いは人の判断や認知を鈍らせる。
そんな条件下で、殊有り得ないような光景に本能的な行動をとるし、感情すら揺れていくから困ったもんだ。
でも正直な気持ちはそこにあるのかもしれないけれど……
リビングの西側、三畳の畳スペースで私は眠っていた。
はじめは夢の片隅で聞こえた熱せられた油が跳ねる音だった。そう、まだ珍しい夢だと思っていた。
昨日は確か……また1人リビングで第三のビールを飲んだ
【ショートストーリー】40 君へ
雨が降れば世界が1.5倍繊細に見えた。
聴こえたと言ったほうが正しいかもしれない。鉄の塊が通り過ぎる音の輪郭はいつもより尖っている。雨の音がそれぞれの音に妙な奥行きをもたせた。
足元はどうだろうか。濡れたスニーカーから確実にしみ込んだ雨水をつま先で感じ、けっして気持ちのいいものでないのに、足裏で感じる地面の傾斜と、溝ぶたのなんとも言えない人工的なラインを明瞭な差で感じ取れるのだから不思議だ。
【ショートストーリー】41 なべぶたに口
フェンスを乗り越え、たんぽぽの綿毛に息を吹きかけるだけで良かった。
でも、楽になれそうな気がしたんだ。
「おい、ちょっと待てよ、おい!」
右腕が焼けたように熱くなった。
痛みじゃない。それは熱のようだった。
大学生かな?そう思った。
「何してんだ、危ねえだろ?」
ぼくは何も考えていなかった。思ったより綿毛が翔ばなくて、その時は何だか体よく全部終われそうな気がして線路にいただけだ。
フェンス
【ショートストーリー】39 等間隔
「空はこんなに青いのに、いつになったら私たちは外へ遊びに行けるんだろうね」
リコリスキャンディを口に含んだ君がつぶやく。
「例の伝染病が落ち着いたらかな」
ぼくは何となしに答えてみた。
「ねぇ、自由に外出できるならどこに行ってみたい?」
「そりゃあ、観覧車のあるドライブウェイなんか最高」
「うん、うん。私はね、鴨川を歩いて、洒落たカフェでゆっくり紅茶がいいかな」
「そういえば、君がくれた紅茶
【連載小説】なんの変哲もない短編小説を書いてみた3-2
前回のお話はhttps://note.com/sev0504t/n/n601a36b3f86d
真理の家は住宅街の中にあって路地から奥まった旗竿地に建っていた。暗闇の中で外灯の小さな薄紫色が親和的な光にぼくは見えた。
「お母さんいつも遅いの?」
自転車の鍵をかける真理の背中に語りかけた。
「うん、最近はね、ずっと。新しい彼氏でもできたのかな」
力弱く真理は笑った。冗談を言ったつもりなの