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【ショートストーリー】43「賽の目」

六角の鉛筆の上の方を削って1から6まで数字を書いた。小学生ではソレは双六に使われたり、単純に出目の大小を争ったりした。そのうち7から12までの目ができたり、極端なヤツは100万っていう途方もない数を鉛筆の側面に書き込んでいたっけ。

中学生になって、ソレはテストの時に運を試す道具だった。選択肢を睨みながら自分の法則のなかにソレを投げ入れた。運がいいとか悪いとかではなくて、そんな小さな所作で運命に抗っているような浮遊感と冷めたあの子の眼が綺麗だったことを思い出す。

高校になって、ソレは自在に自分が好んだ側面を出すことができることもあった。神がかった2回転半の力加減を身体に落とし込んで、時には勝負に出た。左耳のピアスを賭けたときは額の裏側から汗が出るようだった。君は笑って賭けにのっておもちゃみたいに笑っていたっけ。

大人になってしまったなんて思わなかった。人生の伴侶さえ、それで決めた。
僕らのこどもができて、泣きながらペットボトルほどのわが子を抱き寄せたとき、ソレは粉々になっていた。

何年もたった今。

息子はソレを転がして、自分のコマを進めている。母親のお腹に時折手をあて、鼓動を感じれば、ソレを宙に投げて何かとてつもないことを祈るように、身構えている。

親になって見つめる自分が、何を図るわけでもなく、何回も何回も自分の世界にソレを投げ入れた。

オシマイ

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